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信用


 どこまで信用していいのかわからない。

というのがイド氏の第一印象であり、今もそれは変わらない。吸血族といっても自力で綽々と生きる天才はあるものらしく、中には魔法使いの歴史に名を残す英傑も存在する。逆に多くの地域では天才でもないと過酷なのが当たり前のような考え方が一般に広まっていて、エルト王国もそういった国のひとつだ。

現代のログラントでは魔法使いを牽引するフーリゼ共和国が吸血族を擁護するようになってから同情的になる風潮も起こり、国や地域を選べるならば酷い差別を受ける事は一応ないらしい。


 ……仙人か、お爺ちゃんか。…年齢は大きい。

 見た目通りのオッサンなら中身は仙人(数百歳)。

 時代的に相当苦労しているに違いない。

 過去に触れるのも失礼な上に理解不能の妖怪。

 だが、外見は個人差が激しい。

 さらにガーディードという異種族だ。

 オッサンではなく、青(少)年の可能性がある。

 つまりお爺ちゃん。地域や少年の反応からも、

 そこまで酷い事はなく一般常識も通じるはず…。

 (狼のガーディードとしては色々あったぽいが。)

自分の悩んでいることが馬鹿馬鹿しいのは、良くわかっている。だが、イド氏からは様々な情報を貰っている。イド氏がどんな人間かというのは、それらの信用性に関わる問題だ。

深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、真相を知りたい気持ちと、(運が良くて)お爺ちゃんと仲良しにならなければならない憂鬱とを天秤に掛ける。ハードルはバカ高い。私は人(特に大人)が苦手、あちらも女子が苦手なわけだから、まず信頼あるコミュニケーションが成り立つ気がしない。それをこちらから必死に越えて行くなんて、恋でもしてんのか、というくらいの暴挙だ。あり得ない。了。即刻御手上げである。

以上が、私の言い訳だ。

正直、イド氏については他にどうしようもない。例え有効な対話が可能であったとしても嘘をつかれたら見破れる気がしないからだ。

 とっとと竜と話して貰おう。それで終わりだ。


 扉の向こうで何かが揺れる。イド氏の顔は狭い隙間に張り付いたまま、下の方から見える細長い尻尾がゆらゆらと動く。その造形に衝撃を受けた。白っぽい毛長のフカフカだったはずの狼の尻尾は、ぎょっとするくらい痛々しいハゲになってしまっていて、短い産毛のようなふわふわがほんのりと覆っている。

 ど……どうして……?

毛が抜け落ちていたのは知っている。おそらく尻尾だろうとは思っていた。しかしこんなにごっそり抜けているなんて思わない。

獣化は魔の現象だから、無から具現するものは魔力であって、魔法のようなものである。獣化を解けば魔法を解くのと同じように、元通りになるはずだ。確かに毛もなくなるだろう。でも聞いた限りではガーディードの尻尾は肉体の一部だ。血と骨と肉と毛であり、実在している。


「……見てくれよこれ。」


隙間からイド氏が話しかけてきた。

 こっちに来たらいいのに。(良かった、服着てた。)


「…………。

 ………偉大な竜よ。呪いは解けたんだな。

 残されたものはもう落ちないんだな。」


「そうですね。」


 あれ?私に話してるみたいな感じだな。

イド氏も何かに気付いたようで、尻尾を下ろすと、顔が見えるくらいには隙間を少し広げた。

 もう、開けたらいいのに。


「……ありがとう。何か礼をしたいくらいだが、

 見ての通りで何も差し上げる物もなくてな。」


「魔女をよろしくお願いします。」


「……何か、高く買ってくれてるのかね?

 少し怖いくらいなんだが。」


「詳しく話しても良いですか?」


「……ああ。いや、それだが、俺の言葉は、

 なんというか、大丈夫なんだな?

 アンタのような存在にも解るんだな?」


「敬意は言葉だけではないでしょう。」


「………心まで識るのか。とんでもないな。

 魔物ですらないだろう、偉大な竜よ。」


「正直なのは良いことかもしれませんが、

 暴くことはお止めなさい。」


「……………失礼した。」


イド氏は仄かに息を吐くと隙間から手を出してようやく扉を開けた。だがやはり部屋からは出て来ない。

 来ないのかよ!面倒くさいな。

 声も遠いしさぁ。聴き取りづらいんだけど。


「魔女の使命を手伝いなさい。

 貴方がたの動きは左右するものです。

 最も大きな危機は回避しました。

 残るものは我々の同胞に任せます。」


「え!?」

しまった。思わず声を上げてしまった。話に割り込むつもりはなかったのだけど。


「……大魔女様はご存知ないようだ。

 俺と…他の誰かもはっきりしない。

 ……ナクタのことかい?」


「少年は知りません。ですが同行するものです。

 私の祝福を受けた魔女が選び取るものに、

 この世界は受け継がれる。」


「………選び取る?俺じゃなかろう?」


「道すがら、ということです。」


「…関わるすべてを指すのか。偉大な竜よ。

 それが正しいなら領主の倅の舘が焼けたのは、

 その最も大きな危機とやらよりは、

 マシな結果だったと言うのかい?」


「その通りです。」


「……信じがたいな。」


「領主の邸宅や官邸であんな事があっては、

 即時開戦となりかねません。

 聖殿であれば大義を背負う。何より、

 聖カランゴールが許さない。そうでしょう?」


「……………そうだな、その中じゃマシな方だ。

 ………よくわからんが、ミロスの企てか?

 俺みたいなのに話してもいいのかね?」


「この時も道すがら、ですよ。

 今を生きることは気楽になさればよろしい。」


「………インチキ言うなよ。

 俺がどうなろうが知ったこっちゃないくせに。

 ……まるで神様みたいなことを言う。」

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