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納得


「あ、ごめん。続き…。」


「もう終わっています。」


「え?」

竜は何をしたのだろう。帯電してもいない。狼の方を見ても特に何も変わった様子はなく辺りは静かだ。ただ、こちらの話は理解されているらしくて、ゆっくり立ち上がると磨かれた石畳に爪の音を立てながら奥の部屋に向かって歩いて行く。器用に扉を開けて中に入ると狼の姿は見えなくなった。

「……さっきの話、本当?」


「嘘だと思うのですか?」


「本当なら、ガーディードの扱いがなんか、

 適当なのって、そのせいかなと思って。」


「さあ。ユイマが納得しているのなら、

 そうなのかもしれません。」


「……………そうだね。それが良くないんだ…。」


 暫く黙ってシリアスに考え事をしていたのに、たまたま目についた空を舞うふわふわの毛がすぐに気になり始める。

 …綺麗…なのに……お爺ちゃんの体毛なんだ…。

わかってる。こういうのが私の駄目なところだ。

「ところで、さっき何したの?」(キリッ)


「落ち着かせただけです。」


「え?そんな、気持ちの問題?」


「勿論違います。魔力の話です。」


「あ、術とかじゃないんだ。……え、じゃ何?

 わかるように教えて欲しいんだけど。」


「呪いというのは、外側には、

 魔力を振り撒く行為です。しかし内側は、

 自らを魔のものに奪われるのです。

 奪われた魔力は、目的があればその通り、

 呪いの具現としてはたらき、多くの場合、

 さらに奪うために辺りに振り撒かれます。

 魔を寄せ、放ち、増幅する事も珍しくない。

 それは巨大であれば流れをつくり、

 波や渦となって周囲に影響してしまうのです。

 魔獣であるガーディードには覿面でしょう。」


「吸血族には病気みたいなものだって言ってた。」


「あり得ることですが、無謀です。

 確かに吸血族と呼ばれる変異は、

 魔力の通じる全てに起こり得る。

 ですが狼はガーディードですよ?」


「……無理してたのかな?」


「正確には、呪いの余波を受けた、

 というところではないですか?」


「……ん?あれ?それって、違うの?」


「全く違います。しかし、

 魔的生物には、放置すれば致命的です。

 呪いの余波を受けるとは、

 魔力の波に巻き込まれることです。

 ヒトとガーディードでは影響が段違いですが、

 体内に流れるもののリズムを狂わされる…。

 例えるなら過呼吸や呼吸困難、あるいは、

 極度の低血圧や高血圧…でしょうか。」


「え…、ライトニングさん詳しいね。」


「我々は繋がっていますからね。」


「ああ…そっか、お仲間から聞いたんだ…。

 てか、じゃあイドさんはただの高血圧なの?」

 (お爺ちゃんといえば高血圧。なんとなく。)


「そんなはずないでしょう。

 原因は内蔵や血管ではありませんから。

 魔力の流れを整えるだけのために、

 大きな力は必要無いのです。

 溺れる者は自身を救えませんが、

 影響を与えるものより上位であればいい。」


「あ、魔法を解く魔法と同じ理屈?

 でもナクタくんのお父さんの呪いの影響は、

 イドさんにも解けたんだよね…。

 強力な呪いって言ってたけど…。」


「イドとは狼のことですね?

 では、術者は狼より格下なのでしょう。」


「格下?強力な呪いが使えるのに?」


「呪い(まじない)や呪いに術者の魔力の質は、

 ほとんど関係ありません。ですが、

 呪いを受けた側には大きく関係します。

 さらに環境も手伝うものです。

 強力というのは、その粘着性を指します。

 呪い(まじない)は最も種類の多い魔法であり、

 呪いはそれに続くものです。それ故に、

 人々は混乱することにもなるのでしょう。」


 ああ…知らないものが無数にあるんだな。

 そうか。すぐに対応出来ないと、

 大した魔法でなくても、

 命を奪うことにもなるのか……。

 怖。呪い、怖ッ。

なんでかユイマはこの系統の魔法に疎いようで、全く情報が出て来ない。考えてみれば、まだ学生なのだし、優秀とはいっても専門でないとそんなものなんだろう。神様でもあるまいし、一人の人間が何でも知ってる訳が無い。


 しかしそれでもミズアドラスにいた魔法使いの全てが呪いを知らない訳が無い。

"この辺り"にしか事件は語られなかった…。つまり伏せられた。さらに真相をすり替えて沈黙を強いられたのでは…。逆にそうでなければ一体何がどうして、こうも食い違うのだ。

 ……イド氏の恐れは正しい。私もそう思う。

その目的など考えたくもないけれど、人を散々な目に合わせて目立つように葬る。しかも、周囲がとばっちりを喰うように。悪意に満ちたやり方は、やっぱり見せしめのように思える。主導したのが何者かはわからない、らしいが。

イド氏は呪いを知っていたんだろうか…。

もしかして術者は大した事ないかも、と。

もしかしたら教えただけで他の誰かにも解くことは出来るのかも、と、考えたのだろうか…。

それとも、やっぱり吸血族には、そんな事を知ることも考えることも、与えられず機会すら無かったのだろうか。

 ……どちらもあり得るけれど……。


 あまりにも遅いから薄暗いドアの向こうを気にして見たら、顔色の悪いやたらでっかいオッサンが細く開けた扉の隙間からこっちを見ている。

 ギャーーーーーー!!!!

と叫びたいのを堪えてヒエッと短く悲鳴を上げた。全身が駆けるように震えて、声を出そうにも心臓が、呼吸が、頭の中が、全くタイミングを合わせられない。いつからそうしていたんだよ!?

 ………!…怖がり屋さんだったっけ…!

 もしかして、竜が怖いのかな。

兵器呼ばわりしていたくらいだから、恐れてはいるはずだ。ていうか、イド氏は人の事言えないだろ。めちゃめちゃ怖いから。本当に。いろんな意味で。

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