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尻尾


 マイヤールさんの退室を見送り、深々と礼をしたところで横に動きがないことに気が付いた。見れば毛まみれの暗黒ジジイは狸寝入りをしている。無視して、何も解っていない私のための解説をナクタ少年にお願いすると、更に容赦無い現実が浮かび上がってきた。


「……ジュナは先月買われましたし、

 今月はユンっていうのが来ましたよ。」


……とナクタ少年が語るのがウズラ亭のお仕事の一つであるらしい。ウズラ亭の他にも小さな寮があって、ママさんが自宅兼寮母をしているそうだ。働ける子供に限るから結果的にはお金になるんだろうけど、必要なものと見なされているみたいだし、悪いと言うなら需要が認められているのが悪いのであって、合法であればマイヤールさんの仕事が非難される謂れはない。多分、代わりになるシステムが無いのだろう。

…法については何より無視しているのが自分の存在(不法入国)なので話に触れるのは勇気がいる…。

エルト王国では王族や貴族が孤児院を経営している。王族の思想やそれに基づく文化的価値観とステータスのためで、出身者のスペックを競いグレードを争う事態になって問題視されていた。厳しいけれど適正であれば子供がお金に変わる事はないし、長く外に連れ出すようなことはしないと聞いている。やはりピンからキリで、怪しいところは寄付という名目でお金を集める中継地だというもっぱらの噂だ。

ナクタ少年は孤児ではない。働きたくて外に出たいだけだ。(どうやら学校も通っているみたいだし)まだ13歳だけど、もう13歳とも考えられてしまう。選択肢にはならないのか、水の竜信仰では学校は造っても孤児院や就労施設は必要としないのか…。

 聖殿に務める事になるんだろうな…。

 魔力や魔法の才能が問われるのかもしれない。

 ……厳しいな……推測でしかないけど。

 詳しく聞いたところで、異世界人は、

 踏み込まないほうがいいかな……。


寝惚けたタヌキジジイを揺すり起こして、ひとまず私達はウズラ亭の酒場の方まで戻ることにして階段を降りていった。


「俺は入るなって言われてるから、

 部屋に帰るよ。」


廊下まで降りたところでボソッとそう告げて細長い猫背を向ける姿が物悲しい空気を醸す。

 そうだね………毛が、ね。……臭いもね……。

 食べるところには良くないよね。

私とナクタ少年はそれを無言で見送った。イド氏がリッカ少女やママさんに出禁をくらうところを想像して、私の恨みもちょっとは晴れた。



 バーカウンターは無人で、奥まっているから足元は少し暗かったけれど、辺りは大きな窓からの日差しで明るく照らされている。ガラスは綺麗に磨かれていて、外を歩く人々の様子もくっきりと見えて健やかだった。朝食の時と同じ席に座り、ようやくひと心地つけて思い切り気が緩む。

「……尻尾って、どうしてるの?」


突然の私の疑問に少年は顔を曇らせて、まるで変な人を見る目で答えた。


「あんまり、見せたくないんですけど…。」


「や、見たいんじゃなくて!

 外見ても、出てる人が少ないから…。」

危ない。更に変態度が上がるところだった。


「あ〜…確かに。女性は結構隠してるか…。

 変な奴に嫌がらせされるらしくて。

 きちんと留めてる人もいるけど、

 俺は見せたくないから巻いてるだけです。」


「へぇ〜〜〜〜。」

自分の意志で巻けるんだ、尻尾……。

 モフモフしてる人とか、フカフカの人とか、

 いるのかなぁ…。ツヤツヤもいいなぁ…。

 思わずニンマリしてしまい、また後悔する。


「ユイマさんて、変わってますよね。

 ……本当に何にも知らないんですね。」


 ぐふっ。

ザックリえぐられた。

言われれば、その通りなんだけどハッキリ言葉にされるとかなり深いダメージがある。

エルト王国の貴族社会に入りさえすれば違うはずだ。ここはユイマの知らない界隈だからそうなるだけで…。


「あ、そうだ。いつ頃出る予定ですか?

 俺、荷物だけ取って来ます。」


「え?今から?」


「ウチ、結構あるんですよ。距離。」


「あ、じゃあ…、お願いします。

 ……違うか、いってらっしゃい、か。」


「………。エルト王国だと普通なんですか?

 そういう…なんか、丁寧なの。」


「あ、いや、私が変わってる。多分。

 ……良く言われるから。…本当に。」


「良く言われてるんだ…。」


ふっ、と少年は笑う。軽く爽やかに抜けていて、自然な感じがいいと思った。境遇を考えると健気にも思えてくる。変な話だ。私は何も知らないのにな…。

フワリと椅子から降りたナクタ少年が、歩き出そうとするところで慌てて顔を上げて振り返った。


「あの、これだけはお願いしたいんですけど、

 イドの呪い解いて貰えるって…。」


そうだった。

「うん、大丈夫…と思う。

 すぐにライトニングさんに話してみる。

 …あの部屋いつまで居ていいかな……。

 イドさんのところって、私だけでも行ける?」


「大丈夫ですよ。今は起きてるから。」


 ……寝てると駄目なんだ…。

「じゃあ、行ってる間に、頼んでおく。」


「はい。ライトニングさんによろしく…。」


 なんかどっかで聞いたフレーズだ。

不意に笑ったのが良くなかったのか、ナクタ少年には驚かれたみたいだった。キミは悪くない。


 さて、大事なところに取り掛からないと…。

タヌキジジイはもう止めておこう。長くて面倒くさいだけだ。時間の無駄。

 呪い…魔物からじゃなかったんだな。

 なんでそんな嘘ついたんだろ。

 吸血族が吸血族にかけた呪いの余波を、

 吸血族であるイド氏が受けた…。

 で、あってる?

 まあ、ライトニングさんには、

 何でも同じかもね。

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