迷惑
最悪のシナリオを想像する。ここは子女を確保して死ぬ迄お金を絞り取ろうとする悪虐非道な組織の事務所だとか、女の子をうまいこと丸め込んで自らせっせと貢がせるつもりで居る悪党共の巣窟だとか。
…騙されている可能性は充分ある。
しかしそれらを踏まえても、イド氏も一緒のこの状況で魔法攻撃される意味はわからない。
「驚いた?」
………………………………本日二回目……。
あの………マジで言ってる?
声の主は勿論イド氏だ。
「いいぞ。」
軽く息をついて足を置いた彫像からヒョイと飛び降りたナクタ少年は、上気した顔にキラキラと目を輝かせて嬉しそうにしている。タツジンの魔法に興奮気味のようだ。信じられないが控えめに言って、はしゃいでいるように見えた。
え?……あの窮地を見て…その顔?
……嘘やろ…流石に引くよ?少年。
「ここのルールだ。
一見さんに例外はない。」
「………自作自演…ですか?」
「ふ。"でなきゃ反転なんか仕掛けない。
相手の力量も解らないのに"。」
「……はは。……そうですよね。」
ホント、その通りですよ。ウフフ…。
ハイハイ完全に騙されました。一見さんは試されるのが当たり前ですか。そうですか。イド氏をとんでもない魔法使いだと思わせるところまでコミコミの演出の可能性すらあるわけですね、ふふ。自分で仕掛けた自動発動の魔法なら、威力もわかってるわけだし、加減も自由。反転なんて余裕ですよね、ふふふ。まぁね、出来れば、ですけど。出来るだけでヤバイのも本当ですけど。こちらは、あまりの事に意識喪失しそうなの解ってます?
「このやり方が一番安全で…その…、
いろんなケースに対応出来るんです。
…スミマセン。」
少年、お前が謝るんかい。
違うだろ。どう考えてもイド氏だろ。
声を掛けられたのに無視したくなる気持ちに勝てなかった。ただでさえ混乱しているところに、ありがた迷惑な謝罪などいらない。目の前のことに集中出来なくなってしまう。
イド氏に悪びれる様子はないのだ。
てか此処にはマイヤールさんに呼ばれて、
話を聞きに来たんですよね?
ここのルールって個人的な面談も対象ですか?
貴方のお客だとかいうのも含めて、
何もかも勝手に決めてません?
必死に頭を回していると文句が湧いてくる。まだ大丈夫。ヨシ。いつもの調子が戻って来ている…。
「じゃ、俺、呼びに行ってきます。」
!?今から呼んでくんの!?
ドアを開けるやいなや逃げ足の速さを思わせるダッシュで駆け出し、少年は消えた。
「ああ…。
…………………………来ないね。
ユイマ嬢の守護者殿は何か御守りでも、
授けておられるのかな?」
!
イド氏は地下に居た時とは話し方も印象も違う。
……甘えて居られないんだ。仕事だから?
「竜を試したんですか?」
「竜……。水の竜と同じだと言えればいいがね、
生憎俺は近寄った事もなくて判断出来ない。
君は守護者殿を含めてのお客さんだ。
危険な方ではないということは、
誰かに証言してもらわないといけない。」
「危険……ああ、まぁ、竜ですから。」
「………。俺はユイマ嬢の資質が…。
魔法使いとして、だが、なんとなく解る。
だが普通のガーディードはわからない。
疑っているわけじゃなくてね。
やはり君達自身が証明してくれないと。」
「?何をですか?」
「まあ、相互的なものだから。
我々を信用してくれているか、だよ。
かなり賭けだったけれど、助かったようだ。」
「……はぁ。」
イマイチよく解らんけど。……ま、いっか。
それよりどうなってるんだ、ここは。
こういうの、いつもの事なの??
日常的に攻撃魔法が飛び交う地帯なんていうのは、あるとしたら戦場だ。ミズアドラスは戦場だったのか。ナクタ少年の様子では特に異常事態とは考えていないようだった。
というか、今気付いたが、ナクタ少年にとっては、これこそが魔法なのではないか。だから見せて欲しいとか、見せてやりたい、なんて事を考えてしまうのでは。
魔法は力……武力………暴力にもなる。
それはその通りなんだけど、
魔法は、魔というものは、
元々は人に従順なものではなくて、
強いとか弱いで語るものではない…んだよ?
明らかに、魔法を目にした少年は顔がワクワクしていた。ちょっと殴りたいと思ったくらいだ。本当にワクワクのウキウキであるのなら、むしろ殴られてでも修正してもらうべきだと思う。
ユイマとは認識が違いすぎる…。
魔法で戦争……そうか、大きな戦争となれば、
戦場には、こういう人達もいるのか。
竜の言っていた事が少し現実味を帯びて感じられた。
ウズラ亭って、やっぱり真っ当ではない所?
それとも怖いことだと解ってないの?
イド氏がいるなら……………あ…。
この人そもそも真っ当とは言えないのか……。
ユイマは知らなかった世界だ。少なくともエルト王国の貴族達の常識にはない。魔法をそのように使えると知ってはいても危険過ぎて使わない。
現代世界の感覚で言うと、包丁やピックなんかと似ている。イロイロと便利に使えるからといって、無闇に振り回すものではないのだ。だって危ないから。当たり前だけど。
魔というものは、呼び合い引き合い影響しあう。
完全なる制御は偉大な魔女すら請け負えない。
そういう何か、なのだ。
誰だって好き好んで傷なんか負いたくないし、下手したら命が奪われる。
それをわからない奴らなんか……。
…………………。
あれ?なんだろうこの考え方…。
ユイマは常識だと思っている。エルト王国貴族の多くがそうなのか、ユイマ個人の思想なのかは判別が出来ないが……私には…。
記憶を辿れば構築出来るのかもしれない。しかし今は、言葉通りの世界が想像出来ない。どういう意味なのか咄嗟には解らなかったのだ。
"それをわからない奴らなんか……、
地を這うように生きるしかない。
喰い合って自滅するのが相応しい。
獣並みの知性しか無い野蛮な連中は、
同じ人ではないのだから。"




