生態
私はまだ何も返事してませんけど?
などとは、聞いていなかった以上とても言いにくいから、とりあえず待ってもらいたくて保留の言い訳を探すと丁度いいのが見つかった。
「けど、ホラ、魔法を見せるって言ってた、
ウィノくんにまだ会えてないよ、私。」
これは予想以上にいい効果があったようで、緊張気味だったナクタ少年はケロリと屈託ない顔に戻って、動きを止めた。
「そうだ、あいつには見せてやらないと!」
「……イドさんのほうがスゴイと思うよ?」
「イドは、魔法は見世物じゃないとか言って、
全然見せてくれないんですよ。」
「ああ、そうなんだ。…そうだね。」
そりゃそうだよ。本来は見世物じゃない。
座ったまま上目遣いに見てやると、イド氏はうつむき加減でポリポリと頭を掻いていた。
「いやね、彫刻をしてみせたのも俺なんだ。
魔法はマズイと思ってね。
ナクタは何にでも興味を持ってしまって、
俺なんかよりずっと器用なんだよ。」
別に、興味を持つのは自由にしてやったらいいじゃん。と思う私は浅はかなんだろうか。
ウズラ亭に上がる為に着替えが必要だと言って奥の部屋に一旦引き籠もったイド氏は、次に出てきた時には確かに着替えていて、クタクタで丈の足りない茶色のローブが、何かの獣の毛の付着が目立ってしまっている短めの黒のフード付きローブに変わっていた。獣の毛はおそらく黒色だから目立ってしまっただけで、今まで着ていた服にも付いていたのではないだろうか。
………何か飼ってる?
それとも、ガーディードだから?
獣化って、毛が生えるの?
エルト王国にも獣人はいるのだが、ガーディードというのはユイマの知識では生態がよくわからない。社会的に異質で、魔と関係が深いとされる吸血族の情報はびっくりするほど持っているのに。けど、わからなくはない。精霊魔法学校に通うユイマの世界は魔法中心で、そのために知識が偏っている可能性もあるのかな、と考えた。自分も、なんとなく思い当たるのだ。
「さて、行こうか。
ここから一緒のお客さんは初めてだ。」
イド氏は準備が整ったようだ。
ナクタ少年も大事で大変な話をしていたはずなのに、もう何でもない顔をしていて拍子抜けしてしまう。やはり彼には私から見れば驚異的なメンタルの強さを感じる。歳下といえ、恐ろしい子…!
反面、私はグッダグダである。
結局、断り切れないまま話は終わってしまった。
ウィノくんとやらが何かしらのアクションを起こしてくれない限り決定事項となってしまうのか。
……話が重すぎて言えなかったけど、
13歳の男子と旅に出るのは、あまりにも、
個人的に無理が…、能力の限界で気分が……。
てか、小学生だと思ってたからね!?
中学生はダメだろ!!
ガーディードだかなんだか知らんけど、
こっちはユイマの、
他人の身体を預かってんだよ!?
……ナクタ少年を疑う訳では無いけどさぁ。
だいたい生粋のぼっちをナメないで欲しい。自分大好きなだけでぼっちやってるとでも思ってんのか!子供相手なら何とかなるはずと自分に言い聞かせて必死でやってるんだよ!案内役がいないと不安だから少年を頼っていたわけであって、長いお付き合い(?)になるなんて思わないし!そんな、一番面倒くさい(恥ずかしい)お年頃の、中学生男子やらと仲良く旅なんか出来るかよ!そりゃまあ、エモさ(青春ともいう)と下心で生きてる高校生よりはマシだけれども!!
…あ、でも、現代世界の見た目じゃないから。
ユイマならモテるかな…。
…それはともかく。何をおいても独りは不安だ。とんでもない事にも遭遇したばかりだ。こんな何もかも未知の場所では、いくら竜を連れているといっても誰か居てくれるに越したことはない。誰でもいいから、と思うもののやっぱり良くはない。
怖い。けど無理だ。
もう息は詰まるし目の焦点は合わずに泳いで死んだ魚と化している自覚がある。胃の辺りが拗られるようで気分が悪い。
……何とかなる未来が視えない。
……何とかなる魔法ないかな。
……ダメだ。混乱して何考えてんのか、
自分でもワケわからなくなってきた。
ライトニングさんは竜だから、
人外だから何とかなってるけど……。
どうしたらいいんだ……。この後に会う予定のマイヤールさんかウィノくんが代わりを引き受けてくれるとか、そういう……超展開ないかな。
……もう、賭けるしかない…。
マイヤール金融と…、
ウィノくんとやらに……!
詰まるところ、ハッキリ言えない自分のせいで自分を追い詰めて最後はギャンブル。行き当たりばったりの自分の悪いところが凝縮されて招いた憂鬱な展開に孤独と自己嫌悪を味わう結果となったのだった。
マジで自分の人生はクラクラ目眩がするばかり。




