過去
イド氏はチラチラとナクタ少年に視線を送り、唆す素振りを隠さない。
わかってきた。
焚き付けてるんだ。あからさまに。
ナクタ少年も困っていたくらいだ。普段のイド氏を知らない私は、まるっきり、嘘か本当かわからない。
「実のところね、ナクタは自分のことになると、
鈍いというか、何と言おうか、後回しになる。
心配でね。あれだ、さっきも言ったが、
なかなか決められないんじゃないかってね。
もう聞いているかな?わからないが、
なあ、お前さん彫刻家になるんだろ?
むしろいい機会だぜ?
いずれここを出るとは言ってたじゃないか。」
「俺は、そうだけど。
…イドが何処かに行くなんてのは、
……無いと思ってた………。」
そうだろうな。不安だろう。
吸血族の感覚で旅に出る、なんて言ったら、
次があるとは限らないんじゃないか、
誰でもそう考える…。
「はは。どうもとっ散らかって纏まらないな。
人が相手の会話は加減がわからないんだ。
どうしたものかね。
俺は昔話をしたかっただけだ。
お前にも言っておかなきゃならなかったし、
ユイマ嬢には知っておいて欲しかったんだよ。
わざわざ此処まで連れて来るってことは、
相当信頼しているからだろう?」
「……雷の竜だよ?本物だって、あの人は。
そうでなきゃ……イドも話してみたら解る。
そのライトニングさんが、確かに大魔女だと、
認めてたのがユイマさんだからね。」
うん、やっぱり。わかってたけど、
私ではなくてライトニングさんを信じてるね。
まぁね。そうなるよね。
「……失礼ながら大魔女様にはね、
好き勝手騙る輩が絶えないんだよ。」
イド氏が補足してくれる。
「ミズアドラスでわざわざそれをすることが、
どれだけ愚かな事か解っていないのがね、
観光客相手におかしな話を売りつけては、
金を巻き上げているというんだ。」
「……それですか。
エンさんという人に、間違われました。」
「ああ。成程、仕方ないね。
エンさんはそれが平常通りだ。
あの人はとにかくまずは悪口を言わないと、
話し相手にならないんだよ。
なんだろうね。多分エンさんの中では、
人という概念が悪で出来ているんだろうね。」
冗談まじりに薄く笑いながら話す表情からは、病んでいるだけではない人柄も伺える。本来は結構気の強い毒舌家なのかもしれない。
逆に、おしゃべりな所は怪しい気がする。上手く言えないが、好きでしゃべってるんじゃないなと、普通そうはならんやろ、と感じる。上手く言えないが。
「ユイマ嬢には押し付けがましいだけだろうが、
話を聞いてくれてよかった。
この子の近くで魔法に関心があるのは、
同じく子供でね。
どうも人徳がないんだ俺は。はは。
本当にね。来てくれて、ありがとう。
こうして誰かに事実を伝える事だけでも、
何もしないよりマシに思えるんだよ。」
「何かしたいと思うんですね。スゴイですよ。」
「したところで変わらないがね。
何もしなかった過去は変えられない。」
………………………………。
……………………そう…なんだ。
イドさんは、何もしなかった…。
ナクタ少年の父親は助けたけど、
それ以外は……何も、しなかった……のか。
……………。
けど……………私には責められない。
死人だと、いないのだと自分で言う人だ。
それに、そんな事しても…。
「やり返さなかったのなら、マトモだよ。」
ナクタ少年がフォローに入ったが、イド氏はまた、静かに微笑んだだけだった。




