提案
ユイマが聞いた話では、吸血族は狩りが得意ではないらしい。血の匂いが染み付くからだという説がある。何だか矛盾を感じるけれど、元々の種族の生活圏で生きる道を選ぶ理由として挙げられる。食糧に家畜が必要になるからだ。動物を飼うことが苦手とは聞かないから畜産家を営んでいる人は結構いたりするのだろうか。
吸血族への理解は場所によって全然違うし、
落ち着いて居られるなら、
動かない方が良いんだろうな。
イド氏は、生まれた所は悪く無かったのだろう。強力な魔法使いになれるのは、教育されるか師匠が身近にいた時にほとんど限られる。極々稀に天才がいる可能性も否定はしないけれど。
生来の強大な魔力は諸刃の剣だ。吸血族には使い熟せないまま捨てられて、そのまま自らの魔力に侵され我を失い自殺する人もいたという。魔力が魔物や魔獣を呼んで殺されてしまったり、それらを逃れても、社会から離れて生きる人は割合として決して少なくなかったのだそうだ。交渉して取り引き出来ればまだ良い方で、地域によってはそれも叶わず泥棒をはたらく人もいた為に周囲との悪循環が起こって厄介がられていたという。
昔話と聞いているけど、今もそんな人達が居たとしてもおかしくはないし、実際有り得ると思う。
「出てくの?ここ。」
戸惑いながら確かめるナクタ少年は気丈ではあるけれど、後悔が滲んでいるように見える。自分でも私のせいだと思ってしまっているから、そう見えるだけだろうか…。
「ん?…やってみるがね。
どうだろう、俺に出来るかな。
女将さんが許してくれるかわからん。
俺にはそこが一番の難関だ。
すぐに金になる話でもないしな。」
…マイヤールさんて、そういう人なんだ。
「無理じゃない?」
…そんなに…お金大好きなんだ。
「かもしれない。困ったな。
まぁ、そういう事なんだよ、ユイマ嬢。
世話になったからね。
雇い主が美味い話だと思ってくれるのを、
願うしか無いんだ、俺はね。」
ん?え?…どういうこと?
イドさん程の魔法使いなら、
その気になれば逃げられるよね?
おそらく自分で造った地下室だろう。いろんな事情があるのだろうが、自分で入っているだけのはず。何かしら筋を通して行きたい、みたいなことか。
「俺の事もナクタの事も、
言ってみれば、どうでもいいことだよ。
ユイマ嬢にはね。これは大事な事だよ。
こういうのは、流されちゃいけない。
俺もそんな人物では心配になるしね。
だいたい俺の話なんか、
今更確かめようもないだろう。
信じるも信じないも自由なわけだ。」
それは、その通りなんだけど…わかってて話したんだな。なんでだろ…。
それよりも今は、さっきの言葉が引っ掛かる。
美味い話って、私の事かな。
私を連れて来たことが、マイヤール金融(仮)に、
プラスになると判断されれば、
イド氏は自由となるわけかな?
…なんでかはわかんないけど。
ちょっと思ってた状況と違っていた。私はもしかすると、最初からそういう理由で連れて来られていたという可能性も考えられる。ナクタ少年の思惑とは別に、元を辿ればイド氏の指示で、つまり何もかも計算通り、…ってこと?
魔法使いとして使えると思ってもらえたら、
……まさか私をイド氏の後任に…!?
なわけないか。イド氏はむしろ、
ナクタ少年をどうのって…。
少年の方に目を遣ると珍しく俯いている。先程からやはり何か考えているのか、言葉少なだ。
「…イド、どこまで本気で言ってる?
俺を逃がすって何?
俺のせいで外に行けないないとか、何それ。」
「何それも何も、俺の事だよ。
お前がどう思ってるか知らないが、
俺が心配性だという話だ。治らない性分だよ。
わかってる。お前の事はお前の事。
俺の事は俺の事だ。間違えてないはずだぜ?
…あ、いや、これはただの提案だ、ユイマ嬢。
君は此処に留まるわけじゃないだろう?」
「え?あ、はい…そうですね。多分。」
「そうだろう。そうだと思ったよ。
いや、まだ、昨日の今日でね、
俺も良くはわかってないんだが。
けどね、出た方が良い。早いほうがいい。
そのついでにという、まあ、思いつきさ。」
「……知ってるんですね。」
「とんでもない、知らないよ。
あまりに情報が少ない。何もわからんさ。
いやいや、立ち入るつもりはないんだが。
しかしね……、
うん、そうだな、二人共。
一度にイロイロ話し過ぎた。
いや、ユイマ嬢にはすまないね。
用事があるのに、立て込んでしまって。
なにせこんな機会は今迄なくてね。」
「あ……用事、そうでした。」
忘れてた。今更恥じる気もない。(開き直り)




