石室
ヒトの吸血族は勿論ヒトにものすごく似ているのだが、明確に違うのは成長のペースと寿命だ。通常の五倍以上と言われており、彼等は最早エルフ等に近い世界で生きている。突然変異と考えられているからには少数だろうし、種族も様々であるから、群れるという考えにはなかなか至らないのが実状らしい。
成長ペースが遅いのは成体だけであり、むしろ幼体とその脳は通常のヒトよりずっと完成されて生まれてくるという。例えば生まれた瞬間から記憶を持ち、歩く前から自我を持ち、見た目赤ん坊でも立って走ってペラペラ喋るわけで、ヒトの目に異質に映るのは無理もない。ついでに血と臓物を啜るとなると、完全にホラーだ。だからといって事件でも起こさない限り迫害するのは良くないと思うけど。
というわけで吸血族には本物のロリババアやロリジジイ(ややホラー寄り)が存在するわけだが、個人的には食の好みが違う人生のセンパイと考えればいいかなと、ちょっと無理矢理まとめてみた。
地下は途中からすべて石造りになっていた。今回は物入れに掛けてあったごく普通のランタンを使っているので、せいぜい壁と足元くらいしか明るく見えない。ろうそくの火がユラユラと斜めに下る石段を照らしていた。
最下段まで来ると、所々に苔が生えたり小さな水溜まりが出来ている。ジメジメした土と汚濁した水の匂いは一階の物入れまで上って来ていたものだった。突き当りの正面には見るからに重たそうな金属製のドアがある。驚いた事にナクタ少年は先導してその扉をスイと開けた。子供でも開けられる仕掛けがされているらしい。
…?なんでわざわざ、
あんな重い素材で造ったんだろ…。
変に長い石段といい、不思議な造りの地下室だ。
中に入ってみると、何も無い石室がそこにあった。光を取り入れる場所が中央に一箇所。地上から見ると、おそらくこの空間は丸く井戸のように掘られている。上をみれば高く遠い天窓には鉄格子が嵌められていた。
天窓からの薄い光で周りが見えるようになったが、何も無いから、ナクタ少年は当然のように更に進んでしまう。その先には壁しか無い。
あ、そうか。イミテーションだ、コレ。
つまり壁は幻影(魔法)であり、奥に続くドアが本当はそこにあるのだろう。そう思った矢先、何も無いように見えた空間が少年を呑み込んだ。少し先に見える石壁と一緒に少年の姿が捻られながら消えてゆく。
イ、イミテーション…ではなく、
空間魔法!?
は!?こんな、ただの入口に??
え……私、コレ、通んなきゃいけないの…!?
恐る恐る後に続くが不安でならない。大丈夫なのか、ここのヒト。別格の魔法使いにしてもやることがえげつない……。
空間魔法とは、つまりユイマが使った召喚術に近いものであり、通常は複雑な魔法陣と全力の魔力と高度な呪文が、最低限でも必要になる、アホみたいにコストのかかる魔法である。
だってそれだけスゴイ事で、
最上位にある難しい魔法だから!!
それが……こんなところでなんの為に???
「驚いた?」
初めて聞いた吸血族の声はダミ声で、可愛くもないのにお茶目な言葉を紡いでいた。
「驚いたでしょ。
驚かせるために造ったんだから。」
………………。
私の疑問は秒で解消したようだ。一応は。
「わかるよ。俺ね、これでも魔法使いなんだ。
ナメられたくないんだよね、年甲斐もなく。」
「…ニョルズ、自己紹介。まだだから。」
隣で息をつきながらナクタ少年が口を挟む。
「わかってるよ。言うなよ?
先入観のない異国の意見が聞きたいんだ。」
……なんだろう。どこか、既視感がある。
何処となくナルシスティックな……
ノリというか、ちょっと自己中というか…。
失礼な感想になってきた。思い出さない方が良さそうだ。
「俺が何者に見える?
名前をつけるなら、どんなのが似合うかい?」
何者と言われても……。
狭間を抜けて現れた光景は、だからといって大して印象の変わらない石造りの地下室であった。聞いていた通りに子供じみた事を言っているオッサンがここの主であるらしい。
吸血族というから見た目とのギャップを想定していたが、どうやら何も違和感のないオッサンだ。背が高くヒョロっとして、少しオドオドと挙動不審気味な動きを見せる中年男性は、ニョルズという名前らしい。
長い髪も髭もボサボサの散り散りで服はクタクタの茶色いローブを短く切っているのか、丈が足りない。…小さめサイズしかなかった可能性もあるか。でも汚れてはおらず、キツイ口臭等もない。まぁ、多少匂うけど。とりあえず私は、そこまで不快感のない人だと思った。この場所で清潔さを保つ事自体大変だろう。むしろ管理のできる人だと思う。多分。
何者……?
わからない。現代人だし。あまり深く考えずに素直な感想を言えばいいのかな…。
「……ユニークなオジサン…としか……。
名前は……う〜ん………イド。で、どうですか。」
井戸の底にいるからイド。再び安直。だが、意外としっくりくるように感じる。
「素晴らしい。よく教えてくれたね。
君は勇敢だ。そして少し、頭が弱いのかな?
あまりそんな事はしてはいけない。
俺みたいなヤツになっちまうよ?」
あ、頭が……弱い……!?
ライトニングさんに馬鹿にされたのも酷いと思ったが、超えてきた。




