種族
「すみません、寝坊しましたか。」
「いえいえ。私こそごめんなさい。
勝手にベッド使っちゃって。」
「いいですよ。俺は慣れてますから。」
……やりづらいよ。誰だよキミ。
どうしたものか。ナクタ少年は起きたら別人のようなキビキビした優等生になっていた。原因はだいたい推測できる。竜しかいない。昨晩二人で長話をしたせいで、私達が何者かという事に気付いてしまったのだろう。
恐れなければ怖くはない。けれども恐ろしさを知ってしまうと逃れられない。何事もそんなものと言われると身も蓋もないが、子供にも容赦ないなんて流石はライトニングさん、私が怖くて嫌だから避けたいと思っていた事を平然とやってのける。…そういう存在だから仕方ないね。巻き込んだ私が悪い。わかってるんだけどね。
「何?リッカ?」
何かに気付いたナクタ少年が部屋のドアの方に顔を向けてウズラ亭のママさんの娘さん(多分)の名前を呼んだ。ドアは閉じたままだ。
「…………ごはん。」
「わかった。」
ナクタ少年は短く返事をして、すぐに服や頭の砂を払う作業に戻る。
私達、相当警戒されてる?
大人しくか細い声と短い台詞。それだけを残して物音も立てずにリッカ少女は去っていったようだった。単に恥ずかしがりやさんなのだろうか。それにしては暗く沈んだ声のように感じた。
なんだろう。…まぁ気にする事でもないか。
それよりライトニングさんは一体どこまで何を話したのかが気になる。今は再び丸椅子の上で狸寝入りしているから、おそらくナクタ少年の敬語は私に向かって使われているのだ。
「ナクタくん、竜が何を話したか知らないけど、
私にまで敬語じゃなくてもいいんだよ?」
「あ…本当ごめんなさい。今更ですけど。
ライトニングさんていう名前があるって、
教えてもらいました。雷の竜?なんですよね。
本物の大魔女様だったなんて思わなくて。
俺はやっぱり敬語じゃないと変ですから。
ユイマさん、でいいですか?」
「あ〜…うん…ナクタくんがそうしたいなら、
仕方ないね。コンゴトモヨロシク。」
てか、大事な事ほとんどバラされとる!!
不用心じゃない!?大丈夫なの?
私が人を信じなさ過ぎるのだろうか。この竜、大抵の事は何とでもなると思ってるからな。それはそれで思慮がなさ過ぎるんだよ。こっちはどうなることかヒヤヒヤドキドキなんだよ。子供だからって……あれ?そういえば…。
「ところでナクタくんて、齢いくつ?」
「13です。」
「へっ!?」
「?…意外ですか?」
「いやいや、なんでもない。」
……思ったよりデカかった…。
このログラントでは13なんてまだ幼い稚児。
なんて長命な種族もあるけど。…成程。
ママさんも言ってたな、微妙な齢だとか。
獣人て小柄なのかな。ガーディード、だっけ。
「あ、そっか。チビなんですよ、俺は。
猫だから。リッカなんか虎だから、
デカいですよ。変える時ビビるし。」
!そ、そういうことか!
「ガーディードって、いろんな動物になるの?
変身する種によって体格も変わるのかな。」
「あ、え〜と、獣化すると能力が上がるんです。
全身が獣化する事もあるけど、
それはそういう病気で、戻れなくなる。
昔この辺でも流行って沢山死んだそうです。
俺はよく知らないんですけど。」
「そうなんだ…。猫と虎以外は何がいるの?」
「ミズァドラ湖にはあと犬と狼くらいかな。
見たこと無いけど外国だと羽根が生えてたり、
鹿とか獅子なんかも居るらしいですよ。」
「おぉ、犬かぁ。狼も強そう。」
「狼は…ずっと肩身が狭かったらしいです。
病気の元になったのが狼だったから。」
「あ……そんな事が…。」
種族に歴史あり。なんやかんや外の人間にはあまり知られていない事情があるもんだな。
さっきからこの話を差し挟んで来るということは、今も何かしら遺恨があるのかもしれない。言い方が責任を問うようにも聞こえるが自分はよく知らないと言ってる。微妙な立場だなぁ。
「尻尾出てる人って、虎?」
「ガーディードは皆有りますよ。
俺は猫で…ダサいから隠してるんです。」
猫の尻尾はダサいのか…。
よく解らないけど、なんか新鮮な考え方だ。彼等は彼等で、いろんな価値観があるのだろう。




