表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/160

魔石


 怒涛の夜が深けて静まってきた。ようやく窓から見える星に目を向ける事が出来て視界をゆっくりと休める。小部屋の窓は街路の喧騒とは無縁の美しい夜空を切り取って見せた。カーテンのない四角の枠はガラスも何も入っていない。気候が温暖な地域では珍しくないのだろうか。空気の流れを感じて気持ちよく眠るものかもしれないが、木戸を閉じれば真っ暗な闇になってしまう。

ナクタ少年は竜と話していた。移動手段がどうとか、深入りしない方が幸せだと思う事もあるから竜は実は大変だったんだなと初めて知った。内容は特に気にならない。急に疲れが襲って来て、何をするでもなく後ろの壁に頭を預けたままぼんやりと外を見ている。

 何も知らない事は知っていた。

 自分の事を知りたくない自分にも、

 勿論気付いていた。

 ただ、そんなに…深刻とか言われても。

 …異常って…。

 私は何がおかしくてこの齢で、

 深刻な問題を抱えた異常な女呼ばわりされる

 輩になってしまったんだ。

 これでも必死にやってるんだけどな…。

小さな羽虫が窓から入って来た。音もなく月の明かりと部屋のランタンに姿を晒している。町には意外に少なくて不思議に思っていた。この温かさなら、もっとたくさん出てきそうなのに。

 やっぱり虫は明かりに寄ってくるもんなんだな。

チラチラと揺れる影を気にしていると現代世界でよく見かけた田舎の街灯を思い出す。異世界だからといって、変わらないものもいて、変わらない事もあるものだな。

ランタンはナクタ少年が店から引っ掴んで来たもので、持って来て良かったのかもわからないが、光源となるろうそくの代わりに火の呪文の魔法具と魔石を施した一端のハイブリッド装置が組まれていた。おかげで私が使えば明るさの調節も出来る優れものである。こんなところに在るのが不思議な品だった。

丸椅子に跨ってベッドの上の竜と話している少年には本当に申し訳無いと思うのだが、位置関係上の都合で竜の隣に座っていた私は二人が仲良く長話をしているのをいいことに、そのまま横に倒れてぐっすり朝まで眠り込んでしまった。

なんということでしょう。


 明くる朝が来て開けっ放しの窓から射す光が部屋を明るく照らした時には、当然といえば当然、床の上に直に寝転がるナクタ少年の姿がそこにある。温かな陽射しで目を覚ました私はその姿を見て二度も目覚めた気分だった。

 なんてことさせてんの!こんな子供に!!

言葉のブーメランがザックリと胸に刺さる。完全に私のせいです。本当ごめんなさい。

 野戦病院じゃないんだから、

 キミもせめて何か、風呂敷でも敷いてよ!

…とか、また身勝手に人を責めるのも私のクセかもしれない。なんだか昨日の一件は改めて自分の悪いところを考えさせてくれた。

猛省すべし。言うは易し。…またか。歴史は繰り返す、なんて言うけど本当に繰り返してもいいと思ってんのか私。大人が言ってるのはどうしょうもないけど私はしっかりしなくては。人生まだまだこれからのはずだ。良くなるように生きていかないと。

ショックで落ち込んだ気持ちを何とか持ち直して考えてみても、静かに眠っている少年の為に出来る事など、せめて風呂敷を掛けてあげるくらいの事である。…やらかしておいて無力。人はこれを無能と呼ぶ。

昨夜はあれだけドン引いていたのに急に竜に向かって話し始めたから驚いた。良い事なのかなと思ってベッドに竜を座らせたけれど、あれは何時頃の事だったのだろう。また丁寧語に戻っていた少年が、まず竜という生き物の確認作業から入っていたのは覚えている。私もそうだったけど、毎度ご苦労様なことだ。徐々に打ち解けた二人はログラントやミズアドラスについての深い話に踏み入ってしまい、私にはまだ他人事のように感じるからか集中できず緊張が解けて一気に眠気が襲って来たのだった。

 あれから夜更かししたのかな…。

珍しい事に竜も丸椅子の上で目を閉じて丸くなっている。まさか眠ってしまったのでは…。

確認しようと顔を近づけるのと竜が頭をもたげるのが同時でバッチリ目が合う。うん、なんとなく解ってた。もうこの展開にも慣れた。


「魔石はちゃんと持っていますか?」


起きるなり第一声がこれ。いや、眠っていなかったという事だろうな。

「…大丈夫。」

魔石は通常は直に触れる必要があるらしい。グラ家のカーテンを縛る紐を拝借して、ずっと脚に括りつけていた。髪にでも触れていれば良いなら髪留めにしているのが楽なのだが、加工もできないし持ち運びに困る。


「彼が木彫りの腕輪に、

 石を仕込んでくれるそうですよ。」


「え?本当?」


「代わりにもう一人紹介したい人がいると、

 話していました。

 私への依頼として引き受けました。」


「一人で行くの?」


「どちらでも。」


「……水の竜に会うのはどうするの?」


「昨夜あんな事があったからには、

 今日は遠慮したほうが無難でしょう。」


 そうだった……。

どんな騒ぎになっているかわからない。関係者を匂わせるような行動は避けたほうが良い。てか、本当に犯人扱いされて追われたりしたらどうしよう。

夜が明けてみれば自分達が周囲の人間からどう扱われるか解らないって、結構なホラー展開なんですけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ