馬鹿
願ってもないヒントををサラッと言ってくれたナクタ少年は続けて念を入れた。
「それより、これでいいよね?
ウィノには竜を見せたいからさ。」
「ん?………あっ!」
「嘘言わなきゃいいんでしょ?」
「そうなの!?!?」
私の方が驚いてしまった。そうだった。竜が起きていることを知っているのに普通に話せているのはどうして!?
私は慌てて抱えていた風呂敷の結びを解いて竜の顔を見る。ライトニングさんはいつもの通りにいたって落ち着いて期待に応えた。
「その通りです。」
マジで!?
「はぁッ!!?喋ったぁ!?」
それを見たナクタ少年がギャーとでも叫びそうな声と表情を共に飛び退ってドアに張り付いた。
「あ………。えと、これは……。」
なんということでしょう。あまりに慌てた私はもう何も考えずに竜が話すことをあっけなくバラしてしまったのでした…。
ヤバイ。アホだ。アホすぎる。
匠の仕業でベッドが空いたものの、も〜らった☆とも言いにくい、微妙なシチュエーション。
得るものは何もなくただ覆水盆に返らず。こうなったら開き直って切り替えるしかありません。オッケ、そうしましょう。
「あのね…竜って、結構喋る人も多いんだ。
あんまり竜に会うことなんか、無いかな…?」
「……………………………ない。」
何故かナクタ少年はドン引きだ。会話がわかる事は理解しているのに一体どうしてそこまで。ライトニングさんもせめて言語を変えてくれたら誤魔化せたかもしれないのに。…なんて人のせいにしても仕方がないけれど。
もともと隠す理由も特に無いし、まいっか。
開き直れば良い事だとすら思える。私が説明や関わりを面倒臭がっていただけだし、むしろいい機会だった。既にただの竜でないことはバレているのだから今更である。しかしそれにしても…。
「どうして?どうなってるの??」
「どうやら少年の方が理解しています。
貴方の勘違いは相当深い。」
「??勘違い…??」
「……おそらく切り離せないのでしょうが、
貴方はこの世界に何者かを連れてきています。」
「何者か??」
「貴方は其れから逃げる為に深入りを避けて、
更に折り重なる事で隠そうとしている。
その事に貴方自身が気付いていないのです。」
「???まぁ……人間て多面的って言うしね。」
なんか唐突に心理分析が始まった。
適当に躱したが正直何のことかサッパリ解らない。私に現実逃避の癖があったとしても、そんなに変だろうか。そういう人、結構いないか?むしろ多いくらいじゃないだろうか。
私が折り重なるって何?…自問自答したり、冷静に客観視しようとしたりするのは普通にあることだと思うけど。違う?そうじゃない?
「とにかく貴方は他人の望みや願いに弱い。
暗示にかかりやすいと言った方が、
貴方にはわかりやすいでしょうか。」
……え。いや……そんな大袈裟な。
「思い込みや勘違いも多少はあるでしょ。」
「もっと深刻です。」
「……………???」
相変わらずヨクワカラナイ。そんなに言われても、どうすればいいのだ。この竜、ドSだったのか?付き合っていられない。
ナクタ少年は私達を見て交互に視線を走らせている。それは彼の表情から驚きが消えるより早く、少年の懸命さを感じさせた。
私はなんでか泣きそうな気持ちになった。理由もないのに泣くのは変だから必死で堪える。何が私を追い詰めるのか、それもヨクワカラナイ。
「私に嘘がつけないのは本当です。
ただし、私が聞いているのならば、
という条件がつくため、影響は限られます。」
「耳を塞いで貰えばいいの?」
「違います。伝えたように、聞かれている、
という意識があることが正確な条件です。
例えば私の移動手段を知り、
何処にでも現れ何でも聞いていると、
心から思い込むならば、
この世界中の何処にも自由はありません。」
「怖っ。」
やっぱり神か悪魔だこのヒト。
「逆も成立します。
ですから単純に、彼は私が起きていても、
話など聞いていないと確信していたか、
本当の事だけ話しているのです。
恐れなければ怖くない。
そのような曖昧なものと思って下さい。」
「へ?……そんな適当なの?」
「私は真偽を確認することが出来ますが、
本来は嘘と裏切りを禁じるだけで、
言葉の抑制を行うような存在ではありません。
貴方方は勝手に私を恐れるために、
恐れを認めないという嘘がつけなくなるのです。
私の能力は貴方の、謂わば心を元に働く、
と考えてもらった方が分かり易いものです。」
「心……。嘘ついてる罪悪感があるとダメ、
みたいなこと?……嘘発見器の原理?」
「分かり易いように、どうぞ。
貴方の理解以上のことには、
決して、なりません。
ですから少年は普通に話せるのです。
今のところは、ですが。」
……………??
「敢えて言いませんでしたが、
何も知らなければむしろ、
少年のような反応が通常です。」
「え?」
「ユイマ=パリューストは私を恐れた。
この世界の魔法使いならば当然です。
貴方はその上で連れてきた何者かの為に、
自ら二重の支配を受けるのでしょう。」
「…………………。」
驚いたのではない。訳が分からないのである。後半が特に。何言ってんの?何語?
「この際ハッキリ言いますが、
貴方は恐れるものに対して、
異常に素直で従順な態度をとるクセがある。」
い…異常!?
「心配せずとも同類のことは良く見受けられます。
ですが、気付いてすらいないというのは、
ある意味では称賛するべきかもしれません。」
……なんとなく、馬鹿にされている気がする。
ヨクワカラナイけれど、それだけは伝わった。




