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絶対


 竜の力は出来る限り使いたくない。何故だか自分でもよくわからない。なんとなくとしか言えないけれど、なにかの力が自分に戻ってきた。そう感じる。むしろ、どうして失くしてしまっていたのだろう。

 いつからだろう。ログラントに来てから?

 ……そうじゃない。もっと前、ずっと昔だ…。

とても大事なものだったはずだ。取り戻した気がするというだけで視界が明るくなって、大きく息が出来る何かだ。ナクタ少年を見ていたら、強くなれるかもしれないと希望を抱いていた小さな子供の頃を思い出したとか、そういう事なのだろうか。



 長い長い道程を経て、やっとここまで辿り着いた。待ちに待った夕食の時間。本日の宿の目処もついたし、もう言う事無し。文句の付けようもない最高な時間だ。ウズラ亭のママさんは、ろくなのが出せないとか何とか言っていたが、そんな事は大した問題ではない。

 この先どうなるかわからない。

 貴重な食事になる。

 是非ともゆっくり味わいたい。

竜はナクタ少年から借りた風呂敷に包まれているから他人の目に止まる事は無いだろう。アイツが大人しくしていれば、だけど。

私は真剣だ。出来れば誰とも話なんかしたくないくらいだ。美味いものは黙って食え。というか、集中して食べさせて欲しい。

実は現代世界ではこんなにお腹が減るような事はそうそう無かった。いつもイヤイヤ食卓につき、食べ物を無理やりに口に頬張らせ、力を込めて噛み砕いていたのだ。ユイマの身体に入ってからは、まるで勝手が違う。ちゃんと身体が栄養を欲している感じがする。何と言うか、健全だ。

「ネエチャン、さっきから黙ってるけど、

 こんな店に何しに来たの?」

テーブル席にいた男性客が食事を終えてフラフラと話し掛けてきた。私の切なる願いは頭に思い描いた途端に打ち砕かれて内心全く穏やかではない。男性客は薄ら笑いを浮かべてエヘヘとかウヒヒとかいう擬音が聴こえてきそうな顔を上下させて私をジロジロ見ている。

 ……キモ(汗)。

 キッツイなこういうの、思ったより…。

綺麗な娘も大変だ。現代世界の私は見た目が良くないから慣れていない。どこの世界にもあるんだな、コノ手のトラブルは。

すぐにでも逃げ出したいが、夕食は逃すわけにはいかない。この席は譲れない。絶対だ。

対処がわからず硬直している私の二つ隣の席から、エンさんと呼ばれていた声の大きい女性客が不意に誰かの名前を呼んだ。

「アンナは私の孫だよ。

 まだ子供だ。寄ってくるんじゃないよ。」


「あ?嘘つけ。聞いてたぜ。

 どうせろくな身分じゃねぇよ、こんな女。」


「ろくな身分じゃないのはお互い様だろ、

 酔っぱらいが。酒の勢いでつけあがって。

 恥さらしだね。みっともない。」


「ぁんだとぉ?酔っぱらいはてめぇもだろうが。

 引っ込んでろよババァ!」


ババアと呼ばれて、今度は不敵に笑っている。ナクタ少年まで一緒に笑っていた。状況がわかってるのかな、この子…。

男性の声が荒っぽくなったのを聞いて、それまで知らん顔をしていたママさんが間に入った。

「うちの子の友達の友達なの。

 今日からだけど。」

ちょっと申し訳なさそうに言われたのが効いたのか、第三者の加勢に怯んだ男性客は恨みがましく再び私を見て、見せつけるように舌打ちすると、カウンターにお金をバチンと叩きつけて店から出て行った。

 ……助かった。

助けてもらえた。…ママさんとは顔なじみのようだったが、良かったのだろうか。

「あの、ありがとうございます。」

二人に頭を下げて、すぐにお礼を伝えたら何故かエンさんに酷く驚かれた。深く溜息をつきながらカウンター越しに話し掛ける。

「……マトモにも生きていけそうなのにね。

 変にお金や物欲に取り憑かれたのかねぇ?」


 ん?……あ、さっきの話の続き?

話を振られたママさんも困っていた。詳しい事情は話していないから答えようも無いだろう。

どうやらエンさんは完全に私の事を大魔女詐欺師だと思っている。決めつけられていると言ってもいいのに、誤解を解くより何より私は彼女達のカッコ良さにちょっと感動していた。

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