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言葉


 ウズラ亭の一階は入口のドアから奥に向かって少し広い廊下が続くような細長い造りで、テーブル席が手前半分、カウンターは奥半分を使っている。満席になっても十五人程しか入らない。下町の隠れ家的バーといった佇まいだ。現代世界ではスマホの動画やテレビで見ただけでバーなんて近寄った事も無いけれど。

廊下の突き当りには手摺のついた二階への階段が見えた。建物は外から見ると三階建てなのだが、先程の話を聞く限り宿泊出来る部屋はそんなに多くはなさそうだ。調理場はカウンターの更に奥にあるらしく、グラ家でも見た竹の扉の向こうから料理が運ばれて来ている。エンさんのようにお酒を楽しんだり遅い夕食をとる人も多い時間だ。いい匂いがするのにお腹はペコペコで、正直泣きそうになるのを、かなり我慢している。


 ナクタ少年を全面的に信用する訳では無いのだが、余りにも不自然なので竜には少し遠慮して貰った。少年が店を畳んでいる間にこっそり本人に確認してみたところ、やっぱり、思った通り、嘘がつけないという状況は割と簡単に攻略出来てしまうものだったのだ。

竜曰く。

「要は、私と話さなければ良い。それだけです。」


 んん〜〜ふっふっふフフフフフ…。

 やっぱり。思った通り。

何が私をあそこまで追い詰めたんだろう。いや、私はどうして勝手に思い詰めてしまっていたのだろうか。

……いやいや、そりゃそうなる。だいたい私は魔法のような理屈の解らない力に触れたのは初めてだったのだ。自身の言動がコントロール出来ない動揺はハンパない。自分の気持ちにも意志にも意味がないと思い知れば誰だってそうなる。言い訳じゃなくて!

第一私は竜と話さないわけにはいかなかった。異世界なんかから来て何も解らなかったのだから仕方ない。他に頼れるものなど何もないのだ。衣食住も、私の命すら竜が握っているに等しいのだ。本当に、言い訳じゃなくて!!

きちんと教えてもらえていれば、私が感じていたほどの絶対的なルールではなく、同じ空間にいるだけで絶望するほどのことでは無かったわけだ。こんなに簡単な仕掛けが私を苦しめたかと思うと、もう、下手に考えることなんて止めてしまいたくなる。しかも他人に対しても絶対的なのだと思い込んでいた。痛々しく恥ずかしい。

コレナンデ最初に言ってくれなかったの、マジで。…私もアホだったのかもしれないけど。


 もうあまり自分の聴き取り作業も信じられなくなってきているが、一応確認はしたつもりだ。

竜との会話。重要なのは、会話の中に竜が居る、竜が聞いているという認識らしい。視線はひとつのキッカケとして成り立ち易いという事だろう。大雑把に言ってしまえば、聞かれていると思わなければ問題無いわけだ。…つまり。

「竜は今ぐっすり寝てるから。

 話を聞かれてなければ大丈夫。

 さっきみたいな事にはもうならないよ。」

と私が一言言うだけでいい。


「……………………そうなの?…あ!」


片付けを終えたナクタ少年は肩を落として大きく息を吐き、心底ホッとしたようだった。とりあえずニコニコ笑っておいたのだが、言うまでもなくこれは私の言葉を信じて貰わないと出来ないことだ。

この時に初めて違和感を感じた。子供に話してしまったことを後悔し始めていた。ナクタ少年は見知らぬ異邦人である私の言葉をアッサリ信じた。あれだけ要領良く商魂逞しい人間であるにもかかわらず。

 この世界では竜に信用されていることが、

 その人間の身分を立てるんだ…。

情報としては、ユイマも知っている事だ。それでも現代世界に生きる私には違和感しか無い。相手が大人なら大人の世界のルールと思えばいいのだろうけれど、ナクタ少年はおそらくまだ学校から宿題を出されている子供だ。私と同じ。……同じ経験をさせてしまった。

これは、魔法と魔物が存在するこの世界では特別なことでもなんでもないのだろう。それでも嫌なものは嫌だ。怖いものは怖い。例え唯一与えられた、こんな自分にも出来るスゴイ事であっても。

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