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論文


 序文


 過去に遡れば聖竜の友人は既にこの世界に五人現れていた。最初の一人は離反した。さらに一人は人類の敵となり一人は人知れず姿を消した。今も偉大であると讃えられる二人も選ばれし英雄とは言い難い経緯があり、多くの国や地域でそれは事実とは認められないまま伏せられている。

知識の探究と魔法の研究に熱意と年月を費やすことが出来る人々のみが神話と呼ばれる時代を数々の史料から読み解こうと奮闘するが、確たる証拠となりうる物はほとんど遺されていない為に、虚しく空想の産物という誹りを受ける事もあった。


 ログラントの創世より、聖竜が友人と共に平和に幸せに暮らした歴史は断片的に語られるのみである。それを裏付ける遺物は更に少ない。

そもそもそれは僅かの時間であったと考える者もあるが、聖竜と大魔女の力は既に世界のあらゆる地域で信じられている。特に魔法使いの世界の倫理観に根強く、魔法を習う者達にとって聖竜と大魔女は聖者の扱いである。


 炎嵐の大魔女は魔法と魔術を誇る実力者だった。飽くなき探究心はネルロヴィオラ個人のものであり生涯尽きることはなかった。聖竜に心酔し常に共に在り遠慮なくその力を誇る為に魔法と魔術とその装置を先駆ける大国を建てた。ミロスに於いては彼の人生には何者のつけ入る隙も無かったと称されている。

勤勉なる友人ノエリナビエは唯一、聖竜の能力を敬遠し、しかし上手く利用した。大国の脅威に不安を抱える人々に対し圧力に耐える為の心の在り方を説くことで信心と支持を得た。だがそれも彼女の死後には正しくは残らなかったと言わなければならない。時の流れと共に生きる人々と死者との間には齟齬が生じて止められなくなっていったのだ。(注#1)


 〜本文中略〜


 ミズアドラス自治領は現在、領主であるグラ家により統治されている。領主は水の竜と清流の大魔女からその権限を託されるという形をとっており、形式上は水の竜と大魔女の方が格上の存在である。聖竜信仰の中心にある水の竜の聖殿長が領主の保証人のような役目を担っている。

聖殿長は聖職者の最上にある地位である。水の竜と大魔女に最も近い立場であるため、信用のおける人物が、聖殿に務める聖職者達の中から選出される。聖殿長は他の聖職者と同じように教義を説いて広めるほか、信仰を旨とする行動の規範とされる。世界中に影響力があり、信者の中に於いては老若男女に親しまれて人気のある人物となる。実質的にミズアドラス領主は水の竜の聖殿長に認められることで権力を認められると言っても過言ではない。(注#2)

 対して、火の竜と炎嵐の大魔女を擁するミロス帝国では聖カランゴールとはその位置づけが大きく異なる。ミロスの炎嵐の大魔女は、自身が水の竜の聖殿長に近い役割をもっている。聖竜信仰はミロスにも多くの信者を持つが、分家とも言える様々な宗派に分かれており、派閥というよりは教義や信条・思想の異なる別の団体として複数存在している。それらの団体はしばしば反体制派の住処となることもあった。これは、皇帝という最高権力者が絶対的な存在であることの影響とも考えられる。現皇帝は初代ネルロヴィオラの末裔とされており、血統主義がミロスという国の根幹に継承されているのではないかと私は想像する。

 火の竜と炎嵐の大魔女には皇帝よりマフー大砂漠の居城が与えられた。城は建設から警備、維持管理まで帝国国費で賄われている為、完全に帝国の所有物である。皇帝の血統に関係する事がその理由とされる。

居城に属する敷地は広大であり、セラシウム(聖なる領域)と呼ばれる。敷地内には火の竜と大魔女を信仰する世界最大の教会、オリューテス大聖堂も含まれる。すべての衛士、警備隊などは帝国の認可した傭兵と聖竜信仰者の有志団体から組織されたものである。

大聖堂は居城敷地内、つまり帝国所有地内の為、ミズアドラスとは違って出入りに帝国管理者の許可が必要であり、一般人は式典や祭事以外では立ち入り出来ないことになっている。

ミロス帝国では政治と宗教は完全に分離されている。居城を与えて管理下に置き、まるで国教のような位置づけにあるにも関わらず、その影響は魔法使いと聖竜を熱心に信仰する人々の間に留まっているのである。この事は私に、国政が宗教に頼らない姿勢を貫き、自らの力を誇っているように印象付けた。

政治的な側面を見ると、ミロス帝国は皇帝を頂点とした人類による支配体制を強固に打ち出すことで世界中の人類に揺るがぬ強国のイメージを抱かせ、実際に周辺諸国には統率された軍部と最先端の装置を武器に強気な外交を取るなどの多大な影響を与えている。


 大魔女は聖竜と人類を仲介するとされていた。ミズアドラス自治領において聖殿長を任命するのもまた清流の大魔女であるが、実際は聖殿内の権力が反映されるか、信者の人気に推される形の選出になる。この任命式典では聖カランゴールの代表がその証人となる為、近代では必ず首相が出席している。

 清流の大魔女については、やはり多くが秘匿事項となっている。聖殿長が時候の挨拶としてその言葉を賜ることと、折に触れて考えとして述べられたことを伝えること以外は情報が公開されていない。大魔女の選出は基準も何も定められておらず、それが何故かも説明されない。聖竜の友人は資質以上に聖竜の意志と歴史上の運命とも言える流れに依って選ばれてきたとされる過去がある故に、そもそも説明出来るものではないと考えられている。

しかし最近は清流の大魔女の存在感が弱い為に度々ゴースト説や傀儡説、果ては最初からいないのだという噂も囁かれているという。

大魔女が亡くなり、初めてその名が公表される理由としては、"死別により初めて我々はその恩恵を知る"という言葉で初代ノエリナビエが師である初代ネルロヴィオラの死を悼んだという故事になぞらえているという説がある。亡くなった後にしか我々は大魔女を本当に識ることは出来ないということである。あくまでも一説であり真相はわからない。

 

 近年、水の竜の聖殿には異常な事態が続いている。水の竜の露出はなくなり領主家は魔力駆動装置による代理結界を展開した。さらに新しく就任した聖殿長がわずか一年で辞任するという交代劇が起こっている。

水の竜の結界が一人の水の竜聖騎士団員と聖殿衛士を務める魔法兵小隊の反逆により破られ、聖殿内に反体制派武装組織リーベウ・ドゥシャウズ(人類至上主義同盟)を名乗る集団による武力行使を許したのが、まだ二年前の事である。聖竜の結界を退けるという、世界を震撼させた事件の責任を取って当時の聖殿長ジゼル=フロブラと聖騎士団長は即時辞任した。

新たに就任したナリナ=ニア=グラは領主であるグラ家の人間であった。グラ家の支配が明らかに強くなっていることに反発した人々の意見を収める事が出来ずに、わずか一年での辞任となったという見方がされている。


世界的に知られる聖地ミズアドラスで今何が起こっているのか。



(注#1,2は個人の見解です。)


〜テスラ大学魔法史学部国際魔法史学科卒業生

 パロマ=リール=レイスの卒業論文より抜粋〜

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