山道
こんな真っ暗な森の中なんか竜がいなければ絶対に入らない。周囲を薄ぼんやりと明るく照らす光の魔法に似た効果を竜は扱えるから、遠慮なく使ってもらっている。
年齢を重ねた木々の間には、引っ掻き傷を創りそうな小振りの枝葉を持つ植物が繁っていて、動かす度に虫の羽音が聞こえた。肌を隠せる服を貰えて本当に良かった。
屋敷の庭を出てから少し歩くと、地面を踏み均した跡が見えた。近くに山道が通っていたようだった。あんな騒ぎが起きているせいか、今のところ誰にも会わないし何故か動物もいない。夜になると森はこんなものなんだろうか。森を知る趣味も見識も無いけれど静か過ぎて不気味に感じる。竜から少し目を離せば漆黒の闇を見る羽目になるのだから怖い事に変わりはないのだ。
今も朱く燃えているグラ家の屋敷を振り返り、恐ろしいことになってしまったと、ようやく気が付いて震えてきた。原因は私達だけではないという気持ちはある。それでもやっぱり無関係ではないから追い出されたのだろうなと思う。会食どころか夜の森で迷子になるなんて酷い転落事故だ。
要するに私達は世界の均衡とやらの為には、
いないほうがいいってこと?
わざわざ自爆テロまでして主張したい事なの?
それをラダさんとルビさんがやった?
雷の竜と大魔女が自分の屋敷にいると伝えて、
仲間に火を放つ指示をしたってこと?
……嘘でしょ?全然意味が解らない。
ラダさんとルビさんは領主様の子供なのだから、しかも間違い無く領主様を慕っているのだから、テロなんか起こす必要は無いはずだ。
そりゃ親子なんだから、なんだかんだ、
不満はあったみたいだけど…。
テロ行為を手引きして屋敷に火を放つなんて、やり過ぎだ。しかもあの屋敷は、様子からしてラダさんとルビさんの住んでいる所であって、領主様の邸宅ではない。(さすがに領主の邸宅に侵入したら大魔女だろうが許されないと思う。多分。)自爆し過ぎというか、破滅思想にでも取り憑かれていたのだろうか。肝心の私達はピンピンしているのだからまるで意味がない。放火さえすれば死ぬと思っていたのか。この世界では関連する建物を燃やす事がそんなにメッセージ性のある事なのか。ラダさんとルビさんは何を考えて一体何処に行ってしまったのだろう。まさか本当にあのまま燃える屋敷で亡くなったのだろうか……。
なんだろう。嘘はないはずなのに。
竜の前で嘘はつけない。それでも私には魔石を持つ前の嫌な記憶がある。竜自身も自らが万能ではない事をはっきりと言っていた。
嘘、ではない言葉…自分の出した結論…?
知っていることに嘘はつけないけど、
逆に知らないなら思い込みも嘘ではない…?
質問は黙秘出来ないわけじゃないし、
……結構抜け穴があるぞコレ……。
何より、今思い出したけれど、ラダさんが語っていたミズアドラスの事情について、私は誤解をしたままだった。あの時はまさか領主様と奥方様が両親とは思っていなかったのだ。他にもいくつかの役職が話に出て来たはずだ。…あの話の中にヒントがあったかもしれない。
どうしよう。もう思い出せない…。
ポンコツ頭がうらめしい。
それでも私は出来る限りに記憶を辿って、何とか状況を探ろうと必死に頭を働かせていた。




