火災
それでも気になる事は聞かなければ解らない。
パロマさんは今も落ち着き無く、付き添った兵士達に向かって何か問い質している。
私も巻き込まれているのだから、話をする事くらい許されていいはずだ。どうなるのか解らないのが怖いけど、兵士達が去るのを待ってから試すことに決めた。
「領主様は何て言ってたんですか?」
息切れしながらも出来る限りの声で尋ねた私に対して、パロマさんは怯えているようにも見えた。
「…子供達がやった事だ、と。」
「へ?」
意味が解らない。
「どういうことですか?」
「……先程から聞こえる声で正体は解りました。
"世界平和の為の天秤"を提唱する
セオ????スと思われます。
聖竜信仰の中でも歴史が古く団結力も強い、
全体主義の下の理想を是とする信念を持ちます。
アシ????には若者も多いと言われ、
過度な言動や??が度々問題になっています。」
「あ、スミマセン。ちょっと待って下さい。」
しまった。竜がいるのに突っ込み過ぎた。
"どういうことか"なんてザックリした質問をしてしまったせいで、パロマさんは思い当たる事を細かく説明しなければならない状況に陥ってしまったのだろう。
なんだか怖い事を聞いてしまった気もするので、私は慎重に言葉を探した。
「えっと、よく聞き取れなくて…。
どういう集団なんですか?」
「エルト王国ではあまり見ないでしょう。
"対なる竜は普遍の礎である"、
"偉大なる古の叡智に専念せよ"、
"炎嵐と清流は未来永劫の標なり"、
お風呂場でも話した、
炎嵐と清流が世界の均衡を保つ、
という考えを持つ人達…。
主な活動拠点はミロスにあるそうです。」
「わかりました。もう大丈夫です。」
集団の名前は解らないけど…つまり、テロ?
ラダさんとルビさんが、
テロリストだったってこと??
聞き取れないといったら謎の掛け声まで訳してくれた。知りたかった事ではあるけれど、しっかり聞いてしまったことが後ろめたい。
大変な時にごめんなさい。
「大魔女様には何よりも、
偉大なる雷の竜がついていらっしゃる。
こちらで人を用意するより賢明と思われます。
私には、やらなければならない事があるので、
状況が解るまで失礼させて頂きます。」
説明を終えて一息ついたところで、はっきりとそう述べて深く一礼すると、パロマさんはこちらの返事も待たずに兵士や家来?の人達の黒い人集りに向かってに歩いていった。
その通りなんだけど寂しいな…。
明らかに嫌がられているのに聞き出したのだから仕方がない。私は何も言えないし、竜は相変わらず無関心なご様子だ。
いつからか遠くで鐘が鳴っている。火災を報せるものだろう。何故か昔の風情を感じる、硬くて少し耳に痛い音を繰り返し夜空に響かせている。
今もラダさんとルビさんの姿は見えない。
玄関から外に出た時、上空には飛竜が旋回していた。テロだとすれば何者かが乗り付けたと考えるのが妥当なのだろうが、私が見た時には既に人が背に乗っている気配はなく今はもう飛び去ってしまっている。
辺りは騒然として物見の人集りも増えてきた。警備と消火に休みなく人が走り回る。夜なのに炎と魔法で景色は信じられないほど明るくなっていた。建物が燃えやすい素材で出来ているのか、火は上にも下にも燃え広がり、鎮火には水の魔法と水を噴出する装置が大活躍を見せている。
騒がしい夜空に飛翔する影が二つ放たれた。竜ではなく、鳥の様な羽根と獣の脚を持つ魔物に見える。飛竜に追手がかけられたのだろう。
消防と思われる揃いの服の人達が、すうっと浮かんでは三階の窓に取り付いて建物内に残された人の救助に当たっていた。浮遊魔法だ。初めて見た。救助されている人がいるということは、ここでも出来る人は限られるのだろう。
不思議なのは、実行犯が屋敷内から出てこない事だ。人類なら焼け死んでしまう。信条なのか教義なのか知らないが、あれだけ大声を出していたのに、何処に消えたのか。火に強い魔獣もさすがに逃げ場がなければ、いつか息絶える。一体どういう事だろう。最初から複数人の自爆テロを計画していたということなのか…。
周りに集まる人達は私達から少し距離をおいている。竜の存在が気になるのだろう。多分、知らない魔獣か何かだと思うはずだ。私もそうだった。
テロリストの一味だと誤解されてたりして…。
……だから離れてるとか…あるかも。
どの道、領主家のパロマさんにも単独行動OK=自己責任を言い渡されているのだから律儀に居続ける理由もない。ぶっちゃけ、この混乱に乗じて居なくなって欲しいのかもしれない。
相談、してみるか。
竜に聞いてもちゃんと答えてくれるか怪しいけど。
「勝手に行っても大丈夫だよね?
ラダさんとは、どういう話になってたの?」
「青年は部屋を用意します、とだけ言いました。
貴方が魔女だとは言いましたが、
名乗る前から知っていたようです。
別の部屋を勧められましたが、断りました。
それだけです。話も何もありません。」
「断ったんだ。ああ、だから……。
てか、だったらこの騒ぎ、私等のせい?」
「どうしてそう思うのです?」
「……タイミング良すぎでしょ。」
「…………。」
竜は何も言わなかった。
ついて来てくれるはずだとは思いながらも心配になって時々竜が居るのを確認しながら辺りを歩いた。玄関に近いの門の前には人集りが出来ている。建物の裏手にはアジア風?ぽい庭園が造られていて、そのすぐ向こうは森の入口のようだ。延焼を防ぐ為の消火活動を邪魔しない様に、コソコソと手入れの良い庭を抜けて二人で森の中へと歩いて行った。




