粗筋
何回聞いても、やっぱりビビる。音だけじゃないから。近いとバチッと刺激がくるから嫌だ。
「面倒くさがらずに浮いて来たらいいのに!」
謎の輝く平面から現れた竜は澄ました顔でこちらを見ている。平面は竜を吐き出すと、その亀裂を縫い合わせるように静かに閉じた。
「何!?あのぺったりしたヒビ割れ!」
動転して、どうでもいい事に大声を出している自分がいると気が付いてはいるけれど、何と思われようが構っていられない。
「入浴中は無事だったのですね。」
は!……本当だ。ヤバかった。
ほんの数分の時間差で悲惨なことになっていたところだ。竜の一言で少し頭が冷えて、気持ちが戻ってくる。着替えだけでも急いでよかった。
……ん?あれ?…まさか……。
「こうなるの、知ってたの!?」
「王より粗筋は聞いています。」
「…粗筋………。」
二の句が継げない私は思わず目を泳がせて遠くを眺めた。のぼせているせいか目眩もする。
向かいから廊下を慌ただしく走る領主様が何かを叫んでいるのが見えた。急いで意識を集中させるが聞き取れない。恐らくミズアドラスの言語だ。衛兵か、もしかしたらパロマさんに言っているのかもしれない。
どこかから何事かを繰り返し叫ぶ厳しい声が聞こえ、悲鳴と怒号の中には数人が唱和するような大声が混ざっていた。すぐ近くでは衛兵達が聞き慣れない呪文を素早く唱えている。
領主様は兵士と数人の家来?に囲まれて玄関の方へ向かっている。屋敷から出るつもりだろう。そりゃそうだ。私達も急いで外に出なければ。
廊下から見えるドアというドアは開け放たれて、あちこちから人が出て来ては走り去り、外に逃げているようだった。こんなに人がいたんだな。
パロマさんは突然現れた竜をただ見つめている。
ラダさんとルビさんの姿は見えない。まだ広間に残っているのだろうか。
「……偉大なる雷の竜。
領主の妻として、子供達の母親として、
私はどうしたらいいのでしょう。」
?
先程から何故か、ぼーっとしてしまっているパロマさんは恐ろしく顔色が悪い。すぐそこには竜がいるから、その言葉に嘘はないはずだ。
「とにかく、外に逃げましょう!」
促して走る。走り出すとパロマさんの方が速いから、もっと早く逃げられるのに待っていてもらうことになった。スミマセン。
すぐに焼け焦げた臭いがしてきて鼻と口を覆うように手を当てた。薄い煙も漂ってきている。上からも横からもドンドンバキバキと何かが壊れる音が止まない。
このまま崩れるかも……一階にいて助かった。
出来る限り煙を吸わないようにしながら、私達は外へ出る為に長い廊下を急いだ。
蒼く輝く満天の星空の隅に欠けた月が薄く小さくなって佇んでいる。遮るもののない夜空には暗い翼を広げて飛んでいる一匹の小柄な飛竜が悠々と円を描いていた。
外から見てみると、屋敷の二階から炎が上がり、火事が起きていることがはっきりとわかった。中からは今も何物かの鳴き声が響いている。これだけの火と煙で人が平気でいられるとは思えないから、炎を扱う魔獣が単独で投げ込まれたのだろう。
「大丈夫ですか?」
パロマさんに声をかけると、驚いたように少し仰け反り、黙って頷いた。
あ…成程。
竜がいるから話し掛けて欲しくないんだ。
…意外と分かり易い人なのかな?
アンバランスなところが不思議で面白い。竜がついて回る限り、嫌がられるんだろうな。




