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機会


「宜しければ……聖竜の支配から自由になった

 貴方の感想をもっと聞きたいわ。

 高次の存在に囚われるのは嫌じゃないの?」


 …………ん?

思ってもみない言葉に、一気に頭が晴れる。

この人は、ユイマの常識に従えば、恐ろしい事を口にした。

「……どういう意味ですか?

 自由でもないし、囚われてもいませんよ。」

 あれ?自分でも言ってることが解らないぞ?


「あの服は魔法学校のものでしょう?

 まだ学生に、聖竜に関わらせるなんて酷だわ。

 大魔女なんて、人生を捧げる仕事よ。」


 …え?……あ〜〜もしかして……(フラフラ)

この人をお母さんみたいと感じたのは、間違っていなかったかもしれない。

何となくだけど、この機会は大事にするべきではないかと思った私は、湯船から脚を上げた。


「貴方は自分がどういう存在か解っていない。

 恥ずかしい話だけれど、魔石の与える特権は、

 この世界で私と貴方しか知らないのよ。」


 恥ずかしい…何が?

良く解らない感覚だ。特権といったって竜の前で自由に話が出来るだけで、騒ぐような事にも思えない。諭すように、少し興奮気味に話す姿が逆に私を冷静にさせた。

パロマさんは全く反応しない私を見て遠慮なく目の前でため息をつくと、どこか寂しそうに遠くを見ながら話を続ける。

「魔石なんて研究され尽くしてるのに。

 ミロスの火の竜には近づけないし、

 ここも…結局はどこかで封じられたんだわ。」


「封じる…?」


「魔石の本来の力が無かった事にされたのよ。

 現代では継承されるだけの象徴でしょう?

 でも貴方には……初代に限っては、

 特別な能力を発揮するものだったのに、

 口伝や古書の記述はうやむやにされて、

 継承後も遜色ないもののように伝えられた…、

 ということだと思うわ。」


「え……じゃあ、ひょっとして、

 他の魔石には何の効果もないんですか?」


「そうなのよ。その通り。

 色々と尾ひれがついた話は在るのだけどね。

 大魔女の名前と魔石の継承はそもそも、

 初代の権力を丸ごと引き継ぎたい後継者が、

 いつからか始めたパフォーマンスだろう、

 というのが通説になっているわ。」


どういう事だろう。この世界の水準が解らない。

中世っぽいと思っていたのに急に現代的になってきた。世の中って、人によってこんなにレベルが違うものなのか。話してくれたことには感謝しつつ、こちらからも聞きたい事はまだある。

「あの……ずっと解らなかったんですけど。

 私の事を知って、何か意味があるんですか?」


「貴方に関わって、新しく知った事が既に五つ。

 魔石の効果、聖竜の出現、その祝福。そして、

 雷の竜の登場、魔法弓兵との関係……」


「通信機まで使う必要はないじゃないですか。」


「…?…通信?

 ああ、信じてもらえないのは当たり前だけど、

 保護の意味もあったのよ。大魔女様が、

 魔法使いや聖職者に守ってもらえないなんて、

 気の毒過ぎるわ。常識よ、これは。

 …ただ、無断は良くなかったわね。

 聖竜のご機嫌も損ねてしまったし。

 でも貴方、ラダから聞いた話だと、

 ぐっすり眠って起きなかったでしょう?」


「……そうみたいですね。」


「さっき言った通り魔石の効果は知らなかった。

 さぞかし苦労しているだろうから、

 聖竜からは隔離して差し上げたのよ。

 確かにね…子供達にも反対されたのだけど。

 ラダは何か勘違いしているみたいだったわ。」


「いや、でも、私もです。

 軟禁されたのかと思ってましたから。」

思いきって正直に言ってやった。不興を買っても

この際仕方ない。この人は、裏があったとしても話は通じる人だ。

「苦労している、と思ったのはどうしてですか?

 私が学生だから?」


「貴族社会の育ちで平凡な経歴の持ち主だから。

 貴方はユイマ=パリュースト子爵令嬢。

 エルト王国立リーゲル精霊魔法学校の生徒。

 三日前に派手な魔力の柱を起こして、

 持ち物を残したまま失踪した女の子でしょ?」


 !?

情報網が凄すぎる。現代世界かと思う速さなんですけど、ス…スパイか何かですか、この人!?

「え……っと、そんなに知られちゃってる……

 事件みたいになってるんですか、私。」


「当然。一大事。

 フーリゼからも魔力が観測出来たと聞いてる。

 ミズアドラスに来たとなれば、世界中の

 魔法使いが注視するわよ。保護を考えるのは、

 私に言わせれば、当たり前の事だった。

 …言い訳にしかならないけれど。」


「そんな…一言言ってくれれば…。」


「ないわ。悪いけど、貴方の人権なんて、

 気にもしない輩がほとんど。

 私もその中の一人。監視して初めて、

 本当にただの女の子だと解ったから、

 こうして対面して話す気になったのよ?」


…………言葉もない。

盛大にやらかした。いや、やらかした事が私には解らなかった。

どんなに深く思い出しても、ユイマがこんな経験をしたことがあるとは思えない。中身が異世界人では、さらに、絶望的に状況が解らない。

もしかしたら竜は、水の竜に呼ばれた事よりも、ミズアドラスの保護を当てにしてここに来たということも考えられる。アイツは基本何でも知っているのだから。

 てかさ、バレてるじゃん。派手に。

 あ、でも水の竜は関係ないと思われてるか。

 ……部屋での長話はこういう時の為かな。

お風呂に足を運ぶ私を見送っていた竜を思い出して、一人で納得する。

 お風呂に入りたかったわけじゃなくて、

 上手くやるか心配されてたのかも。

それでも放置したということは、大した問題ではないということだ。まぁ、人の性格さえイジれるわけだから、その気になれば何とでもなるのだろう。

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