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広間


 広間は廊下の突き当りにある両開きのドアの向こうに、二十畳ほどの広さを持っていた。部屋の中には一面の白壁に映える調度品が色彩も豊かに整えられている。大きな窓には薄く滑らかな布地のカーテンが掛けられ、壁には古い時代のタペストリーが、床には毛足の短い絨毯、繊細な彫刻が施された収納棚には骨董品や古書の類が飾られている。兄妹が住む別邸の応接室を兼ねている為に、広間と呼ぶにはやや装飾が多く、窮屈に感じられた。

部屋の中央には伝統的な幾何学模様のテーブルクロスが掛けられた大きな円卓が据えられ、すでに大皿のパンや果物の盛り合わせが置かれている。

動きやすい白の上下を着た使用人らしき女性が一人、円卓の隅に控えていた。


 自らをミズアドラスの領主ゼシル=リカー=グラと名乗り、肩書や経歴の紹介を終えた領主は、ジャシルシャルーンの昔からの言語と言葉遣いで竜を迎えた。魔術を誇る一族らしく、家族は全員が魔導ローブと魔法使いの正装である。

「雷の竜の君には、

 妻が大変な失礼を働いたと聞いています。

 誠に申し訳ない。私からも謝罪致します。」

両手を組み、頭を下げて謝罪する領主を中空の竜は無言で見下ろしている。

大魔女を待つ間に水の竜と大魔女についての相談があると話す領主に広間を案内されて、ただ促されるままに竜はついて行った。

領主は勿論、それが竜の気まぐれに過ぎない事を知っている。自身の置かれている立場が解らないような愚者では無かった。

広間の円卓の上で、三人を見下ろすように浮かんだ竜は近くの椅子に降り立ち最初にこう言った。


「魔とは何か。

 魔の理を容易く已等に組み込む事が、

 魔を知る者の仕業とは思えない。」


領主は、心得たとばかりに頷く。

「我々も常に憂いております。」

竜の前にあっても自然に振る舞い、会話する姿を領主の息子と娘は黙って見ている。緊張と感嘆が入り混じった表情からは、父親に対する尊敬も窺い知れる。同時にその沈黙は自ら関わることを拒んでいるとも見えた。

領主は、自分の身の周りに起きた事を偽り無く語った。

「お気づきかもしれませんが、今ここには、

 魔石も大魔女様も居られません。

 魔石すら失い、継承の儀式が出来ないのです。

 水の竜の君は、古来より魔石を持つ者を、

 友人と認めて我々の近くに来て下さった。

 それももう何年も途絶えておられます。

 もう十年以上前になりますが、

 すべては私の前妻が起こした事なのです。」

竜はすでに水の竜と大魔女についての真相を知っていたが、領主の話は全くの無駄では無かった。

認識の違いは人類社会に様々な影響を及ぼす事を同胞から知らされていたからだ。


「大変に興味深い。どうぞ話して下さい。」


領主との会話から竜は言葉遣いを学んだ。

急に柔らかく話し始めたことに違和感を感じながらも、促されて止める訳にもいかない。領主は続けて用心深く考えながらも、それと悟られないように昔話を始めた。

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