雷鳴
眩しいはずなのに目を開いていられる。この光球には見覚えがある。ログラントに来た時には祝福だと説明されたはずのものだ。多分。吸い込まれるような感覚は初めてだったけれど、よく思い返すと私は後ろから叩かれて自ら突っ込んでいたので今回の入り方が正しいのだと思う。ふわりと浮いているようで地に足がつかないのは前と同じだ。
「…転移も出来るの?」
辺りは真っ白にしか見えない。それでも何処かにライトニングさんがいてくれるはずだと信じて話しかけた。
返事は無い。…まさか。
「…え??このまま現代に帰るの!?」
「目を開けて下さい。」
何処からか響く美声を聞いて思い出した。開いているはずの目を一度思い切り閉じてから再び開く。
しかし今度は想定とは違った。以前は高い空を飛んでいたのだが、木々はすぐそこに見えて明らかに位置が低く、草木の茂みが細かに見える。丁度よく視線の先には、そう遠くないところに人の姿も在った。考えるより早くユイマの記憶が私に語りかける。アレはエルト王国国王陛下が直々に率いる王国魔法騎士団の制服だ。バチバチに帯電している亜空間を目の当たりにして何か口々に言い合っている。近寄るのは危険だと判断したのか姿を隠してしまい、こちらに近づいてくる気配はない。離れて様子を伺っているようだ。
山間の丘の上にある広場のような処に現れた私達は、ほんの少しだけ浮いていた。この場所には見覚えがある。魔法陣はまだ残してあるのだろうか。キョロキョロするよりも先に雷の竜の力が働いたらしく、ユイマの身体は静かに地面に降り立った。
「ユイマは無事です。魔女も帰りましょう。」
「え!?もう!?」
「いつでも同じですよ。帰るだけです。」
どうやら私の真上にいた雷の竜は穏やかな声で言い聞かせるように優しく言った。まるで私は駄々っ子のようだ。それでも嫌だ。まだ話したいことがある。
「ありがとう。嬉しかった。
…好きだって言ってくれて。」
「我々が魔女を嫌うわけがありません。」
…まぁね。そういうものだろうとは思ってた。
私達が考える好きとは全然違うんだ。
それでも私には十分だった。何でもいいのだ。与えてくれるなら、それを覚えて返せるかもしれない。
私はキチンと子供を守れるお母さんになりたい。家ではお祖母ちゃんが見てくれている。学校には師匠がいてくれる。私みたいな人間にも構って教えてくれる人は居て、認められる可能性はゼロではないと思わせてくれた。本当に有り難いと思っている。
姿を見て顔を見られるのが嫌で、俯いたまま、とにかく伝えたいことを言い放った。この状況で恥ずかしいとか言っていられない。
「…………。いつか、私、
ライトニングさんのおかげで幸せになれた、
って…思う……ンだと、思うよ。」
「……………。」
ライトニングさんは何か言ったのだろうか。私には微かな吐息のような音が聴こえた気がした。笑ってくれたのだと信じた。
瞬間、何かが弾けたような音が聴こえた。耳を劈く雷鳴のようだ。そう思ってビクリと顔を動かしたつもりが、動かない。
何か考え事をしていただろうか。バス停のベンチに座っていたところまでは覚えている。何があって、一体こんな処にいるのだろう。