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伝言


 清流の大魔女の正体は秘密にされていると言う割に、既にナクタ少年、トッド少年、シース隊員、トオノ隊員、聖職者のノエスエルさん等は知っているわけで、私の居る処から見ると結構ガバガバに思えてしまう。警備隊と聖殿の使者(誓約者?)には守秘義務みたいなものがあるのだと思うが、トッド少年とナクタ少年は口止めされるだけなのだろうか。

驚くことにカランゴールには通訳というハイスペック職として赴く予定のトッド少年は、ナクタ少年を案内すると言っていただけなので、製作所との仲介を終えたところで帰って来るはずだ。見た目はデカい彼も、まだ子供なのに秘密なんて守れるのか、やっぱり疑問だ。中一が大人の世界の秘密を知って自慢しないわけがないと思うのは偏見だろうが、ウチの近所の田舎では割と一般的な認識である。暇だから。田舎の人の口に戸は建てられない。…そうか。それを可能にさせるのが信仰というものだと考えるとピタリと嵌まる。


「それでは、私は外で待ちます。」


ウィノ少年が退室した後に、シース隊員が腰を折って深々と頭を下げた。そこまでして、ようやく私の顔と同じくらいの高さに降りた綺麗なつむじが見える。

「あの…ウィノ君には護衛は…いないんですか?」


「………。いらっしゃいます。

 ノエスエル様の指揮下の方がお控えですよ。」


「え?…何処に?」


「分からないようにされてます。…………。

 結界の再展開は異常事態ですから、

 聖殿は至急、関係者から情報を得たい。

 …そういう事です。通常は有り得ません。

 こちらとしてもお引き取り願います。」


「…はぁ……。」

要点を掻い摘み余計な事は話さない固い意志を感じる。プロ意識というやつだと思う。カッコいい。

私には情報がないから、面倒だろうけど少し話を聞きたかった。誰かに何かを聞くチャンスは最後かもしれないのだ。実は、ナクタ少年が残っているのが気になっている。さっきみたいに、私だけ何も知らないのは嫌だ。かといって状況を当たり障りなく説明してくれそうな人が他にはいない。

「ナクタ君は、ちゃんと、製作所に行けますか?」


「………。大丈夫でしょう。

 ファルー家に強引な真似は出来ません。

 証人とされたなら就任と解任の決議には、

 出席が求められると思いますけど、

 証人は公表されませんから…それだけです。

 心配しなくても、大魔女様の付き人だった方を、

 わざわざ証人にしたんですから、

 聖殿側もちゃんと責任は持ちますよ。」


「……そうですか。」


「他に、何か気になることはありますか?

 今ならノエスエル様にもお話を通せます。」


シース隊員が直接ナクタ少年に尋ねる。少年は急に緊張した表情になり、明晰な発声でしっかりと返事をした。


「ライトニングさんと話がしたい…です。」


「…………。」


シース隊員が私を見る。私達は特に予定は聞いていないから時間はあるはずだ。ただ、改めて、なんだろう。

「?…あ、えと、じゃあ…。」


「……。では、失礼します。」


再び軽く頭を下げると、シース隊員は踵を返して立ち去った。ドアの扉が閉まると同時に私は大きく溜息をつき、あからさまに気の抜けた声でナクタ少年に竜の隣に座るように促した。決してシース隊員が苦手なわけではない。子供と動物だけの方が楽なのだ。

「礼儀なんか気にしなくていいから。

 ライトニングさんはライトニングさんだしね。」

本人の意向など無視してそう伝えると、ようやく少年は竜の隣に腰を下ろした。


「話は終わりましたか?」


雷の竜は頭を持ち上げて少年に語りかけた。待っていたかのようだ。ナクタ少年も明るく微笑んで嬉しそうに見える。あまり見たことのない表情だ。


「…ありがとう御座いました。」


真っ直ぐに竜の目を見て何を言うかと思えば、いやに丁寧な感謝の言葉だった。


「貴方がたの礼儀は、

 我々には特に意味の無いものですよ。」


「でもこういうのは、きちんとしないと。」


 …へぇ~…偉いなぁ…。


「あと、ライトニングさんにも聞いて欲しい話が、

 …俺にはよく解らない内容だから。」


 …にも?…てことは私?

察してナクタ少年を見る。真っ直ぐに顔を見たのは久しぶりな気すらする。おかしいな。


「その…一言伝えて欲しいって言われて。

 ……イドからなん…ですけど。」


 !いい加減しつこいわジジイ!

先程のオジサン侵入事案により私はキレている。顔に出るくらいにキレている。少年が顰め面の私にやや驚くのを目の前に見据えながらも改める気はない。なんか凄い人だったぽいけれど、それはそれ、これはこれ。凄い人だろうがオジサンはオジサン。

「ごめん。…さっきそこで警備してたでしょ?

 勝手に人を通すからムカついてて。」


「あ〜〜〜、大魔女様には…無礼かもなぁ。」


「………。そんなに偉そうにしてるかな?」


「いや、水の竜信仰の人じゃないんだから、

 ユイマさんは、それでいいと思います。」


さすがナクタ少年。話がわかる。やっぱりキミ、普通に賢いよね。てかイド氏も伝言なんか頼むより直接言う方が早いだろ。

 …あ、違うわ。偶然なんだっけ。

 会うとは思わなかったんだな…。

「……もしかして、ナクタ君を元に戻したの、

 …イドさん?」


「はい。……もう聞いてますか?」


「?何?…ウィノ君のことなら少し聞いたけど。」


「ウィノ?…なら違うか。

 多分、例の病気の事なんだろうけど、

 昔の事がハッキリして助かった、って。

 ファルー家は全部知っているはずだから、

 そのうち犯人を聞こうと思ってるって。」


「!はぁ!?何考えてんの!!?」


「……本当に怒った…。」


「……え?」


「や、怒るだろうって言ってたから…。

 でも、ファルー家が知ってるって、

 どういう意味…ですか?」


「……………。」

悪いけど答えたくない。世界には知らない方が良いことが確かにある。ジジイ、伝言とか何とか言って最後まで余計な事を…。

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