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誠実


 シース隊員は父上様が何を企てたのか知らない。逆にナクタ少年は大迷惑を被った当事者になるからか、ウィノ少年から誠実に経緯の説明を受けたと思われる。でなければナクタ少年も清流の大魔女がウィノ少年だとは知らなかったはずだ。ファルー家側に属する人間ならば友人とはいえ簡単には話せないだろう。

これまでの話を聞く限りは御当主様と父上様は同一人物でも違和感はない。別人だとしても同じ穴の狢の印象だ。…ムカつく事の後なのでつい悪意のある表現になってしまった。それについては私が言うことではないと思うし、あまりウィノ少年の前で言いたくもない。何の責任も無いことだから、わざわざ触れない理由もよく分かる。ナクタ少年だけは全力で訴えていいはずなのだけど、少年は浮かない顔をするばかりで黙っていた。

 …え〜と…つまんない誤魔化しをするのが、

 魔法使いを嫌う理由…?……??それだけ??

 それより父上…サンのやったことの方が、

 酷いし雑だし、やり方として、最低じゃない?

よくよく考えると、それが本当に魔法使いを嫌う理由ならば酷い話がもう一つ増える。御当主様だか何だか知らないが、そんな風に纏めて貶めるような、ハッキリ言って馬鹿にしているという理由で、ファルー家がウィノ少年の夢を否定していたのなら私はかなりのファインプレーをしたと胸を張って言える。家族だろうが根拠も曖昧な他人の好き嫌いに人生を左右されるなんて、あまりに気の毒だ。逆境だというのも解っているのだから好きにさせてあげればいいのに。

 そりゃ、いろいろあったのかもしれないけどさ…。

 …他所のウチの事なんか知らんけど。

 本人の意志で決めたわけで、

 雷の竜は最初から推してる風だったし、

 …私は願いを叶えただけのはずですから。

父上サンには余計な事だったのだろう。それでも私は悪いことをしたとは思っていない。

現代世界の感覚だと父上サンのナクタ少年への行いは悪意がある上に影響も大きく、間違いどころか真っ当に犯罪ではないかと思う程の事だ。それが平気で出来てしまう人の判断になど従いたいものではない。ウィノ少年が諦めきれなかったはずだ。基本、彼はとても勘がいいのだから。(なのに何故かミスリードはしてしまう事が判明し、謎は深まる。)

雷の竜と雷光の大魔女様は、ファルー家当主よりも水の竜と新しい清流の大魔女が指導者として相応しいと考える。もうこうなったら、そういう意図なのだとご理解頂きたい。完全にあと付けの理屈なのだが結果的に正しかったと思うので、後はよろしく。

この領国の文化も法律も知らない私には、現状をどう考えるべきなのかも解らない。

黙ったままの少年二人が相手の為に黙っているのか、自分の為に黙っているのかも解らない。とにかく今は、ナクタ少年の未来に支障があるのは望ましくない。

 ……は!

 ……私、進路を心配する親みたいになってる…?

ふと現代世界の自分が置かれている立場から見えるものと重なってしまった。受験を控えた大事な時期に学校で何か問題があった時にどうするべきか、シミュレーションをしているようだ。異世界では他人事だから冷静に状況を見られる。…ただし私は保護者役だ。ちょっと悲しい。

理想的な保護者とは心に何を宿した生き物なのかが上手く想像出来ないけれど、悪くない事をしたのなら立派ってことでいいと思う。…我ながら理想が低くて再び悲しい。でも本当の気持ちだ。悪い事さえしてくれなければ、私は一人でも何とか出来た。ナクタ少年は私以上にしっかりしている。そっとしておくのが一番だ。…多分。

いろいろと頭を回して考えてみたつもりだが、結局は無力である。無知ゆえに。法律とか、仕事に繋がる勉強をしておくことは大事なんだな、真面目に。せめて少年に知識があれば、私は信じてあげられたと思うんだけど…。


「…僕は聖殿の使者の方との面会があるので、

 そろそろ失礼します。」


 目的がよく解らなかったのだが、ウィノ少年はどうやら清流の大魔女として挨拶に来たらしい。ナクタ少年は、このタイミングで付き人を辞めるとハッキリ言いに来たのだろう。あまりハッキリ言えていないので少しモヤッとする感じはあるけれど、とりあえず耳にしたので、まぁいいか。

 …あ、そうだ、いい機会だから聞いとこ。

「使者って…ノエスエルさん?」


「あ、はい…そうです。お会いになりましたか?

 聖殿を案内する、"誓約者"の一人です。」


「…案内人の事?」


「古い名前です。聖殿創設の時代からの…、

 ファルー家よりずっと古くからある御名前で、

 ノエリナビエ様に直接仕えたとされています。」


「…へぇ…。ファルー家以外にも使うんだね。」


「そうですね。…でも意味は同じではなくて、

 聖殿では御役目に付く者に与えられます。

 …えっと…"役職"と"御役目"は別のもので、

 役職は全ての聖職者に与えられる階級ですが、

 御役目の方は大魔女様に関係する仕事をします。

 ノエリナビエ様を御守りする誓約を交わした、

 ん゙ん゙…そうですね…親衛隊のような方々です。

 一般には隠密行動が前提の専門家ですが…、

 何の専門家なのかは秘密です。」


「……そうなんだ…。」

"誓約者"とか、"聖殿創設の時代"とか、"隠密行動が前提の専門家"とか、なんとなくワクワクするフレーズだ。そんな所にあったのか、ロマンチックでファンタジックな冒険は…。(夢想)

結局最後まで生臭い過去と抗争と野蛮な差別とほぼ暴力の世界から抜け出せなかった私はリアルと変わらず疲れ果てている。聖なる竜という神秘的な生き物もユイマの思っていたものとはまるで違うSF世界の住人っぽい何者かで、実は今だに私もよく分からないままだ。

雷の竜は今もベッドの隅で興味も無さげに丸まっている。勿論部屋に来た三人共から丁寧に挨拶をされたのに、拗ねた猫みたいで大人げがない。私だけは一人掛けのソファに座っていたが、他は全員立ちっぱなしだ。少年達は見た目が既に疲れているので、他に椅子が無いからと、ベッドに座るよう言ったのだが断わられた。丸まった聖なる竜の横では遠慮されるのも仕方がない。


「俺は…了解を貰わないといけないんで、

 サインして欲しいんですけど、いいですか?」


「!」

 ナクタ少年、契約書なんか持ち歩いてたのか…。

 …さすがウズラ亭。ちゃんとしてる。

少年は肩掛け鞄から取り出した一枚の用紙をベッド脇のサイドデスクの上に開いて見せた。折り目がついてヨレた紙に書かれている文字は所々に読める部分があるものの内容を把握出来る程ではない。何処にサインするべきかも解らないからナクタ少年に教えて貰い、言われるがままにサインをしようとしてルドラステスタさんから貰ったペンを持ったのだが、ユイマの名前が上手く書けない。記憶の通りに身体を動かすという作業は意外と難しいものだった。

 これ…筆跡変わっちゃうんじゃない…?

中身が違うと筆跡も変わる可能性は大いにあるのではないか。カランゴールにさえ着いてしまえば問題ないのか。いや、ファルー家の人間も清流の大魔女様も領主家すら知る事なのだから心配無用か…。

ぐるぐると不安が渦巻き、結局ガタガタの筆跡になってしまった。…もう知らん。雷光の大魔女に中身が違う容疑がかかっても既に私は異世界から引き揚げているという寸法よ、フフフ…。悪いな、ユイマ=パリュースト…!

悪役ぶって乗り切ったが、どうにもならなかったので許して欲しい。

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