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順番


 扉番をしていた警備隊は巨人族の魔法使いとヒト族の剣士だった。どちらも男性だ。詳細を確認する必要があるということで、トオノ隊員が話をしているのを素知らぬ振りで耳を立てていた。

ユイマの知識を持つ者としては、領主家の長男というトップアスリートみたいに育てられた人(多分)より格上と聞いているフロイレーヌさんの人柄や腕前が気になる。そうしたらなんと警備隊の新人魔法使いにとってフロイレーヌさんは教官のような存在だったらしく、巨人族の警備隊員は師匠から要事を頼まれた事に緊張していると語ったから驚いた。吸血族である事より尊敬が勝ったようだ。本人をよく知らない私は、三メートルに届こうかという巨人が五歳の幼女に魔法を習う絵面が上手く想像出来ずに呆然としてしまう。気の強い感じで歯に衣着せぬ物言いをしていたはずだけど、魔法の師匠としては優秀な人材のようだ。

 警備隊の二人はきちんと指示書を大事に持っていた。これはそういう決まりらしい。用紙とサインをウィノ少年が確認して、間違いないと頷いた。荒々しい達筆に見えたが、ユイマにはミズアドラスの言葉は正確には読めない。幾つか知っている単語があって、そこから類推出来るものもあるが、まぁ大体は読めない。竜の能力でも無理なのか、会話と識字は別の能力ということなのか、また機会があれば聞いてみよう。魔法使いだけが使う言語というのが存在しているので、ミズアドラスでも其処だけは理解出来た。領主家には専門書があったから丁度良かったのだが、今思えば、パロマさんの用意したフーリゼの書籍だろう。ユイマが使うエルト王国の言語はフーリゼの公用語と似ている。

 ……ぼんやりし過ぎてまた脱線してる…。

父上様の政治関係では私は全く無力なので、考えが逸れたら歯止めが効かない。夜には強いと思っているけれど、ぼんやりもしたくなる真夜中過ぎだ。

これからどうなるのかを決めるのはウィノ少年だろう。聖殿が不祥事(内容は結局知らないまま)を起こし領主家は身内の審判待ちで、ファルー家がリーダーシップを取ろうという時に、私達はその当主と思われる父上様から排斥すべき異物と断じられてしまったのだから。雷の竜が居たからといって、私は力で黙らせたい訳では無い。そんなことになるなら此処から去る。てかもう帰る。悪いけどそれが今此処にいる雷光の大魔女様の実力だ。

 ライトニングさんも言ってたな。

 ここからは水の竜の動きが大事とかナントカ…。

私の心配は、火の竜の魔石とナクタ少年と清流の大魔女の危機。魔石と大魔女の危機は、この際ウィノ少年なら乗り越えられると思う。もう信じるしかないのだ。人を信じられるようになる必要があると思ったのは、こういう感じのシチュエーションを想定してはいなかったのだけど、まぁ同じ事。問題は、ナクタ少年である。


「僕一人で行きます。」


ウィノ少年が力強く宣言した。邸宅から離れた洞窟の扉の外は真っ暗だ。ランタンの灯りだけが眩しい。


「念の為、ジュラを連れて行って下さい。」


トオノ隊員にジュラと呼ばれたのは腰に大小二本の剣を提げた剣士の警備隊員だ。ウィノ少年は俯いている。


「印象が悪くなるよ?」


「魔法使いも武人も、

 両方嫌う訳にはいかないでしょう。」


「……そうか…。ジュラは、いいの?」


「私は元々傭兵です。

 良いも悪いもありません。

 不味くなれば移るだけです。」


傭兵…初めて見た。私には、かなり体格が良く首の太いアジア系の人に見える。それが流儀なのか、会話中も仏頂面を崩さない。


「…言ってね。良いところ紹介してもらう。

 叔母様なんか、顔が広いから。」


「良い坊っちゃんで、有り難いですね。」


嬉しそうに笑ったウィノ少年は、そのままジュラ隊員を伴って、ファルー家の邸宅に向かおうとする。ちょっと待って、私達ここでどうすんの?


「あ!あの……とりあえず、私達とナクタ君、

 荷物持って帰っていい?ウズラ亭に。」


いけない、忘れてた、という台詞が聴こえてきそうなウィノ少年の振る舞いにイラッとしながらも、確認しないわけにはいかない。荷物はヨソのお宅の中なのだから。


「父上様に了承させます。ナクタの件は、

 直接謝らないなら、書状で。

 ここで、このままお待ち下さい。」


「……………。

 洞窟の中の方が明るいから、それでいい?」

警備の面でもその方が安心だ。周りが暗いと、それだけで怖くて嫌だ。


「それはもう、どうぞご自由に。

 …あの……ありがとうございます。」


「?」

なんで御礼を言われたのか解らない。わからないが、私の提案をウィノ少年は喜んでいたように見えた。身を守る為には良い案だと思ってくれたのかな。

こんな事があっては仕方ないとは思うけれど、終始ウィノ少年はバツが悪そうだった。

ナクタ少年の事は、何がなんだかよくわからないうちに謝られてしまったが、ファルー家の父上様の行動に子供のキミが責任を感じる必要は無いだろうに。普通、逆だろ。




 ……というわけで、暫く暇になった私達はサッサと引き上げ、洞窟内の岩に腰掛けて話していた。扉番を抜けたジュラ隊員の代わりが来るらしいが、待つ必要も無い。何より早く座りたかったのだ。

蝋燭立てのロウソクは十分に長く太い。どれほど時間がかかるかわからないとはいえ、トオノ隊員も居るし、いざとなったらライトニングさんと逃げるだけだ。いつでも帰ればいいと思うと、心理的にも完全に閑話である。逆に、気になることを聞くならもうチャンスは無いかもしれない。帰れば何の意味も無いことだとしても、覚えてもいないとしても、去り際にスッキリしないのは嫌だ。

「……ライトニングさん。

 大魔女の魔石を、魔女以外が使うなら、

 何か制限かかるの?」


「魔石には使用の制限などありませんが、

 魔女にのみ許される条件が設けられています。」


「…つまり、魔女でなくても使える?」


「そのはずです。ですが現時点では、

 この世界にその技術は生まれません。」


「?」


「今は過去からの現在です。

 今からの未来は変化する可能性もあります。」


 ??なんかよくわかんないけど??

「……そういうもんなんだ…。」


「そういうものです。」


 ……まぁ、よくわからないままだけど…。

「…ふ〜ん。……魔石に眠っているユイマと、

 ライトニングさんは、話すことは出来る?」


「通常の会話は不可能です。

 対話を望むならば我々も眠る必要があります。

 …ネルロヴィオラのことを考えていますね?」


「うん、そう。」


「火の竜の魔石にネルロヴィオラが眠るならば、

 火の竜は魔女の望みを叶えられます。

 火の竜が魔女の意志を確認出来れば、

 魔石は魔女の望みを叶えるでしょう。」


「ん??なんか、順番があるの?」


「そうですね。順番です。

 逆にすると、魔女が世界に居ないのならば、

 我々は魔女の望みを叶える事は出来ません。

 我々が魔女の意志を確認出来なければ、

 魔石は望みを叶えることはありません。」


「…だから、ノエリナビエの、

 水の竜の魔石は扱えないってこと?」


「そのはずです。魔の分野に於いて、

 技術的な革新は簡単には起こりません。

 ほとんどが我々の授けたものですから。」


それはユイマにも解る話だ。

「……ライトニングさんは、

 ネルロヴィオラと魔石のこと、

 教えて貰ってなかったんだよね?」


「その通りです。私だけではない。

 これは新たな検証材料です。

 火の竜は帰還を経験していない竜ですから、

 我々にも情報が欠けていました。

 やはり魔女は素晴らしい。」


「……気持ち悪いな…何?」


「変化を生む可能性があるものです。

 勿論、未来が即座に変わるのではなく、

 大部分は其処に在る情報が異なるだけです。

 ですが、そのほんの少しの違いが

 歴史の中で綿密に編み込まれることで、

 時と共に様相を変え、

 在る地点で差異を造ることも考えられます。

 貴方がたには、可能性が発現すると例えたら、

 わかりやすいと思いますよ。」


「……例えなの?」


「そうです。例えの域を出ないものです。

 今の我々には不確かなものですから。

 ですが、大いなる可能性が発芽したのだと、

 私は思いますよ。魔女のおかげです。」


「???……へ〜〜〜……。」

全くわからん。

「とりあえず、新しい事が分かったんだよね?

 火の竜は帰還してないから…あ、そうか。

 だから、報告みたいなことしてないんだ?

 ……だったら水の竜も怪しくない?

 水の竜も帰還した事は無いでしょ?」


「ユイマの召喚に応じるまでは、

 暫く深く眠っていたそうですよ。」


「……?なんではぐらかすの?

 てか、水の竜の救難信号みたいなこと、

 言ってたと思うけど、ユイマの提案じゃん。」


「ユイマの提案は、身体の借用です。

 召喚にファルーの矢が使われることは、

 我々は既に知っています。結果の為に、

 全ては起こるべくして起こされたのです。」


「?結果の為?…………は??」

結果を出す為に行動する、じゃなくて、結果が出るのが分かっているから、その通りに動く、ってことか。グラ家の別邸に押し掛けた時と似たようなことかな。収斂性がナントカって言ってたヤツだろう。多分。違うかもしれないけど、きっと。…もうそれでいいことにしよう。わからん。

「……やっぱりライトニングさんは…、

 …や、聖なる竜は、独特な感覚で生きてるね。」


「そうでしょうか?正確なはずですよ。」


「…ふぅ〜〜ん…。」

正確には、よくわからんけど。多分、竜達にしかわからないんだろうな。

「……そういえば、ウィノ君は、

 まだ魔石貰ってないよね?水の竜に。」


「あれは少し時間が必要です。」


「そうなんだ…。どうやって創るの?」


「ユイマには理解出来ないことです。

 魔女に縁のある物が材料になります。」


「そうなの?……てか、話していいの?」

ちなみにトオノ隊員は座るように勧めても頑なに断り、ずっと私達の傍らに立っていた。


「雷光の大魔女である魔女が話すか、

 二人目の清流の大魔女が話すかの違いです。

 むしろ後者の方が信憑性があると思われる。

 そうでしょう?」


なんかまた酷いこと言われた気がする。

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