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結界


 気付けば水の竜とウィノ少年の会話は、大結界を展開する為の具体的な打ち合わせに移っていた。常に行き当たりばったりの雷の竜と雷光の大魔女は先々の予定を話し合った事もろくに無かった。驚くほどに、ちゃんとしている。


「結界を張ります。危険は遠ざけて下さい。

 理解を優先しますから、

 完全に行き渡るのは時間がかかります。」


「?」


「苦しい思いをする者が居てはいけません。

 少しずつでなければならないのです。」


「…わかりました。ですが、仰る…危険の…、

 僕達はその基準がわかりません。」


「自ら理解するでしょう。」


何やら水の竜とウィノ少年の間で話が噛み合っていない。経験上こういう時は要注意だ。知られざる驚愕の事実が明かされたり起こるべき重大な何かが待っている。そんな気がする。いや間違いない。あまりにも気になるので我慢出来ずにライトニングさんに話しかけた。


「もう話してもいいんだよね?」


「魔女は小さな声でお願いします。」


そういえば竜の声は音ではないからどれだけ話しても五月蝿くはならないわけだ。

「…もしかして、ライトニングさんの声、

 聞かせる対象も選べる?」


「勿論ですよ。

 そうでなければ隠れる事など不可能です。」


言われてみればその通りだ。今更知ったからといってどうということもないけれど。


「水の竜が言ってることが、

 わかんないんだけど、どういう意味?」


「結界に抑圧されるものたちが、

 ミズアドラスを離れる迄には、

 時間がかかるという事です。」


「弾かれる、とかじゃないんだ。」


「力には力で対抗しますが、

 そうでないものには効果は緩慢です。」


「……魔獣とか、吸血族は、大丈夫なの?」


「そもそも問題ではありません。

 大結界と呼ばれるものに禁止されるのは、

 竜の承認を得ない侵犯行為です。

 主に、転移と不適切な侵入、

 異界の魔力と魔のものの召喚及び生成等です。

 例の事件も我々自身の不意討ちならば、

 禁止事項となり相殺されていたはずです。」


武装集団の襲撃事件の事だ。火の竜自身が来るような事態だったなら、むしろ弾かれて無事だったのに、ということか。考えられていたんだ。さすがミロス帝国は魔法の理解と知識が深い。…まさか火の竜が教えたんじゃないだろうな…。

「聖なる竜が、テロ計画に加担するなんて、

 ……そんなこと、ないよね?」


「それが世界の危機を避ける手段ならば、

 あり得ることです。」


 !?

 ……………あ……あり得る。一応平和にはなるし。

 敵わないのが、考えるまでもなく解るから……。

当時何かの理由で北と南が緊張状態だったのなら、諍いや衝突を避ける為に、とか…まさか……。

ああ〜いいやもう!私はログラントの人間じゃない!ユイマにはショックだとしても今ココに居るのは私だ。何よりもう何十年も前に過ぎてしまったことなのだ。

「…………ん?…てかさ、

 結界破るような魔法は、使えるの?」


「広範囲の大魔法、強大な魔力精製、

 強力な呪詛等は感知されるのみですが、

 即座に座標を特定することが出来ます。

 他にも、抑制されるものに、

 魔の混濁、暴走、消失、乱調、不和の影響、

 などがあります。」


「……………。」

 温泉の効能みたいだ…。

大魔法を使っても場所を特定されるだけなら、開き直れば問題ない。堂々と武力行使する為に来たのだから。そういうことか。さすが武力と技術の帝国。…ユイマの知識を使うと帝国よりの賛美しか出てこない…事実なのか怪しく思えてきた。

しかし竜の説明だけでは大雑把過ぎてイメージがし辛い。具体例を考えるなら……とりあえず借金まみれの引きこもりジジイの部屋は閉鎖されるようです。今は避難中らしいから丁度良かった。物理的に分断されるだけだから、また浮遊魔法かなんかで造り直せばいいのだろうけど、上に建物があるから大変そうだ。あのまま埋めるのかな…?

「……大精霊の加護は?」


「大精霊の召喚は承認が必要でしょうね。」


成程。承認とやらがあればいいのか。フロイレーヌさんはウィノ少年のお姉さんだから、お願いすれば大丈夫だろう。もうあんまり必要ないような事を言ってはいたものの、領主家とのご縁の賜物だし、今更手放すのも難しいだろう。

精霊というのは自由なもので、親しむと望まずとも寄って来ることすらあるのだ。だからといって一方的な態度に出ると下手したら殺られる。マジで。魔の世界に於いて気まぐれとされる存在を舐めて掛かってはいけないのだ。向こうがどれだけ自分勝手で奔放であろうが、人類サイドはキッチリカッチリ、ルール通りが鉄則である。逆に言うと、それさえ守っていれば、どうしようもないヤツラだな、なんて思っていても仲良くしてくれる。本当は怖い精霊の話。まぁそれはソレとして。

「……危険なものって?」


「直ぐにわかります。」


 ?何?

嫌な予感がする。前にもこんなようなことを言われなかったか?

「危険が、迫ってる…ということ?」


「心配はありません。

 魔女は大切な役割を果たしてくれました。」


「役割じゃなくて、人も、心配ない?」


「全てを把握している訳ではありませんよ。」


「この後、何かあるの?」


「わかりません。飛び越えることもありえます。」


「話せないの?」


「…魔女の誕生を快く思わない者達の、

 襲撃を受ける可能性があります。

 結界の展開は居場所を教えるも同じ事です。」


 !!

言われてみればその通りだ。<讃える会>の可能性は高いが、別の人達もあり得る。まぁ、どっちでも同じようなものか。けど今更言われても、中断なんて出来るのだろうか。

「……あ、待てよ……?

 それ…いつか来るかもしれないなら、

 今やっといた方がいいんじゃない?」


「魔女の良いように。

 繰り返しますが、可能性の話です。」


「え……や…でも……、

 帰って寝てる間に、とかよりマシでしょ?

 最悪ファルー家まで燃やされることも、

 有り得るってことでしょ?」


「無いとは、言い切れません。」


「…てか今何時だろ。皆何してる時間?」


「そろそろ真夜中に近いはずです。」


「は!?……そんなに寝てたの私!?」


「声が大きいですよ。」


「あ、じゃあ……予定してた通り…、

 今日中に、っていう……、

 ギリギリまで寝かしてくれたんだ…。」


「ギリギリでしたね。」


 皆さん、やっさし〜〜〜。

だが今はそれどころじゃない。優しさに甘えて無為無策というわけにはいかない。

……この思考ルーチン結構普段使いに役立つな。ウィノ少年の対策をしていたら自己啓発されたみたいで一石二鳥だった。なんだか自分の中に一本、芯が通ったようにクリアな感情がある。感覚かもしれない。物凄く懐かしい、正しさとか、明晰さとか、そんなもの。

同時に現代世界ではその真逆にあたるものに騙し騙し従っていたことが、いかに悲惨かが解る。

この世のハラスメントを統べる者達の下に生まれた、悪の申し子、それが私…!

なんて、今なら冗談にも出来る。…冗談にならないだろうか。それでもいい。認識しなければ始まらない。今から、ここからでも、始めなければ。

「……なんとかなる?」


「なんとかとは?」


「撃退か…出来れば再起不能にする。」


「私には容易いことです。

 問題は、我々を狙うとは限らない事です。」


大問題だ。

「…………。……いっそ、囮になるとか…。

 ウィノ君のことは、知らないでしょ?」


「魔女が望むのなら。」


「………え…っと、ライトニングさんが、

 なんとかしてくれるなら……いけるけど。」


「なんとかとは?」


「敵を防いで、私の身を守ってくれるのなら。」


「それは我々が、このログラントに於いて、

 神話の時代より行ってきたことです。」


確かに竜には原点だった。とても心強い返事だ。

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