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十五年以上前に残された会話



「……こんなところに隠れなくても…。

 読書するなら他にも場所はありますのに。」


「人が居ると話をしないといけないから。

 ただの会合なんか居る意味ないしさ。」


「意味がないわけないでしょう。」


「ない。僕には。

 挨拶の後は待つのが暇なだけ。

 …ここいいね。管理任されてるの?」


「違います。………。

 ワタクシは扉を開けられるだけ。」


「ふ〜ん。……そうだ。

 フロイレーヌも一緒に読めばいい。」


「…人を悪い事に引き摺り込まないで。

 そんな考えなら、その本返して下さいな。」


「嫌だ。こんな本、初めて見る。

 ……歴史なんか読むの?」


「なんかとは何です。

 歴史は人を表現していますわ。

 人は人の魂に触れて生きていますのよ。」


「…ふ〜ん。なんか名言ぽいね。」


「…………。

 ワタクシの敬愛する作家の言葉です。」


「ふ〜ん……そう…。」


「………。まぁ、でも、良かったですわ。

 お元気そうで。」


「もう、読んでるから。」


「あら、ごめんなさい。」



・・・・・・・・・・

十年程前、同じ場所に残された会話



「………。…ラダ=リー様…。

 …ラダ=リー様、お気付きで?

 今からお掃除をしなければいけませんの。

 こんな所で寝てらっしゃらないで、

 お部屋を移っていただけませんか?

 ウチの新人さん達が困っていますわ。」


「…………。……!?フロイレーヌ…?

 …ラダでいいよ。誰だかわからない。」


「は?……はぁ…。変装は同じですのに…。

 多少声が変わりましたかしら?」


「あんな、猫なで声みたいな言い方…。

 君が使うと思わないだろ。」


「…………。一応、侍女ですので…。

 ……わかりました。

 では、ラダ。早くここを出て下さいな。」


「ああ。……少し休ませてくれないかな…。

 …ここは丁度いい風が来るからさ……。」


「そのように管理していますから。」


「…………。」


「…………。聞いてらっしゃる?

 皆様とっくに帰られました。貴方も、

 もう逃げ回っていい立場じゃないでしょう。」


「…疲れたから休んでるだけなんだけど…。」


「それはそれは大切なことですけれど、

 他所でなさりませ。

 動かないのなら無理やりに、

 魔法で吹き飛ばす事も可能でしてよ?」


「…怖…。」


「本気で言っていますの。……困りますから。

 次回からもうこの部屋は使わせません。」


「……そっか。…わかった。」


「本、置きっぱなしですわよ。」


「ああ。…あげるよ。読んだし。

 今までのお礼に。」


「…………。それはどうもご丁寧に。」



・・・・・・・・・・

一年程前、同じ場所に残された会話



「陰干しの日なら入れるよね?」


「!?どこからそんな情報を…!?

 ……よろしいですけど、

 今日は他の来客もありますから。」


「来客?」


「ウィーノさんの友達ですの。」


「ああ、後継者の。…前に会って驚いたよ。」


「何かありました?」


「御父上に全然似てない。

 見た目はともかく、性格はまるで正反対だ。

 …優秀な執事として教育されたみたいだね。」


「………。なんて言ったらいいかしら…?」


「いや、ただの感想。…どうするか…。

 また本でも読もうと思って持ってきたのに。」


「ふ。懐かしいですわね…。

 …………。

 前もいらしたけれど、同じ用事で?」


「…………。他に無いかな。」


「…………。

 国外に出る度に大変ですわね。

 ご挨拶なんて伝達だけで十分ですのに。

 こんな…待たせてまでやらせなくても…。」


「……………。」


「ごめんなさい。出過ぎたことを。

 ……当主がどなたと仲良しか存じませんけど、

 領主家御子息に対して、アベコベですもの…。」


「………。僕の責任でやってることだ。」


「……………。

 お仕事が好きすぎるのも良くありませんから。

 お体には気をつけて。」


「それ前も聞いた。」


「そうでしょうね。」


「そうも言ってられない。」


「良くないものは良くありません。」


「………。まぁ、出来る限り…。」


「ええ。お気をつけて。」


「………………。

 ……ところで、フロイレーヌ。

 最近、君さ…何かあった?」


「?何か?……?どこか変かしら?

 何も変えてませんけど…急になんですの?

 気になる所でもありました?」


「…………。

 いや、無いならいいんだ。…………そっか。

 …もう時間も無いから、行かないと。

 この本は君にあげる。大事にしてよ?」


「!?」


「じゃあ、また。」


「え?……あら…もういない。

 今迄に見たことの無い速さですわね…。

 何しにいらしたのかしら??

 …………探検史…。珍しい…外国の翻訳本!?

 まぁ、素敵!!………?…ワタクシの趣味?

 ………………………。

 まさか…誕生日の贈り物……なんて……。

 嘘!?……………??でも一体どこから??

 …………。いえ、領主家ならやりかねない…。

 ………………………。

 ………………………。

 ………ふ。そうね…五歳の幼女ですもの。

 うっかりしていましたわ。

 お別れくらいちゃんとしたかったのに…。

 ……まぁ、もう子供でもありませんし、

 この逃げ足の速さなら、

 ちゃっかりやって行けそうですわね。ふふ。」



・・・・・・・・・・

二十五年程前、同じ場所に残された会話



「ここがワタクシのお部屋ですの。

 倉庫みたいなんて言われますけど、

 ご本も積み木も楽しくてよ。」


「くらくてこわい…。イヤだここ。」


「遊んであげたくても、ワタクシ、

 他の場所は知りません。入っては駄目で…。

 ……見ての通り、何もありませんから、

 手遊びでもしましょうか?」


「もう帰る!」(泣)


「…御父様はお話中ですのよ。……はぁ。

 同い年だから遊んであげて欲しいなんて、

 呑気に言われましても…、貴方三歳?四歳?

 ……領主家は平和でよろしいわね。」


「…グス…。……よんさい。」


「あら、上手。」


「ラダ=リー=グラ。」


「そう!……本名?…聞いていいのかしら…。

 護衛の方?……いいんですの?へぇ…。

 あ、いいのよ。気にしなくて。

 なんて呼んだらいいかしら?」


「ラダだよ!言ったでしょ!?」


「そうね。聞いてましたわね。

 ………まぁまぁ、泣きながらですものね。

 けど、泣いていてもお話を聞けるなんて、

 貴方偉いじゃないの。頑張るわねぇ。」


「グス…。……くらいの平気なの?

 なんでまだ小さいのに難しいこと話すの?」


「まあ!…不思議には思うものかしら…。

 ワタクシ、きゅうけつぞく、っていうのよ。

 小さくても大人なの。」


「…それ。御父様が言ってた。

 頑張って、きちんとお話するんだ、って。」


「へぇ……これもお勉強なのね…。そう……。

 お話と言っても……難しいのは駄目よね。

 ……どうしようかしら……。

 そうだわ。妹さんが生まれたのよね?

 赤ちゃんが家にいるんでしょう?」


「!いるよ。ルビ。」


「遊んであげるの?」


「ずっと寝てる。」


「そう。……まぁ普通はそうよね。」


「似てるよ。」


「ワタクシと?どんなところが?」


「女の子。」


「…………………。貴方……、

 御家族までそういう区分でいては駄目よ?」


「女の子じゃないの?」


「あのね。さっきから…。

 人を指差ししないのよ?

 ワタクシは、ちゃんと、女の子です!

 ……はぁ…。もうそれはよろしいわ。

 難しいかもしれませんわね。

 ……でも貴方も、

 ただ男の子、というだけじゃないでしょう?

 貴方だけのものがあるはずよ。

 ええと…気持ちとか…なりたいものとか。」


「……!僕、領主になるんだよ。」


「そう!…そうね。凄いわ…。

 ……やっぱり呑気なだけでもないのねぇ…。」


「フロイは家来ね。」


「…………。

 まぁ……そうなりますわね。否応なしに。

 …いずれ、ですけれど。………。」


「ごっこ遊びだよ!家来でしょ!?」


「……あ、そういうこと。…はいはい…。

 そうね…、こんなふうにお話が出来るのも、

 今のうちだけですものねぇ?………はぁ…。」



・・・・・・・・・・ 

         名も無き鍵穴の精霊の記憶

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