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疑問


 吸血族が幼体である期間は種族に拠るが、ヒトなら一〜二歳まで(二年間)くらい。全般に養分摂取の機能が完成すれば成体である。それまでは血を飲むだけだった食事は変化し、脳や臓物も好む様になる。一般の人類が母乳等から固形物を食べるようになるのと似ている。身体的に完成するのも同じ頃。種によっては未熟に見えるが、サイズが小さいだけで、強度と性能は魔力が補う。持ち前の魔力が強大ならば身体的にも強靭だとされている。

魔と魔力については未確定とせざるを得ないが、魔石に代表されるような自然物、無機物に起こる魔力の蓄積、或は魔の凝りと呼ばれる現象が生物にも起きていると考えられる。専門に研究する魔法使いによれば、吸血族の成体は魔力の釜のようなイメージであるという。

食事には魔力供給の意味がある為、出来る限り生きたままの状態が望ましい。魔力の釜と例えられる体内に、養分となるものを焚べる事で魔力を補う。一部の魔獣を除いては、魔力の生体内循環、及び精製、増幅等は未だ原理的に解明されていない。吸血族もそれは同じである。肉や野菜だけを食べても、ある程度は生きられるが、魔力の不足は自身の身体強度を落とし、循環を妨げバランスを崩す。本来大きな魔力を持つ者は身体の制御が困難となる。重篤な場合、全身にショック症状が起こる事もある。そうなると直ちに精神にも影響が現れ、"内から喰われる"と表現される錯乱状態に至る。強度を失った肉体はそれそのものが魔力の釜に焚べられ、最後には朽ちた骨と肉片が残る。魔力の渦は再び魔を求めて霧散する。

 脳が小さい生き物や循環器系に困難がある吸血族が生まれた場合、容赦なく共喰いするという。

吸血族がそれらを好み、また生命の中に宿り自ら増幅する魔力は、魔を求めるという魔の理の概念から、生物の体内を巡る魔力は脳と循環器系に大きく関係すると考えられている。

吸血族はその強大な魔力の為に食の本能が魔に支配されるのだという説もある。

(参考文献: 

 エルト王国吸血族研究会報第三号、十一号)


 〜エルト王国立リーゲル精霊魔法学校五回生

  ユイマ=パリューストの課題レポートより。






「…次にジャシルシャルーン。」


 フロイレーヌさんの言葉使いがどこかのんびりしていたせいか、不思議なくらいに長閑な空気の中でライトニングさんはサクサクと話を進めていく。俯いたままのフロイレーヌさんと俄然話に食いつき気味のラダさんは、全く意思疎通のない状態で平気でいる。この人達お互いに自分勝手で我儘だ。自由過ぎる。こんな感じで大丈夫なの?と、見ているこっちが心配になってきた。余計なお世話かもしれないけれど。


「聖殿が自らを貶める行いをした理由は、

 何だと思いますか?」


「!!」


遠慮なく空気がヒリついた。なぜかラダさんは物凄く神経を尖らせているようだが、第三者としては当然の疑問だ。


「………。

 元聖殿長…フロブラ殿は…、事件の時、

 水の竜の結界が崩れ去るのを、

 自身の肌で感じたと言っていました。

 ……"火の竜の魔石は生きている"、と。」


「!!?」


泣いていたはずのフロイレーヌさんが立ち上がった。椅子がガタリと音を立てるのと、ラダさんが手の動きで制止するのがほとんど同時で、フロイレーヌさんは直ぐに自身の口を押さえ、ゆっくりと体を折り曲げると、再び浅く掛けた椅子の上に屈み込んだ。


「成程。」


ライトニングさんはいつも通り、落ち着いて聞いている。ラダさん達はまだ知らないのだろうが、雷の竜には記憶が読める。聖殿長の発言は火災の後に再会した時点でわかっていたはずだ。竜に理解出来ないのは、その先だろう。


「……水の竜の魔石は、そうではない。

 "大魔女も何もかもまがい物だ"、と。」


「ええ。」


「…………。最後には………。

 …私にも…真意を測りかねる処があり…、

 亡くなる前に口にされた言葉を、

 そのままお伝えします……。

 "偉大なる初代、大魔女ネルロヴィオラは、

 今も大いなる御力と共にこの世界に在られる。

 真実の信仰はミロスにこそあるのだ。"……。」


「それが理由ですか?」


「!!本当なのですか…!?」


「半分は本当のことと言えましょう。」


「半分…?」


「火の竜の魔石については、

 私も何も知らされていない為に不明です。

 もしもそれが真相であるのなら、

 なぜ火の竜が我々に語らないのかといえば、

 おそらくそれが魔女の願いなのでしょう。」


「………。」


「言葉の真意は私にもわかりません。

 しかし本当ならば全て解決します。

 結界を解除したのは火の竜の魔石でしょう。

 貴方がたはどうして吸血族の仕業と、

 考えたのです?」


「それが、現場の…聖殿側の説明でした。」


「ええ…それが可能だと?」


「………当時は私は子供でしたので…。

 ですがおそらく、不可能を可能にするならば、

 未確定の魔力である実験的な結界と、

 把握できていない威力のせいであると、

 そう結論するしか無かったのではないかと…。」


「聖殿長が、火の竜の魔石が使われた事を、

 正直に話していれば良かったのでは?」


「……それは……。」


「火の竜の魔石が生きていたら、何なのです?

 ネルロヴィオラがこの世に在ることと、

 水の竜の聖殿に何の関係があるのです?」


「……………。

 実際に、自身の目で見て確かめた事では、

 無かったのだと…思います。

 ただし…水の竜信仰への、信心は……、

 次第に薄れていったのでしょう。」


「他人も巻き込んで、立場も関係なく、

 ミロスの火の竜を信じる事になったと?」


「……………。そうです。」


「わかりました。」


 ??は??なにそれ??

私には何もわからない。ちなみに、さっきから話されている事の全てが私にはどうでもいいことにしか思えない。ラダさんの真剣な表情も大げさに、芝居じみて感じられるくらいだ。


「……偉大なる初代、大魔女ネルロヴィオラは、

 本当に生きているのですか?」


「魔石が本来の力を持つのならば、

 確かにこの世界に存在します。」


「…まさか…そんな事は不可能では…?」


可能だ。私とユイマには思い当たる事がある。


「…………。

 魔石でございましょう…。」


震える細い声の先には直角に身体を折ったままのフロイレーヌさんがいた。思い通りにならないのか、ぎこちなく上体を起こすと、顔をラダさんだけに見せて、必死の様相でしぶとく物言いをつけている。ここまでくると大した性格だと思う。


「魔石に眠られているのです。その魂が。」


「………………。」


呆気に取られたような顔でラダさんは沈黙した。

「……私も、その可能性があると思います。」

というか、正直それしか考えられない。

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