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喧嘩


 ナクタ少年はラダさんが何をしたどんな人かを知らない。話す必要も無いと考えている。フロイレーヌさんも、ラダさんを前にした反応を見る限り、どこまで聞いているのか解らない。

 …何も、こちらから話すことは無いかな。

思い返せばラダさんとは、領主家の人間と大魔女(しかも竜と一緒だったり)という立場が前提での会話しかしていないから、こうして個人的に知り合いと話していると別人みたいで素直に驚く。実際ビジュアルも少し違っていた。さっきは伸びたままだったボブカットの髪の毛を、自分で適当に結んだのか、一括りに纏めている。残念ながら不器用にあちこち毛束が散らかってしまっているが、コレは仕方ない。長さが中途半端だと、この運命は避けられないのだ。わかる。

どうやら二人は出会い頭に文句を言い合えるくらいには親しい?間柄のようだ。今のところ一方的にラダさんが言われているけれども。フロイレーヌさんは形は小さくとも気は強いタイプなのだろう。感謝しているのと文句があるのとは別の話ということらしい。

呼ばれた訳でも無いのにボストンバッグが開いている。なんとなく私はソレを制止した。

「まだ話してる。」


「…………。」


バッグはそのまま閉じられた。

確かに領主家の事で話したい、とは言いましたけど。けどそれ、二人だけの時にしときます。話を聞く限り久しぶりに会うらしいし、もしかしたらまた暫く…ずっと会えないかもしれない。


「もうご挨拶は済んでいるのでしょうね?

 ワタクシ、このような機会を頂いて、

 大変嬉しいのですけど、…どういうこと?

 何のために呼ばれたのかわからなくて。

 …お仕事はお仕事でしょう?」


「大魔女様の警護。」


「それは聞いていますの。

 こんなところで、何から護るというのです?

 ウチにはたくさん警備隊も居るのに…。」


「……僕から。」


「は?」


「ルビは予定が立て込んでいて、

 直ぐに帰らないといけなかったから。

 今、ここには僕以上の魔法使いが、

 君しかいないんだ。」


「……はぁ…。何をおっしゃるやら。

 貴方、雷の竜の君よりもお強いつもり?」


「そうじゃない。

 最低限の礼節だということだよ、それが!」


「………。一応頭は回っていますのね…。

 何があったか存じませんけど、今ここで、

 貴方の立場で、竜の君と大魔女様の目の前で、

 私なんかとお話ししているのは、

 失礼だとは思いませんの?」


「君が話を長くしたんじゃないの。」


「順番を馬鹿にしてはいけません。

 人のせいになさらないで。」


…思ったより甘いものでもなかった……。

 なんだろう…見た目では分かり難いけど、

 幼馴染かなにか?仲は悪いわけではない?

 いや本当に仲悪い?…わかんないな大人だし。

ともかく喧嘩にならないうちに間に入った方がいいだろうか。


「御二人に話があるのは僕だ。

 君には警護を頼んでいる。

 これ以上の無駄話は不要だろ。」


「……そうですわね。…………。

 大変失礼致しました。お見苦しい所を…。

 領主家と竜の君と大魔女様、

 御三方でのお話ということでしたのに。」


結局フロイレーヌさんが折れたようだ。折れたというか、物分かりの良い性格なのかな。

竜の前だから素直に謝れない人は頑固に謝らないだろう。喧嘩を始められるのは実は一番厄介ではないかと、ふと考えた。

「あの…椅子どうぞ。二人…座れますよ。

 まだこっちにもあるんで…、

 ……あ、私が言うの違うか!すみません!」


「やだ可愛い!!……え!?

 あら!?ごめんなさい!大変な失礼を…!!

 ??あらら??変ね。

 何かしら。先程からおかしくて。

 ついついおしゃべりをしてしまいますの。」


「…ああ、そういうことか。

 君は頭の中は忙しい人なんだね。」


「……暇人だと思っているのね。

 そうね。貴方ほど多忙ではありませんもの。」


 ……ウチの両親の喧嘩みたいだ…。

興奮して話している時は落ち着いて考える事も無かったのだろうか。フロイレーヌさんがようやく超常たる異変に気がついた。遅い。遅すぎる。おかしいと思っていても突っ走るタイプ?この人、異常なくらいに鈍くない??

 てか、さっきからラダさんが、

 嫌味なオジサンみたいな会話してるから、

 見た目とのギャップが酷いんですけど…。


「よろしいか?」


ボストンバッグから救済の美声が響く。心がささくれ立っていると、傷を洗い流すかのような浄化効果がある。


「……雷の竜の君……で、あられるの…?」


フロイレーヌさんが文字通り全身で震えている。勧められるままに椅子に座ろうとしていたのだが、ピタリと止まり、立ち上がってしまった。

実は私も不思議に思っていた。水の竜信仰では雷の竜などという存在は認められないと言われてもおかしくない。リッカ少女は同じ聖なる竜だとして排除するようなことは考えていないようだったが、初めて知る存在に、どうしてそこまでして会いたいのだろう。

「……あの、フロイレーヌさん…は、

 前から知ってたんですか?雷の竜を。」

結局また会話を優先した私はバッグの口を手で押さえて偉大なる雷の竜を封印した。竜が話をしたがるのも珍しいけど、雷の竜を知っている事はそれ以上に稀有なはずだ。


「ええ!…はい。…お気付きかもしれませんが、

 ワタクシは、吸血族と呼ばれるもので…。

 ヒト族ですのに、なかなか歳をとらない、

 おかしな特徴がありますの…。」


こちらを伺う様にフロイレーヌさんが上目遣いを送ってきた。幼女の姿をしているから、反応を恐れているようで不憫に思えてしまう。

「大丈夫です。吸血族は知ってます。」

とりあえずそう言うと、簡単な私の言葉に、分かりやすくホッとした明るい表情を見せた。


「……初めて知ったのは十五年ほど前の事です。

 ワタクシまだ、普通に見れば三歳位でしたわ。

 今は領主家の奥方様であられる、

 パロマ様にお会いする機会がありましたの。

 その時は外国の研究者としていらして、

 交流会でお見かけしたのですけど、

 そこでワタクシ、お話だけでも聞きたくて、

 親戚の子供として演技をしていましたのよ。

 …けれど直ぐにバレてしまって…。

 才能ある方は違いますのね。何から何まで。

 正直にお話しましたら、怒られるどころか、

 親切に、いろんな事を教えて頂きました。

 前時代フーリゼの…雷光の英雄、

 と呼ばれる人物をご存知ですか?」


「え!?……あ、はい。少しだけ。」

ちなみに身体は本人です。中身が違いますけど。

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