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芸術


「魔女はこの後に予定があるのでしょう。

 私は席を外しましょうか?」


「えぇ!?」


「なんでライトニングさんが!」


私とナクタ少年が揃って抗議の声を上げる。


「話が拗れるのは好ましい事ではありません。」


「!俺は、……拗れさせるつもりは…。」


今だにその理由はよくわからないけれど、強い親愛を注ぐ竜に意見されてナクタ少年が詰まった。

そのつもりは無くてもそうなる事は世の中に山程あり、星の数程の言い訳が爆誕するのが常となっていることくらいは私でも知っている。知っていてもやっぱりそれを繰り返すのがヒトというものだと達観して少年の様子を見守り、同時に自分自身にも釘を刺すが効果はあまり期待出来ない。釘か私のどちらかが役立たずだと推測される。

「本人が気にしてないなら、いいじゃん。」

詰まって抜け出せないようなので、とりあえず言ってみたものの正直私も少し引いている。製作に夢中になると材料の事など忘れてしまうのだろうか。


「………。それはそうだけど…。

 普通こんなこと有り得ないですから。

 …覚えといて下さい。」


「…え……ああ…そうだよね。うん。」

ナクタ少年は、ぼんやりと聞いている私の生返事では納得出来なかったらしく、険しい表情で声を潜めた。


「…ウィノの姉ちゃん、ああ見えてかなり、

 ぶっ飛んでるんですよ。ウィノよりもっと。」


「ええぇ!?どこが??」

ウィノ少年のことを多少ぶっ飛んでいると思っていることにも驚いたが、どうやらエリアナお姉さんとは知った仲のようだ。教えてくれたのに悪いけど、私は何も知らない。ヒソヒソ話の甲斐もなく大声を出されて、ナクタ少年も陰口は諦めたようだった。お年頃とは信じられないくらいに物分りのいい子で助かる。仕事だからだろうけど。

エリアナお姉さんの様子を気にして見ると、何も聞こえなかったらしくシース隊員と話し中だ。知らないとはいえ気にはなるので聞こえても構わないレベルで話せないだろうか。

「…?何か…思想とか、信仰の話?」

ミズアドラスで水の竜の議会に関わる家のご令嬢が水の竜を信仰していないわけがないとは思うけれど、だからこそ違う信仰や信念を持った為に悪く言われてしまうとか、そういうストーリーがあるのでは…。


「なんでか知らないけど、いっつも……、

 常に自分がルールなんです。」


 あ、そう。……見えないな。

もう慣れた展開だ。やっぱり私の考えることは、とことん的外れなのか。言葉通りならシンプルに怖い人ということになる。今のところ全くそんな風には見えない。むしろ大人しくて可愛らしい感じだから、ああ見えて、どころかサイコパスみたいなイメージになってしまい、俄に信じられない。カチンときたら制御不能のタイプなのだろうか。暴力は勿論恐いが、そのタイプは女性でも本当にぶっ飛んでいたり後を引いたりして別の意味で怖いと聞く。ニュースで見るレベルの異常者を参照しているので違ったらとんでもなく失礼だけど。

「まぁそういう人もいるし、

 私も流れでそんな感じになってるし。」

大魔女様の好待遇だからね。


「……そうですね。」


肯定されてしまった。…反省しときます。



 芸術なんて時間とお金に余裕が無いとやっていられないジャンルだと教えられている田舎者の私は、逆に芸術に造詣が深い人なんて話を聞くと、思慮深く、広く深い知識と認識の織り成す世界を見つめて、私達が住むのとは全く別の世界に羽ばたく才能のある人だと勝手に思っている。漫画が好きだから絵は嫌いじゃない。芸術作品を直接見る機会なんかほぼ無いから教科書に載っている名画を少し知っているだけで、この思い込みみたいな尊敬も、その解説を読んで感嘆した経験に拠るものだ。芸術については実際、本質の部分は何も知らない。理解出来る気もしないのに見てみないとわからない、と強がりで思っているのだ。


「大魔女様に興味を持ってもらえるなんて、

 それだけでも幸運です。

 ありがとうございます。」


ニコニコと笑顔を浮かべて本当に嬉しそうなエリアナお姉さんが怖い人にはやはり見えない。ナクタ少年の感性が基準だと考えると、いい人過ぎて怪しまれているのではないかと思う。エリアナお姉さんは確かに何か、こう…芯のない感じなのかなと思うところはあるのだ。ウィノ少年と一緒にいればお姉さんらしく振る舞うことになるだろうし、注意したり叱るにも少年相手に上手く説明できなければ自分がルールと言われてしまうだろう。そういう誤解をそのままにしてしまう人なのではないだろうか。似たような人を現代世界で知っている。何でも直ぐに態度に出る私に言わせれば羨ましいくらいだけど。

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