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安易


 要は清流の大魔女をさっさと決めてしまえばいいという話だと思うのだけど、ユイマも知っての通り大魔女には力がある。本人の魔力は問題ではなく魔法使いの世界の指導者としての力だ。安易に決めて良いものでもないのだろう。

大魔女といえばユイマには只の象徴に等しい。竜と人類を繋ぐ役目と聞いていただけで詳細も解らないのに偉大であるという、謎が多くて想像するにも情報の少ない存在だった。エルト王国ではどうして大魔女の言動が実際の生活にはあまり関係のないもののように伝えられているのかと言ったら、やっぱり国王家一族や高名な魔法使いの方々からもイロイロな意見が出るからだろうとアレヤコレヤが頭に浮かんで複雑な気分だ。実際それで正解ということも有り得るわけだし。

とにかく有難い御方という大魔女だけど、実際それになってみると今のところ何も難しい事では無い。言われてみれば確かに、むしろ純粋な子供の方が適任かもしれない。

ナクタ少年が推薦されたのはライトニングさんの気まぐれか何かかと半ば冗談のように受け取っていたが、ちゃんと考えてみればナクタ少年なら問題なくやれる。変に思えるけど、ログラントに於いて魔法使いの指導者は魔法に詳しくある必要が無い。なぜなら竜が正しいから。魔に関して人類の理解はまだそれに遠く及ばないからだ。

しかもライトニングさんを見る限り、何も知らなくてもイチから親切丁寧に教えてくれるのである。初代の大魔女達の頃の話を聞けば、聖なる竜は魔の力を魔法を以て使いこなす為に魔の解釈を与える存在であるらしい。それは偉大な魔法使いが授かると決まったものではない。素人だろうが子供だろうがアリなのだ。聖なる竜が自ら素人の子供を推薦した以上、そうとしか考えられない。

偉そうに望ましい資質を上げるなら、勉強家であること、正しい事を正しいと言えること。そして何より竜を信じることが出来ること、になると思う。

 大魔女は傀儡ではない。竜を使役する者でも竜と闘う者でもない。私が異世界転移した時のユイマの知識には無かった事だが、彼らは彼らの目的の通過点にあり、その完遂の為に必要な調整をすべく人類を管理監督しているらしい。大魔女はそのサポートであり、私の場合は能力に縛りがある竜の代わりに、なんとか目的到達地点に近づける道を探る捜査犬のような役割の気がしてきている。人類の感覚や知性のレベルなんかが彼らには本気で解らないらしいから。未来を調整しようにも、その世界の主人公の理解を超えてはいけない決まりがあるから、当の主人公達に方針を決めさせる。言ってしまえば、そういう事だ。

今のところ竜の能力を見せるだけなら問題無いらしい。"聖なる竜は魔法を与える存在であり、人類に測れる者ではない。彼等だけは規格外だと理解されている"という判定かな?

 でも、そうなると、なんで私?

 私だけ違う世界から来てるのは…?

 どうなってんの??

世界を跨ぐ事はユイマの提案ではない。竜の話にユイマがノッた格好だと聞いている。

 …………。

「ライトニングさん。

 私は、この世界に来るの、初めて?」


バッグを見下ろして話す私からの質問が予想外だったのだろう。雷の竜の君と呼ばれる存在は珍しく返答に時間をかけた。


「初めてです。」


「何迷ってたの?」


「魔女が怒っているのかと。」


「?なんで?」


「動き出した理由がわかりませんから。」


 ?質問しただけで動くって言う?

「…どういう意味???いけない?」


「いいえ。喜ばしいことですよ。」


捜査犬が鼻を動かし始めたぞ…みたいな事かな?だったらそれは喜ばしいよね。その動きこそが目的達成に近づく可能性を秘めているわけだから。

ユイマと同じような事を未来の私がやろうとしても不思議ではないかなと思って聞いてみたのだが、違うらしい。どうしても問題が片付かなかったら、それも出来るんじゃないかと思う。この世界の人間じゃないと難しいだろうか…。

「私がこの世界に来たのは、誰かが、

 この世界の誰かがそれを考えたからだよね?」


「…成程。」


「それは、ずっと昔の人でもいいでしょ?

 初代の頃とか。何でも話せるもんね?」


「その通りです。」


「領主家の事と、その事、後で話したい。」


「魔女が望むなら叶うでしょう。」


周りの人々が聞いているのもお構い無しで会話をしていた。何のことか解らないだろう。それでいい。大魔女はきっと、そういうものでないと竜と対等では居られない。大魔女ならそう考えてもおかしくない。竜と親しむ程にそうなるはずだ。

エリアナお姉さんの話を聞いて、ミズアドラスの清流の大魔女は竜の友人と呼べる存在ではなかったのかもしれないと考えたら、なんだか行動が振り切れてしまった。本気でナクタ少年が清流になればいいと思うし、ウィノ少年が大魔女とそれに関わる事にあまり好意的でないのも過去にイロイロと何事かがあったのではないかと想像してしまう。丁度いいからここで雷光の大魔女様のお偉くてお堅いイメージをぶっ壊してやった方が良いと思った。何言ってるんだかわかんない人と思われた方がまだマシ。今迄の、そういう人達と一緒にしないで欲しい。

 ……本当だ…怒ってたのか…私。

どうも自分が何を感じているのかがイマイチよく解らない。自分が解らないのに、竜には解っていた。つまり他人には解りやすいのだから随分恥ずかしい性格だ。さすがにちょっとは自覚していたけれど、自分でも解らなかったり気付かない事は直すのも難しい。行き過ぎるとキレて大胆な行動に出る人間にもなりかねないなと危機感は持っている。一応。

 …頑張ろう。

 なんか、頑張れる気がしてきた。

私以外の大魔女達も同じ話を聞いてきているはずなのだ。興味が無ければ深入りしないかもしれないが、それでも竜から説明はされていたはず。それを事変が起こる前のユイマは全く知らなかった。パロマさんも知らなかった。大戦の英雄の一族もどうやら知らない様子だ。つまり随分と長い間、世界と時空の考え方は進歩していない。竜と大魔女はそれを世界にもたらしていない。聖なる竜はもしかして諦めたのかもしれない。当時の人類の理解を超えていたから。進歩していないから異界を跨ぐ召喚魔法を恐れないのだ。空間転移もそうだ。ユイマは戦々恐々としていたが、イド氏ほどの魔法使いでも無頓着だった。

それを理解したのがおそらく一度目のユイマだ。元々召喚が苦手な精霊魔法使いだった。自然と肌感覚で世界を跨ぐリスクや恐ろしさに気付いていたのだ。フーリゼに伝わる雷光の英雄は、記憶が無いから解らないが(パロマさんなら知っているだろうか)何かしら英雄と呼ばれる体験をして帰還した。彼女の身体を借りた私が更に、フィクションで慣れている設定、という理由で理解が早かった。同じ理屈ではないだろうけど、イメージとして話は何となく解る、というレベルだけど。

召喚魔法は相互関係だから異界の方から関わって来た時には、お帰りくださいと断る訳にもいかない。目的があって竜達に許している事を不可能にする訳にもいかない。現代風に言うと、そういう事だと思う。元凶は、世界が捻れて無くなる未来の存在だ。恐ろしい可能性を王様が封じようとした事だ。

 ………いや、でも……難しい……。

ちょっとどう考えるべきなのか、解らない。

避けられるのに何もしないのは、正解とは言い難い。何もしなければ、魔の扱いに長けた世界の主人公達が勝手に時空を越えて異世界に対してやりたい放題も出来る訳だ。竜はおそらくそれらより上位にあり、ログラントも私達の世界も守られているということだろう。

 ………ん〜〜〜あ〜〜〜〜………難しい……。

結局結論は出ず、ふと気付けば私はまた周りの話を全く聞いていないのだった。

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