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栄誉


 話の中心はウィノ少年なのかと思いきや一通りの自己紹介の後に少年達は立ったまま暫く談話をしていた。ナクタは水くさいとか急に決まったとかファルー家には俺の親戚も世話になったとか。

へ〜〜と思う情報も多少は混ざった話に耳を傾けている間にも、グラ家の二人が座っていた椅子は警備隊員の二人によって壁際に片付けられ、ほどなくして扉をノックする音が聞こえる。待っていたかのようにシース隊員さんが扉を開き、片付けられたものよりは幾らか簡素な椅子が、服の素材や色の違うメイドさん?達の手で運ばれて来た。今度のメイドさん?達は薄い青とベージュでコーディネートされている。立ったままでいる少年達の人数分の椅子をそれぞれの後ろに合わせて置くと直に一礼して引き上げて行った。

舞台の設営後に控えていたのはエリアナお姉さんだ。何かさっきと違うなと思ったら、頭の上に西洋史の本で見た聖職者の様な白い帽子を被っている。こちらはもう済ませたつもりでいたのに、部屋に入る前と正面での挨拶は欠かさず、むしろ丁寧にゆっくりと行われた。


「ファルー家の栄誉を。

 この身と全てに預かります恩恵に感謝を。」


スラスラと前置きの様な言葉を述べてゆくエリアナお姉さんは、どうやら"大魔女への対応を任せられたウィノ少年のお姉さん"とは少し違う立場にいるらしい。昔のしきたりの通りにしなければならないらしいから、それに則ったことなのだろうか。大人が居ないのが不自然だけど、格調を守った儀式みたいだ。


「雷の竜の君と雷光の大魔女様に、

 ファルー家よりアルヴァラートと、

 クェスターニアーの古き名を持つ者が、

 お話をさせて頂きます。」


何もしないのに膝に置いたバッグが内側から開いた。呼ばれて顔を出した雷の竜は、バッグと一体化した姿のまま喋り始める。


「領主家はグラ家の他に幾つあるのです?」


いきなりの質問に、さすがに答えの用意がないのか、ややたじろいだエリアナお姉さんだったが、返事は思い切りよく明晰だった。


「古きよりグラ家の他に五つです。」


「ノエリナビエの従者達ですね。

 どうして領主家は変わらないのです?」


「…領主様は…水の竜の君と大魔女様を失い、

 大変な御立場にあります。

 代理の結界を何とか間に合わせたのは、

 他でもないグラ家の努力であり功績です。

 ……長男のラダ様は優秀な研究者であり、

 長女のルビ様は特に魔法においては、

 天性の才能のある方と知られていますから、

 御二方に期待する人達も多いのです。」


「領主の妻に魔導士のエルフが居てもですか?」


「奥方様はグラ家の方です…が…?」


「では他の家にも"この地の魔女"が、

 洗練されたエルフやドワーフや、

 吸血族が居たならば、変わりますか?」


「…………。」


「そうは考えませんでしたか。」


「志あるお家があれば…、

 そうされたかもしれません。……ですが、

 …目的の為に境遇を強いる事は出来ません。」


「ファルー家がそうはなれないのですか?」


「…………。

 ファルー家には領主の資格を持つラフマとは、

 一つにはならない誇りがあります。

 ラフマヤーの皆様のお決めになる大魔女様に、

 困惑してきたことも過去にはありました。

 私共は、民を助け民と共にある。

 英雄ファルーの意思を受け継ぐ者。

 そのように習い、実際に助け合う事で、

 成り立っている一族と、自らを考えています。」


 ん……ん〜〜〜と?

 なんか変換出来ない単語が入ってるっぽいな。

 領主の資格のある…お家柄のことかな?

多分、貴族とか士族みたいな言葉だと推測する。

 意外にお姉さん…強い…。

エリアナお姉さんが自分と似たタイプだなんて見当違いの大間違いだ。(しかもかなり図々しい間違いだった…。)ハッキリ言う人だなと感じたのが正しかったのだ。不測の事態に驚いてしまうのは、考えてみれば誰でもそうなることで、やはりウィノ少年がおかしい。本人にそんな意図は全く無いのだろうけど、感覚が麻痺させられていた事に気が付いた。同じファルー家の人だから似た様な反応が当たり前だと誤解してしまったが、お姉さんが動揺しがちなわけではない。何も変わらないウィノ少年の、何というか、個性的な才覚の方が異常。


「魔女はそれで良いと思いますか?」


「え?私?」

また来た。さっきもだけど、急に振られても困る。来るかもと思ってはいたから自分の事なら多少強気にはなれるけど、この話に私、関係ないよね?

「ミズアドラスは水の竜信仰なんでしょ?

 わたしは雷光の大魔女だから違う人だし、

 聖殿とか、その、ラフマ様?とか、

 ちゃんと知ってる偉い人に聞いた方が、

 いいんじゃないの?…何も知らないのに…。」


「聖殿は背信行為があったのでしょう?」


「……はい。そう聞いています。」

竜に顔を向けられて、エリアナお姉さんが答える。


「それで抗議する人々もいると、

 ファルー家のアルヴァラートが言いました。」


「はい。弟がお伝えしたのですね…。」


「では誰を頼りに貴方がたは進むのです?」


「…………。

 ……水の竜の君に…大魔女様から、

 直接お話して頂けると、伺っております。」


 …へ〜〜〜。そういう問題なのか。

 聖殿とか大魔女って本当に指導者なんだ…。

 領主は権力者で……違う性質なのかな?

 特定の家柄しかなれないみたいだし、

 民主主義の選挙なんか無いのかな。

 …う〜〜ん……誰を頼りに、か……。

「……ナクタ君、本当に大魔女やる気ないの?」

軽い気持ちで問いかけた私の言葉が行き渡ると同時に、ファルー家の二人以外の全員の視線がナクタ少年に集中した。トッド少年にいたっては、思い切り"はぁ!?"と叫んでナクタ少年を指でつついている。

 え??報告したんだよね?ウィノ少年??

同じ事を考えたと思われるエリアナお姉さんが頭を傾けてウィノ少年に目線を送る。


「…その話題に触れるとは…。」


などと呟いてウィノ少年は顔を逸らした。一族には話していたらしいが、それ以外に責任は無いと思っていたようだ。私もこの場が何なのか説明されてない。領主家の二人が会いたいと言っていることは聞いていたけど、立て続けに何が始まったのかと不思議に思っていたから、お姉さんの振る舞いを見てようやく腑に落ちた。ウィノ少年が説明を忘れたか面倒臭くて省いたな、さては。(でなければ何か思惑があった?)

当のナクタ少年は周りの反応にギクリとした様な顔色を見せたものの、別に何でもありませんから、とでも言いたげな態度で白を切るつもりらしい。

 ……ごめん。言わない方が良かったか。

打診があるだけで一大事なんだな。いやウィノ少年がそんな感じの事を言っていたけど、私がそんな立場に慣れるはずもなく……申し訳ない。


「しつこいのは感心しませんよ。」


誰あろう雷の竜にたしなめられてしまった。言い出しっぺのくせに切り替えが早いな、この竜。

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