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自覚


 どれくらい時間が過ぎたのか。私には長く感じたけれど、ルビさんには足りなかったと思う。


「魔女はどうするのです?」


沈黙を破ったのは、やっぱり竜だった。この場で最も高い位置に居るのはこのひとなのだから、ジャッジを下すのは当然…なんじゃないの!?

「私!?え?大魔女っていっても、

 私は清流の大魔女じゃない…から…。」

雷の竜はバッグの中でゴソゴソと動いて体の向きを変えると顔を上げて真っ直ぐに私を見た。

 "わだかまりはないように"?

 私、何も文句なんか言ってないよね!?

 わだかまりが出来る程に突っ込む気はないし、

 ルビさんの言葉はそもそも、

 私に向けて言ったものではないでしょ??

「…………。

 あの、本当に、私の意見なんか…、

 わざわざ聞きたいですか?」

 …あ、あれ?なんか変な事言ったかも。


「…………。はい、勿論です…。」


俯きがちにルビさんが答えた。まだ涙は途切れず、時々しゃくりあげながら今は堪えている。

 嘘でしょ?嘘じゃないの??

 私はミズアドラスの人間でも、

 水の竜信仰の対象でもないのにナンデ??

 いきなりそんな判断を任されても困る!!

「私は…その……。」


「どうするというのは、関係性の事ですよ。」


 え?

竜の言葉に固まった。思考停止して一瞬何も見えなくなる。私は何て恐ろしい勘違いをしていたのだろう。"高い位置に居る人間がジャッジを下すのは当然"て、ここは裁判所でも何でもないのに。

 ……駄目だ。………私は本当に駄目なんだ。

改めて自覚した。恥ずかしいには違いないけれど、それが何故か愉快で爽快だ。何かが剥がされていくようで。塗り込められて窒息しかかったところにヒビが入って割れてゆく。隙間から差す風を逃がすまいと大きく息を吸った。

 どうしてこれまでわからなかったんだろう…。

ボーっとしている私の顔を竜が眺めているのに気が付いた。あ、そうだった。関係性…かぁ。

「あの、私としては、やっぱり…まずは、

 ラダさんには裁判とか受けて欲しいから、

 二人にそのつもりがあるのか、

 気になるんですけど…。」


「…………。」


「私はもとよりそのつもりです。

 さすがにそこまで止められては、

 権利侵害ですからね。」


沈黙するルビさんを無視してラダさんがきっぱりと強調した。軽口を言えるくらいには気分を持ち直したのか、そうでもしないとルビさんが泣き止まないからか。

泣きながら口元に笑みを作ったルビさんを見て、多分後者なのだろうな、と何となく察した。



 一族に罪人がいることは領主にマイナスにはならないのか、少し気になる。グラ家は以前も聖殿長をしていたナリナ氏が魔石と大魔女を失った責任者として追放されていたはずだ。

そう考えると、ラダさんはその為にも生き延びるべきではないと言ったのだろうし、ルビさんはひょっとしたら何かしらの手段で誤魔化したかったのかもしれない。

ユイマもミズアドラスの法律なんか詳しくないから単純に私の意見を言った。どんな人だろうが、作為があって人が死んでいるのにお咎め無しなんて訳にはいかないと思ったのだけど、この事件も放っといたら真相が伏せられたりしたのだろうか。いや多分大いに伏せられる部分はあるんだろう。現領主様が知ってた事なんか明るみになる訳が無いよね普通に考えて。…さっき思い知ったけど私の考える普通って大分悪いな。…汚いというか…。

二人は相当仲の良い兄妹だった。ぶっちゃけ私にはお互いにシスコンとブラコンにしか見えない。仲良しは結構なことだ。別に美しいとも思わないし共感もしないが、お互いの主張を認め合える関係は見ていて、ああ良かった、と思う。

「…良かった。」

口に出したらきちんと全てが終わった気がした。


「良かったですね。」


二人が退席した後でぼんやりと独り言ちたのを竜が拾い上げる。恥ずかしいからいらんことしないで欲しい、とは思わなかった。不思議と現実的な言葉に聞こえる。

「ライトニングさん、

 水の竜って、同じものなんだよね?

 私は何するのかもわかんないけど、

 水の竜は知ってるってこと?」


「その通りです。」


水の竜に会うことと結界の再展開を頼むことは私も考えていたと話したら、二人共に喜んでくれた。関係性というなら、力になるつもりでいるわけだから、良好ということになるのかな?

大魔女をどうするのかは特に決めていないし、水の竜と話してみないとわからない。これもそのまま伝えた。なんでか次の清流の大魔女について私達に聞いてくるから不思議だったのだけれど、もしかしたらナクタ少年が推薦された件を聞いていたのかもしれない。初代ノエリナビエも推薦されて決まったという話が残っているわけだし…。

「…水の竜に会ったら、そこでお別れ?」


「どうでしょうか。」


「そんなんばっかり。」


「我々にはわからないのですよ、本当に。」


竜の顔は何となく笑っているように見えた。

 …………。つまんない。

つまらないのは勿体ないからだ。私が安心して好意を持てる相手なんて滅多にいない。今も聖人(仮)と師匠(仮)の二人だけだし、この先現れるかもわからない。

 …ライトニングさんが人間だったらなぁ…。

益体もないこと、というやつなのは解っている。

漫然とした安心感と漠然とした信頼しか確認出来ない。ぐっすり眠れる許しと浅い精神の感応でしかない。だけどそんな存在が私を私と認めてくれているなら、私にはそれ以上のものは要らない。むしろ今が最高なんですけど。

 ……てか他人との間にそれ以上は無理だ。

 怖いだけだ……。

こうでないといけないという我儘なのだろうか。難しい要求をしているのだろうか。

では何が適正なのかが私にはわからない。

これは恋、とか、愛、とか、友情、とか、青春だから、とか教えられた通りのカテゴライズはどれも空々しく感じて疎外感だけが増してしまう。正直、情と呼ばれているものすら自分の中に在るのか無いのかもわからない。

素直になれるなら好きってわけでもない。竜の言うように私は恐い相手には表面上素直になる。慣れてしまえば暗示にもかかるかもしれない。それではまるで躾けられた家畜だ。

 …………。

 …………。つまんない。



 別れが近いとなれば色々と思う事もある。同じものと言ったって、どのくらい同じか解らないのだから不安だ。

 見た目も同じなのかな?

 水の竜に期待していた感じではない?

 ……人間だったらなぁ〜なんて思ったけど、

 本当に人に近い見た目だったら……。

 ……………無理だな。

結局やっぱり肉体の生々しさが無いからいいだけだと納得し結論とした。ああ、さっぱりした。


「少年達が来ましたよ。」


考えている事まではわからないはずだが、何となくヒヤリとした気分で竜を見る。顔に出ていない事を祈るしかない。

それにしても、こんな豪華な格調高い部屋に迎えられた私がまるっきりどうでもいい事しか考えてないなんて、すぐ後ろのトオノ隊員は何も知らないんだろうな。…ご苦労様です。

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