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【聖母の弾丸Ⅰ】

「……はい。これが君に頼まれていた例のものだよ」


 数分ほど経過し、開発研究チームの後輩から特製の薬液を打たれ見事に回復を果たした周は、端の方で乱雑に積み上げられた数々の発明品の山の中から「うーん……あ、これだ」とアタッシュケースを見つけ出すと、それをいのり目掛けて投げ渡す。

 少々扱いが雑である気がするが、それをいちいち指摘するのは精神的に疲労が溜まる。


「なるほどな。これがそうなのか」

「うん、できるだけ……っていうか、完璧に君の要望には応えたつもりだよ」


 いのりはアタッシュケースの電子ロックを解除しながら言う。


「そうか、まぁお前の仕事ぶりは疑っていない。性格には一癖も二癖もあるがな」

「自称天才(笑)ですからね」

「自称じゃないし……僕は自他ともに認める天才だもん‼」

「冗談ですから拗ねないでください。周が稀代の天才なのは周知の事実ですよ」


 先ほどはひと悶着あったが、周と朔夜の仲は決して悪くない。いや、むしろ両名共にいのりと距離が非常に近いということで、仲は良い方だと言える。


「それにしても容赦ないよね、朔夜は。未だに両頬がジンジンするよ」


 朔夜は面白そうに微笑んで応答した。


「ふふふ、私とやり合って生き延びた者は少ないですよ? 誇れる怪我ですね」

「いや、こんなの誰に誇れって言うんだよ」


 周と朔夜の軽口を観察しながら、いのりは周囲の状況の確認をした。

 少し前に開発研究チームのチーフである周の「はいはい、今日はかいさーん。みんなもそろそろ準備してね」と言う発言により、三年の三名以外は賑やかに機材の片づけをしている。もう少し喧噪は続くが、あと十分もしないうちに退出していくことだろう。


(随分と複雑で厳重なコードだが、解除キーの隠蔽方法が少しお粗末だな)


 数秒もしないうちに、電子音を鳴らしながらアタッシュケースが開かれる。


「マジかぁ。この短時間で解除コードを解析するのかよ……。自信なくしちゃうね」


 何故か周が悄然と項垂れていたが、いのりは目もくれずケースの中に視線を送る。

 内装としては黒いスポンジフォームがあり、その中心部の凹凸には全体を白色で塗られている一丁のハンドガンが寝かせられていた。芸術的価値のあるハンドガンだが──不可解なのは銃口が存在していないことだろう。いのりは基本的に容赦がない。発砲できない銃など無価値と落胆を吐き捨てる……はずだったのだが、彼はむしろ喜々とした態度を滲ませていた。


「……いいな、これ。握ってみた感じ、重量も質感もとても満足できる」

「ふふん、まぁこの僕が一から作った特注品だしね。当然だよ!」


 その綺麗な瞳を重そうに閉じ、頭が痛そうに朔夜は独り気に呟いた。


「はぁ。周はどうしてこう、すぐに調子に乗るのでしょうか」


 周としては「心外な」と言い返したいところだったが、それを抑え、咳払いで気持ちを切り替えると具体的な説明を開始し始める。


「銘は〈聖母の弾丸(バレット・オヴ・グランマ)〉。聖母シリーズの魔銃だね」

「〈聖母の弾丸(バレット・オヴ・グランマ)〉ですか。非常に良い名前ですね」

「だろう? まあ百聞は一見に如かず。とりあえずは実際に打ってくれないかな?」

「そうだな。俺としても試し打ちをしてみたいところだ」


 いのりが頷くと、周は辺りを見渡してから人気のない白壁を指差した。


「そうだね、あそこにしようか。さあ行こう」


 微笑む周に先導されいのりと朔夜は少し歩き、「ここらへんかな」という合図で歩みを止めた。

 白壁までは数メートルほどの距離がある。いのりは上手く距離感を測り〈聖母の弾丸(バレット・オヴ・グランマ)〉を流れるような動きで構えると、極限の集中力で照準を合わせ──。朔夜と周だけではなく、少し離れた開発研究チームの後輩たちすら動かす手を止め、この一室にいる誰もが静かに行方を見守る中……彼は引き金を引いた。概要を知っていた周といのり以外の面子からすれば、それは意外な光景だったに違いない。

 穿たれたわけでも突き刺されたわけでもないのだ。

 ボオオオオオンという鈍い低重音が響くと同時に、直線状にある白壁が広範囲にわたって軋み、砕かれ、陥没し、斬撃が刻まれ──綺麗な円形を模して熱を伴わない爆発をした。悲惨であるが故に凄みを直に感じさせる強烈な破壊跡だ。


「ははははッ、予想以上の代物じゃないかッ! たった一撃でこの威力。演算能力と処理速度で幾分か威力は増すと踏んでいたが……素晴らしい‼」


 驚愕のざわめきが漂う中、いのりは何かにのめりこむかのように高笑いを見せる。


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