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【黒の軍団Ⅲ】

「油断大敵だぜ。いくら耳長族(エルフ)でも超遠距離からの対物ライフルで殺せる」


 第一疑似戦場の中でも最も高度のある絶壁の崖の頂上──軽やかに口笛を吹きながら、寝転んだ姿勢で対物ライフルを構えている一人の男子生徒が居た。


《良くやった。油断をついての狙撃。上手くいったな》

「まぁな、ヘッドショットってね。仲間の死を無駄にしなくて良かったぜ」


 いのりの声に反応する男の正体こそ、黒の軍団(ブラック・ナンバーズ)の最優秀狙撃手である赤坂誠也だ。彼は相変わらず崩れた態度のまま、スコープを覗いて手動での次弾装填を行う。


「あそこ危なそうだなぁ。ん~、ヘッドショットッ!」


 超長距離を意に介さず、誠也は二度目の狙撃を成功させる。もちろん即死だ──が、殺したまでは良いがその周囲には仲間が数名おり、傷口と地形を見れば誠也の位置が割り出されるのは必然だと言えた。


「あそこだっ、我らが同志を殺した忌々しい狙撃手を殺せぇ‼」

「うっそぉ……凄いな。てかおいマジかよ。千メートルは確実に離れてんだけど⁉」


 誠也は狙撃手とあって、特段身体能力が優れているわけではない。


「いやぁ……狙撃手の存在意義が無くなるじゃんこれ‼」


 空気を切り裂きつつ、恐ろしい速度で飛来してくる樹木を避けられるはずがなく。


「ぎりぎりってところかな──」


 しかし次の瞬間、斬──と全ての樹木が文字通り細切れとなっていた。


「遅えよ、若葉。危うく俺が串刺しにされるところだったじゃねえか!」

「黙って助けてもらったことに感謝してよ。それに文句はいのりに言ってよね。単騎で耳長族(エルフ)を殺せなんて無茶言うんだからさ」


 耳長族(エルフ)にとっての惨劇を生み出したのは、双剣を握る若葉だった。


「この武器、エグいほど斬りやすい。周といのりに感謝だね」


 いのりが持つ〈聖母の弾丸(バレット・オヴ・グランマ)〉以外の、加重引式範囲融合機構が施された武器は二つ。一つが朔夜が持つ黒刀・黒羽であり、もう一つが若葉が持つ双剣・朧月である。

 固有刻印(オリジナル・スペル)ですら楽々と切断する朧月で、若葉は周の護衛を担っていたのだ。

 まあ若葉は無茶と言ったが制服には耳長族(エルフ)の返り血が大量に付着しているし、何より固有刻印(オリジナル・スペル)を容易く斬り伏せた光景を見ているので、誠也は「嘘つけ」と言う言葉を抑えきれず、スコープを覗き、呆然とする耳長族(エルフ)の一人を照準に収めて苦笑いを浮かべた。


「ま、気持ちは分かるけどさ……殺してくれって言ってるようなもんだぜ?」


 サプレッサーの効果で消音効果が付与された、死神の弾丸が敵の脳天を打ち抜いた。


「まあそういうことだからさ、誠也のことはもう心配いらないよ、多分」

《少し不安は残るが……頼んだぞ若葉。誠也の狙撃は勝利には必須だからな》


 そうしていのりとの通信を切断し、誠也は危機に陥りそうな部隊の援護に回るのだった。


 ■


耳長族(エルフ)に対抗するにはやはり不意打ちが有効か。それも遠距離が特に」


 いのりが満足げに呟くと同時に通信が入る。


「ん……どうした?」

《いのり、お前が言っていた耳長族(エルフ)二名を発見した。ヤルジースとゴルゴスとやら

「ふはっ、ふははは。そうかい、ならば作戦通りやれば瞬殺できるはずだ」

《まあ少し信じられないが、まぁお前の言う通りにやってみよう》


 この通信番号からして、発見したのは第一小隊だ。いのりが悠々と指示出しをしながら結果報告を待つこと数分、同様の通信番号から連絡があった。


「どうだった?」

《ああ。お前の言う通り『いのりから伝言だ。録音を公表されたくなければ、どうすれば良いかは分かっているよな?』と言ってやれば、何故だか途端に怯え腰になり動きも鈍くなった。驚くほど簡単に行ったよ。お前の名前を呪詛のように呟いていたり、執拗に目の敵にしている様子だったが何かあったのか?》

「さあな。それよりも、二人を潰したのなら次はポイントY4に移動だ」

《はぐらかしやがって……一体何を脅したのか……。まあ了解だよ》


 通信を切断したいのりの顔は、異様なほどに歪んでいる。

 ヤルジースとゴルゴスはアリシアから何らかの処罰を受けたはずであり、それにより一ノ瀬いのりという人物への憎悪が極端に膨らんだはずだ。それは裏を返すといのりを過剰に意識していることになり、あの一件は彼らを苛むトラウマとなっていると確信していたのである。

 それと同時に彼らはアリシアから録音の存在を教えられたはずだ。機械には両名の脅迫音声が録音されており、流出した際に受ける被害や侮蔑の規模が計り知れないことは彼ら自身、身に染みてよく分かっていることだろう。

 そこをいのりは突いた。要するに質の悪い脅迫である。


(くくく、自分たちが脅迫される気分はどうだい? まあ抵抗するなと暗に脅した訳だが、奴らが全くの無抵抗でむざむざ殺されるとは俺も思っていなかったさ。後々蘇生するとはいえ、死と言うのは恐ろしいものだ。だがな、恐怖と言う概念に支配された狗に成り下がった時点で終わりなんだよ。あの馬鹿具合には本当に感謝すべきだな)


 色々思うところはあるがあの耳長族(エルフ)二名を最小限の犠牲で、かつ少ない労力と時間で倒せたのは大きい。


「いのり様。初陣の三分隊と中隊の移動が完了したそうです」

「そうか、ならば茂みや物陰に隠れての待機命令を出せ。四十五秒後に通過するだろう耳長族(エルフ)への攻撃開始。作戦行動S式を試行する」

「かしこまりました」


 朔夜は一礼すると通信デバイスで指示を送り初め、いのりも同様に命令を下す。


「第二指定地点付近の各隊はそれぞれ三時の方向に速度度合:アルタズムで進行。別大隊、分隊と合流する。その際耳長族(エルフ)を発見した場合は攻撃せず、最優先で動向を監視しろ。第四以降の小隊は木々の隙間を疾走し、敵を攪乱すること。ルートや速度などの詳細は、これより圧縮データとして送信する」


 対耳長族(エルフ)戦術を指揮するいのりの活躍により、耳長族(エルフ)は次々と殲滅される。

 陽道や囮に意識を集中させその隙に別動隊が動き、それでも落とせない場合は誠也の狙撃で援護するというサイクル。その隙の無い一連の動きにより、耳長族(エルフ)の被害は既に三十を超えていた。


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