【予想外の事態Ⅰ】
「ではいのり先輩。俺っちはここら辺で失礼しますね」
「ああ、またな猿飛」
「さよならです。にんにん……どろん!」
シンエリューエンス学園中央校舎三階の小規模な範囲を煙幕が包む。
今しがた地面に煙幕弾を叩きつけた忍者風靡の衣装をまとう少年は、黒の軍団の中でも隠密に長けた生徒である天仁猿飛だ。少し前に階段の傍で邂逅したのである。
独特な恰好と雰囲気を纏う猿飛を見送り──煙幕が晴れるころにはその姿は忽然と消えていたのだが──いのりは軽い足取りで移動を開始した。
「今日は更衣室にサーモグラフィカメラでも仕掛けてみるか」
この学園は七種族の生徒が通っており、当然種族ごとに校舎が別れているのだが、この中央校舎は唯一その縛りがなされていない例外となっていた。
いのりが現在いる階には何故か生徒が一人もいないが、付近の窓から外の庭園を見下ろしてみれば、人間族と六種族の生徒が──距離感は別にしても──各々存在している姿が窺える。
ちなみに今日、朔夜は同行していない。もちろん、寮を出る際に視線で駄々をこねられたものの、色々な事情を吟味していのりは却下した。しかしながら……その判断は正解だと言えるだろう。これから引き起こされる事件の不味さを考えれば、朔夜が正気を保てるはずがない。
しばらく歩き、いのりは目的地である更衣室の扉を開いた。
「……………………は?」
入口の大枠をくぐり抜けた彼がまず視界に収めたもの──それは女性の裸体だった。