最終話【彼女の側には悪霊がいる】
カン、カン、カン、カン。
踏切の音が、曇天の空に響く。
長閑な田舎町を走る電車の線路付近、これから電車が来ることを告げる踏切が女子高生の行手を阻む。
黒いセーラー服のスカートを夏の風に揺らし、短めに切り揃えられた彼女の髪もまた同じように揺れる。黒曜石の瞳が踏切の向こう側に横たわる線路に注がれ、カンカンという危険を知らせる音もどこか他人事のように聞いていた。
彼女が見ているのは線路ではない。
カン、カン、カン、カン。
その上に立つ、足が折れ曲がった女性だ。
真っ白い服の大半が自分自身の血で汚れ、ボサボサの黒髪をだらりと垂れて俯いている。これから電車が来るというのに、線路の中心で彼女は棒立ちしていた。
生きていないのは明らかだ。口の端から真っ赤な血を流し、頭からも血を流し、踏切の向こう側にいる女子高生を恨みがましそうに見つめていた。
カン、カン、カン、カン。
線路の中心に立つ女性は、踏切の外に立つ女子高生に向かって手を伸ばす。
爪にまで血が入り込んだ真っ赤な指先を伸ばし、上下に揺らされる。
ぎこちなく振られる手は、女子高生を踏切の内側に呼び込もうとしているのだろうか。「こっち側へ来い」と。
「踏切のA子さんでいいのかしら?」
女子高生はそっと首を傾げると、
「残念だけど、貴女はここで食べられるの」
線路の中心に立つ女性の肩に、ポンと誰かの手が置かれる。
女性が肩に置かれた手に気づいて振り返る。
見開かれた彼女の目線の先に立っていたのは、
「美味そうだなぁ、オマエ」
純銀の髪を持ち、夕焼け空を溶かし込んだように色鮮やかな赤い瞳をした男子高校生がそこにいた。古めかしい真っ黒な詰襟を着用し、その手には銀色のナイフを握りしめていた。男子高校生の日常には必要のない銀食器だ。
女性が何かを悟るより先に、引き裂くように笑った男子高校生の挨拶が踏切の音に混じって落ちる。
それは、食事の開始を告げるものだ。
「い た だ き ま す」
今日もユーイル・エネンの食事が始まる。




