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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
最終怪:ごちそうさまでした

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第1話【肉の道】

「いッ……」



 頭痛を感じて、鬼灯は最悪の目覚めをする。


 目の前は完全な闇に包まれていた。

 ただ自分だけがぼんやりと浮かび上がっている。スポットライトみたいな機材はないはずなのに、何故か鬼灯にだけ明かりが当てられている。


 ここはどこだろう?

 記憶にある最後の部分は、闇の中に引き摺り込まれただけで。



「ッ、ポリタンク!!」



 鬼灯は手元になくなってしまったポリタンクの行方を探す。


 慌てて近くに手を滑らせると、硬くて重たい箱のようなものに指先が触れた。手繰り寄せればそれはポリタンクであり、鬼灯は安堵の息を吐く。

 ユーイルが食事に必要と言っていた。だから手放す訳にはいかないのだ。



「あれ、ユーイル?」



 鬼灯は周囲を見渡して、銀髪赤眼の男子高校生の存在を探した。


 あれほど目立つ容姿をした傲岸不遜な態度の男子高校生が、鬼灯の視界にいない。それどころか幽霊が全く見当たらないのだ。

 鬼灯の周辺以外は完全な闇であり、暗い空間に一人でポツンと取り残された鬼灯は途端に寂しさのようなものを感じた。今までなら一人でも平気だったはずなのに。


 それほど、鬼灯の中でユーイル・エネンという少年の存在が大きくなっていたことだろう。



「……ここはどこだろう」



 早くユーイルと合流しなければ、鬼灯の命が危ぶまれる。こんなところでまだ死にたくない。


 鬼灯はポリタンクを抱えて立ち上がり、試しに歩けるか確認してみる。

 歩き出した瞬間に穴が開くような真似はなく、問題なく歩行できる様子だった。ただ履いた革靴の裏から伝わってくるものは床の感触ではなく、何か肉のような柔らかいものを踏んだような気色悪さに満ちていた。



 ぐに、にちゃ。


 にちゅ、ぐに。



 二度、三度と足踏みをしてみるが音は同じだ。肉を踏みつけた音が、鬼灯の耳朶に触れる。



「何を踏んで……」



 そっと足元を見やると、そこには赤い何かが横たわっていた。



「ひッ」



 ポリタンクが鬼灯の手から離れ、肉に重たいものが叩きつけられる音が響く。



 どぢゃッ。



 尻餅をついた鬼灯の手のひらに、生温かな感触が伝わった。

 どくどくと脈動する肉は、まるで生きているようだ。人間の身体の中を思わせる肉の感触に、鬼灯の嫌悪感と恐怖が止まらない。


 手放してしまったポリタンクを慌てて抱える鬼灯は、



「何、いや何これ知らない、こんなの知らない」



 ここは旧校舎ではないのか?

 鬼灯は、あの鬼に食べられてしまったのか?


 だとすれば、ここは鬼の体内なのか?



「ゆー、ユーイル、ユーイル助けて、助けて……」



 唯一、鬼灯を助けてくれる銀髪赤眼の男子高校生の名前を呼ぶが、鬼灯の前に「情けないなぁ、鬼灯よ」などと軽口を叩きながら現れる訳ではなかった。


 ただ、鬼灯以外にも誰かがいる様子だった。

 背後から足音が聞こえてくる。



 にちゃ、ぐに。


 ぐに、ぐに。



 心臓が止まるかと思った。


 入祢由縁いるねゆえんの姿を真似た鬼に対抗する術など、鬼灯には持ち合わせていない。鬼灯にはこのポリタンクぐらいしか武器なんてないのだ。

 いいや、そもそもポリタンクなど武器になるだろうか。鈍器にはなるだろうが、所詮はその程度でしかない。


 ギュッとポリタンクを抱える鬼灯の前に現れたのは、



「――――入祢いるね



 肩口まで伸ばされた黒髪と黒曜石の瞳を持つ男子高校生――入祢由縁いるねゆえんが、鬼灯のすぐ横を通り過ぎる。


 彼の表情は死んでいた。

 この表現が正しいものか不明だが、彼の顔から表情というものが消えていた。死んだ魚のような目を闇の中に向け、気味悪い足音を立てながら奥を目指す。



「ねえ」



 鬼灯がポリタンクを抱えて立ち上がれば、鬼灯の横を通り過ぎた入祢由縁いるねゆえんはピタリと足を止める。



 あっち。



 どこからか、掠れた声が聞こえたような気がした。



 おく。



 鬼灯の方へ振り返り、入祢由縁いるねゆえんは闇の奥を指差す。



「行けばいいの?」



 鬼灯の質問に、入祢由縁いるねゆえんは頷いた。


 騙されているのかもしれない。入祢由縁は鬼灯をここに連れてきた張本人だ。

 ただ、あれは旧校舎に巣食う鬼だと聞く。今ここにいる彼の態度は演技か、本音か。


 鬼灯はポリタンクを抱え直すと、



「ありがとう」



 お礼を告げて、入祢由縁いるねゆえんの示す方向に歩き出した。


 肉を踏む嫌な音をなるべく意識の外に追い出して、鬼灯は闇の奥を目指す。

 真っ暗で歩くことなど到底できないのだが、不思議と鬼灯はこの深淵の中を歩き回ることが出来た。手すりもなければ杖もない、道標もない暗いこの世界の中を一人きりで。



 にちゃ、にちゃ。


 にちゃ、ぐに。



 歩いて、歩いて、鬼灯はようやく終着点らしき場所に辿り着いた。


 そこは部屋のようだった。

 元々は穴のようなものがあったのだろう。教室一つ分の広さがある部屋の中心には穴の跡みたいなものがあり、それに蓋をするように肉の柱が設置されている。肉の柱は隅から隅まで強制的に穴を塞いでいる様子で、柱には痩せ細った人間が埋め込まれていた。


 両腕を肉の柱に埋め込まれ、露出された胸元と項垂れた頭には見覚えがある。僅かに見える××高校の男子生徒用の制服と、肩口まで伸ばされた黒髪。



「入祢由縁……」



 ガリガリに痩せ細った入祢由縁いるねゆえん――ユーイル・エネンの本体がそこにいたのだ。

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