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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第13怪:人喰い旧校舎

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第8話【二階に巣食うモノ】

 木製の階段を何とか上り切った鬼灯とユーイルの前に、二階の光景が広がっている。


 まず最初に飛び込んできたのは、どこかの教室だ。

 ただし閉ざされた扉が半開きになっており、隙間から小さな子供が顔を覗かせていた。硝子玉のような眼球が揃って鬼灯とユーイルを興味深げに観察しており、恐怖心と気味の悪さを肌で感じる。



 じー……。



 何かを訴えるような視線を無理やり外し、鬼灯は廊下に視線をやった。


 廊下に沿って並んでいるのは、生徒たちが利用する教室だ。

 壁には一階と同じく標語やポスターが貼られてあり、美術の時間を使って描かれた作品が展示されている。クレヨンを使って描かれた絵の群れは、高校生というより小学生が描いたものに近い。


 なるべくユーイルとの距離を開けないように注意する鬼灯は、



「小学生が描いたみたいな作品……」


「誰がこんなものを描いたのだろうな」



 クレヨンで描かれた作品群に目を通すユーイルは、



「鬼灯よ、絵の少女の視線がオマエを追いかけているぞ」


「何でわざわざそんなことを言ったの?」



 見れば、壁に飾られた少女の絵が恨みがましそうな視線を鬼灯に突き刺していた。カッと開かれた口は真っ赤に染まっているので、まるで血でも吐いたかのような色鮮やかさである。

 可愛げの欠片も感じられない、とても不気味な絵だ。題名をつけるなら『遠足』と表現するのが正しい長閑のどかな風景にも関わらず、そこに描かれた人物だけが不気味すぎる。


 鬼灯は絵の群れから視線を逸らすと、



「ひッ」



 窓の向こうで白いものが見えた。


 髪の毛もなく、瞳も鼻もない。ただ左右に引き裂かれた口だけがニタニタと笑っており、じっと旧校舎を覗き込んでいた。

 一階にいた時は見かけなかった白い人間である。男にも女にも見えないそれは、閉ざされた窓ガラスを乱暴に叩いて鬼灯に気づいてもらおうとしていた。



 ばん、ばんばんばん!!


 ばんばんばんばん!!



 窓を叩く音が、鬼灯の鼓膜を揺らす。


 どうしてこんなものが旧校舎の外にいたのだろう。そして、どうして鬼灯は今までこの奇妙な怪物に気が付かなかったのだろう。

 気がついていたのであれば心構えが出来ていたはずなのに、二階に到達した瞬間にこれでは精神がもたない。



「鬼灯よ、聞くな」



 ユーイルが鬼灯の耳を塞ぐと、



「気づかれたら終わるぞ」



 窓が叩かれる音を必死に頭の外へ追い出してやり過ごす鬼灯は、やがて音が聞こえなくなったことに気づく。


 白い人間たちは、不思議そうに首を傾げてその場から立ち去った。

 鬼灯が反応を返さないからか、窓を叩いて怖がらせることに飽きた様子だ。気づいていないフリをすれば、いつか諦めてくれる怪物の類か。


 ユーイルは窓の外に犇めいていた白い人間たちを見送り、



「奴らめ、いつも楽しげに窓を叩いて脅かしてくるのだ」


「何が面白くてやってるの……」


「さあな」



 ユーイルが曖昧な答えを返すと、



 どぢゃッ。



 何か肉のようなものが叩きつけられる音が、鬼灯の耳朶に触れた。


 それは先程まで、白い人間たちがへばりついていた窓の向こう側からである。

 黒い制服を着た少年少女が、何の躊躇いもなく旧校舎の屋上から飛び降りて地面に叩きつけられて絶命する。虚な瞳を見開いて、呆然と窓の向こうで立ち尽くす鬼灯に羨ましげな視線を送った。



 どぢゃ、どぢゃ、どちゃ。


 どちゃ、どぢゃ、どぢゃッ。



 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も少年少女の自殺が繰り広げられる。何が楽しくて自殺を繰り返すのか不明だが、死んでからも自殺をする羽目になるとは可哀想だ。



「鬼灯よ」



 ユーイルは鬼灯の手を引き、



「行くぞ、自殺の光景を何度も見ていると頭がおかしくなってくる」


「……そうね」



 数え切れないほどの自殺を繰り返す女子生徒に憐憫の視線をやった鬼灯は、



「幽霊の方も、頭がおかしくなってるんじゃないかしら」



 ――おそらく、もう何度も自殺をして感覚が麻痺していると思うから。

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