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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第13怪:人喰い旧校舎

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第6話【幽霊集合】

 ひた、



 闇の奥から、白い腕が伸びる。


 腐りかけた旧校舎の床を掴む白い腕は華奢であり、指先はさながら白魚の如く美しくほっそりとしている。単体で見れば人形のように綺麗な腕だが、次に闇の中から這い出てきたモノを見て鬼灯の心臓は縮み上がった。

 ボサボサの黒髪にあらぬ方向へ折れ曲がった身体、綺麗な部分は両腕だけで他の部分は目も当てられないほどボロボロだ。引き裂かれた口から赤い舌を出し、血走った眼球で鬼灯を見上げる。


 明らかに生きていないと認識できる女が、床を這いずりながら奇声を上げた。



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああ゛あ゛あ゛ーッ!!」


「喧しい」



 ユーイルが大股で床を這いずり回る女に近づいたと思えば、その頭を思い切り踏みつけた。


 ちょうどその部分は床板が腐っていたのか、ユーイルの踏みつけの衝撃に耐えられず穴が開く。

 女の幽霊はユーイルの踏み付けによって頭を床に埋め込み、傷一つない綺麗な腕をジタバタと暴れさせている。何とか穴から頭を引っこ抜こうとするものの、ユーイルがさらに強めに踏みつけるので思うようにいかない。


 女の幽霊の頭を踏みつけるユーイルは、



「行くぞ、鬼灯よ。こんな雑魚に構っている暇が惜しい」


「これを雑魚と呼べるだけの精神力があるのは羨ましいわ……」



 鬼灯は呆れたような口調で応じ、ユーイルの背中を追いかけた。


 なるべく距離を取らないようにしなければならない。

 旧校舎は危険な場所だ、特に現在は深夜と呼べる時間帯である。ユーイル・エネンという男子高校生の存在がなければ、鬼灯はまともに旧校舎の建物内を歩くことが出来ない。


 それにしても、



「ねえ、幽霊が多すぎじゃない……?」



 鬼灯は周囲を見渡してみる。


 背後には膝から下のみが存在する誰かの幽霊、床には先程の腕だけ綺麗な女の幽霊がいる。

 壁に貼られたポスターの写真に載った少女は赤い涙を流しながら視線だけで鬼灯とユーイルを追いかけ、書き初めらしき作品の群れは『死』だの『地獄』だのの不吉な文字に変わる。どこかの教室の前を通りかかれば、閉ざされた扉の向こうからお経が聞こえてきた。


 今まで体験してきた事件とは比べ物にならないほど、幽霊の数が多すぎる。幽霊が集まる総合病院も真っ青になるほどだ。



「旧校舎にはあらゆる幽霊が集まるからな」



 ユーイルはそう言いながら、廊下の端に避けた。鬼灯にも手招きをするので、彼を真似て鬼灯も廊下の端に寄る。


 小声で「頭を下げろ」とユーイルが伝えてくる。

 鬼灯は彼の指示に従って頭を下げれば、すぐ近くで何かを引き摺るような音がした。



 ずる、ずる。


 ずる、ずるずる。


 べちゃ、ずるずる。


 ずる……ずる、ずる。



 気味の悪い引き摺るような音と共に、ヘドロのような悪臭が鼻を突く。まるで西の森にあった沼屋敷ぬまやしきの周辺を思わせる臭いだ。


 頭を下げているので全貌は見えないが、何やら黒い泥のようなものが蠢きながら廊下を突き進んでいた。

 スライムを想起させる半固形の巨大なものから、泥だらけの足が何本も突き出ていた。足は動いている気配はなく、おそらく黒い泥に飲み込まれている誰かのものだろう。足の裏は傷だらけで、抵抗したのかそれ以外の理由があるのか考えさせられる。



「――――ッ」



 慌てて自分の口を塞ぐ鬼灯。


 この時ばかりはユーイルに感謝した。

 頭を上げればどうなるか分かったものではない。あの黒い泥に飲み込まれれば、鬼灯だって生きていられない。



「――よし、行ったな」



 黒い泥が立ち去ったことを確認して、ユーイルは「鬼灯よ、顔を上げていいぞ」と言う。



「い、今のは……」


「昔は道の真ん中にいたのだがな。ほら、ベトベトさんとか聞いたことはないか」


「あるけど……」


「あれを凶悪にしたものだな。廊下の端に避けて顔を上げなければ、奴には認識されん」



 ユーイルは「絶対に背後を振り返るなよ」と鬼灯に告げ、



「奴は背後にも目があるからな、目が合った瞬間に追いかけられる」


「わ、分かったわ」



 絶対に、意地でも振り返らないと心に決める鬼灯。まだ先は長いのに、死ぬ訳にはいかない。



「ユーイル、どこに行くのか決めているの?」


「本体はどこにいるのか分からん。これだけ多ければ、どこかに混ざっているかもしれんな」



 頭を項垂れさせながら廊下を徘徊する男子生徒の幽霊を一瞥したユーイルは、



「二階に行くぞ」

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