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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第13怪:人喰い旧校舎

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第3話【心霊クラヴ】

「心霊クラヴ……?」



 聞き覚えのない単語に、鬼灯は首を傾げた。


 そもそも学生生活に興味を示さない鬼灯である。友達と呼べる存在は永遠子とわこ一人だけだし、部活動や放課後のイベント等にも興味はないのだ。味のない花の女子高生である。

 対照的にユーイルと音弥は心霊クラヴとやらに心当たりがあるらしい。二人揃って「ああ」と頷くと、



「それって入祢いるねが立ち上げた幽霊を調べる同好会じゃなかったっけ」


「正しくは『心霊現象や幽霊の存在が本当にいるかどうか』を調べる同好会ですね」



 その同好会に所属する四方平よもひらと名乗った女子生徒が、音弥の言葉に素早く訂正を入れてきた。よほど心霊クラヴに強い思いがあるらしい。



「その心霊クラヴとやらが一体何の用事だ?」


幽ヶ谷(かすがだに)先輩は、幽霊を引き寄せる特異体質だって聞きました」



 どこからその情報が漏れた、と鬼灯は頭を抱えた。


 鬼灯は幽霊を引き寄せる特異体質を持っている。

 その特異体質の相談をする為に旧校舎を訪れ、それからユーイル・エネンと出会ったのだ。彼にはその体質を利用されて幽霊を食い、鬼灯もまた彼の幽霊を食べるという特異性を利用して平穏な生活を送っているのだ。


 まさか旧校舎に相談した瞬間を見られていたのか、それとも。



「個人的に調べました」


「うわあ……」



 自信満々に言い放つ四方平よもひらに、何故かユーイルがドン引きしたような表情で呟いていた。自分が立ち上げた同好会のくせに。



「それで、私の幽霊を引き寄せる体質だからって何?」


「旧校舎で行方不明になった入祢いるね先輩を引き寄せてほしいんです」


「え?」



 鬼灯が聞き返せば、四方平よもひらは興奮気味に鬼灯へ詰め寄ってきた。



「旧校舎で行方不明になったって噂の入祢いるね先輩が、幽霊として出るって噂なんです。その噂の真相を確かめに行った心霊クラヴの会員一名が、惨殺死体で発見されました。きっと入祢先輩に食べられたんですよ!!」



 眼鏡の奥にある四方平よもひらの瞳が血走っている。

 よほどユーイルの元になった先輩――入祢由縁いるねゆえんに出会いたいのか。こういうアグレッシブな部分は後輩にも引き継がれているらしい。


 鬼灯はズイズイと近づいてくる四方平を強制的に遠ざけると、



「無理よ」


「何故ですか!!」


「貴女、見えるの?」



 まず問題はそこだった。


 旧校舎に出ると噂がある入祢由縁いるねゆえんを引き寄せるのは出来なくもない相談だが、肝心の幽霊が見えなければ意味がないのではないか。交信なんてそもそも面倒なので関わりたくない。

 幽霊なんてまともなことを喋らないのが通例なのだ。まともなのはユーイルぐらいで、まともではない幽霊は片っ端からユーイルが食べているので問題はない。


 四方平よもひらは黒い瞳を瞬かせると、



「見えません!!」


「じゃあ無理ね、諦めて」


「せめて会話の仲介をお願いします!!」


「幽霊なんてまともじゃないもの、喋れないわよ」


「喋れますよ!! 少なくとも入祢いるね先輩はまだ理性があると思います!!」


「どこにそんな根拠が?」



 しまった、彼女は信者だったか。


 鬼灯は頭を抱えた。

 こういう類は実に面倒臭いのだ。



入祢いるね、何か助けてやったらどうだ? 幽ヶ谷(かすがだに)にいつも世話になってるだろ」



 すると、音弥がユーイルに視線を投げてそんなことを言った。


 ぐりんと勢いよく四方平よもひらの首が回る。

 音弥は驚いた様子で肩を跳ねさせて、さらに鬼灯から標的を移した四方平に詰め寄られて背中を仰け反らせる。



「いるんですか、いるんですねここに!! 入祢いるね先輩がいらっしゃるんですね!?」


「まあ、姿は変わってるけど。いるにはいる……」


「何て言ってますか? 入祢いるね先輩、聞こえてますか!?」


「あー……」



 音弥はユーイルを見上げた。鬼灯もまた銀髪赤眼の男子高校生を見やる。


 幽霊を食べる悪霊と化した彼は、果たしてどんな回答をするのか。

 腕を組んで答えを悩むユーイルは、おもむろに銀色のナイフを取り出した。いつも幽霊を食べる際に使っている食器だ。


 何をするのかと思えば、その切先を四方平よもひらの眉間にブッ刺した。



「あれ、何だか眠く……」



 バタン、と唐突に四方平よもひらがぶっ倒れる。



「何してるの、ユーイル!?」


「うるさいから仮死状態にしてやった。六時間ぐらいは動かないだろうよ、保健室にでも突っ込んでおけ」



 しれっとそんなことを言うユーイルは、



「それよりも、現代の人間がこんなに積極的になるとは思わなかった。幽霊が見えていれば鬼灯のように大人しかっただろうに、何故こんな行動的になったのか」


「お前が原因じゃないのか」



 気絶した四方平よもひらを背負う音弥は、ジロリとユーイルを睨みつけた。



「オレはもっと良心的だっただろう。ただ危険な場所には行ったがな、大人に死ぬほど怒られたけど。――あ、もう死んでたわ」


「幽霊ジョークを止めろ、お前は」



 音弥は「この子を保健室に連れて行く」と言って、理科準備室を立ち去った。何か良からぬ噂が立ちそうだが、彼なら上手く逃げ果せるだろう。


 問題は旧校舎だ。

 彼女たち心霊クラヴが、旧校舎に出る入祢先輩とやらを目当てで突撃する可能性もある。これ以上の被害は出したくない。


 被害を出せば、ユーイルの旧校舎を食べるという目標が達成できなくなってしまう。



「ユーイル」


「何だ、鬼灯よ」


「旧校舎を食べるの?」


「食べるとも。可能ならば今夜にでも」



 ユーイルは少しだけ考えてから「ああ」と思い出したように口を開き!



「鬼灯よ、頼みがあるのだが聞いてくれるよな?」



 その頼みとは、鬼灯一人の力では達成不可能なものだった。

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