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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第13怪:人喰い旧校舎

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第2話【取り壊しの予定】

「旧校舎を取り壊すことに決定しました」



 そんな内容のお知らせが、終業式の当日に発表された。


 夏の雰囲気が支配する体育館に集められ、副校長を務めるやや厳しそうな顔つきの教員が神妙な表情で生徒たち全員に向けて発信した。

 ××高校の片隅にある旧校舎を取り壊すことになったのだ、と。



「…………」



 生徒たちは何も反応せず、鬼灯も何も言わなかった。


 ただ、やっぱりなとは思った。

 これより××高校は夏休みに入る。生徒たちがいない隙を見計らって、あの呪われた校舎を処分してしまおうという魂胆なのだろう。


 それで、幾度となく失敗を繰り返してきたというのに。



「ほう」



 鬼灯の隣で旧校舎の取り壊し決定通知を聞いた銀髪赤眼の男子高校生は、



「興味深いな」



 そんなことを言って、薄く笑った。



 ☆



「旧校舎、壊されることになるんですね」


「そうだな」



 終業式が滞りなく終わり、鬼灯はホームルームが終わると理科準備室に向かった。


 そこにはすっかり退院して元気になった生物教員、黒海音弥くろうみおとやが待っていた。

 職員会議で報告されたらしい旧校舎の取り壊しも、彼は受け入れている様子だった。あの呪われた校舎は誰もが倒壊を望んでいるらしい。



「まあ多分、無理だと思うけどな」


「そうですね」



 鬼灯も音弥も分かっていた。


 あの旧校舎は誰にも壊せない。工事業者が関わると、必ずと言っていいほど関わった工事業者たちに何かが起こるのだ。

 今度の工事業者も、随分と命知らずである。従業員が凄惨な死を遂げるか、自分の会社が潰れる可能性だってあるのに、わざわざ旧校舎の取り壊し工事を引き受けたのだろうか?



「というか、幽ヶ谷(かすがだに)。お前は進路どうするんだ?」


「さあ?」


「さあって……」



 鬼灯も自分がどんな道に進みたいのか分かっていない。

 どこかの大学を出て就職するのだろう。それが多分一番平凡な生き方だ。その時にはもう、銀髪赤眼の男子高校生とは別れているはず。


 その時までに幽霊を引き寄せる特異体質が治っていればいいのだが、もし治っていなかったらどうしようか。



「鬼灯、鬼灯よ」


「何よ、ユーイル。お昼ご飯ならさっきまでテケテケみたいなのを追いかけ回していたじゃない」


「もう食べた」


「相変わらず早食いね」



 進路の真剣な話を邪魔するように、銀髪赤眼の男子高校生――ユーイル・エネンが割り込んでくる。


 彼の赤い瞳は期待と興奮に満ちていた。

 旧校舎が取り壊されることが話題になっている現在、元々の住処を追い出される彼はどんな気分なのかと思えば実に楽しそうな様子だった。「旧校舎はいつか食らってやる」と言っていたが、まさかそんな内容か?


 ユーイルは「鬼灯よ!!」と言いながら詰め寄ってくると、



「旧校舎を食べに行くぞ!!」


「行けるの?」


「行くったら行くのだ、取り壊されるより前に旧校舎を食べなければオレは夜しか眠れん!!」


「しっかり寝てるわね」



 興奮気味なユーイルは、



「それに、俺の身体がどこかにあるやもしれん。ついでに取り返す」


「ついでって」


「多分もう無理だと思うからな。数十年前のことだ、どこぞが腐っているだろうし痩せ細って使い物にならんってなったら捨てるしかない」



 ユーイルの意見はサッパリしていた。

 自分自身の身体に未練はないようだ。多分幽霊での生活に慣れてしまったのだろう。幽霊の生活に慣れていなければ、身体を取り戻そうとしただろうか。


 鬼灯は「分かったわよ」と頷き、



「でも、不思議ね」


「何がだ」


「急に今になって旧校舎を取り壊すなんて、生徒が被害に遭ったのかしら?」


「何だ、幽ヶ谷(かすがだに)。聞いていないのか?」



 どうやら音弥は事情を知っているらしい。教職員だから、職員会議で理由でも発表されたのか。



「旧校舎付近で生徒の惨殺死体が発見されたんだよ。それで、今の校長がこれ以上旧校舎を残しておくと生徒に被害が出るから取り壊すって決定したんだとさ」


「工事業者は校長先生が見つけてきたんですか?」


「さあな。工事業者が本当にいるのか、それとも悪い場所にでも頼んで爆破でもするんじゃないか?」



 やはり工事業者は捕まらないと見ていいだろう。

 それもそのはず、旧校舎を壊すにあたってもういくつもの工事会社が潰れているのだ。工事関係者も何名か凄惨な死を遂げているので、曰く付きの旧校舎を取り壊すなんて誰もやりたくない。


 生徒の惨殺死体が見つかるとは可哀想なことだ。ユーイルのように上手くいかなかったらしい。もしかしたら、ユーイルの方が特殊な事例なのかも。



「ユーイル」


「何だ、鬼灯よ」


「本当に食べられるの?」



 鬼灯は天井付近を泳いでいたユーイルを見上げ、問いかける。


 彼が幽霊を食べる理由は、力をつけて旧校舎に巣食う何かを食べる為だった。

 他人から忘れられた邪神や昔から語り継がれる沼屋敷の幽霊など、様々な幽霊を食べてきた。もう十分に力はついているはずなので、旧校舎に挑んでもいい頃合いだ。


 ただ心配なのは、ユーイルがそれでどうなってしまうかだ。



「安心しろ、鬼灯よ」



 ユーイルは口の端を持ち上げて笑うと、



「オレは死なん、もう死んでいるからな」


「断定しちゃうのね。まだ身体があるかもしれないのに」


「どうせ身体なんて無事では済まない。それなら幽霊として本体を捨てた方がマシだ、マシ」



 そんな会話を交わしていると、理科準備室の扉が控えめに叩かれた。



「あ、あの。ここに三年の幽ヶ谷(かすがだに)先輩がいるって聞いたんですけど……」



 理科準備室の扉が開かれて、その向こうから大人しそうな女子生徒が顔を覗かせる。

 ××高校指定の女子制服を身につけた少女は、分厚い黒縁の眼鏡をかけた顔を鬼灯に向けてくる。眼鏡の向こうに隠れた黒い瞳は、どこか怯えた感情が見え隠れしていた。


 声を震わせる女子生徒は、



「し、心霊クラヴの四方平よもひらと言います……」



 聞き覚えのない活動名と名前を口にした。

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