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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第13怪:人喰い旧校舎

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第1話【旧校舎の男子生徒】

「お、お邪魔しまーす……」



 夕暮れ時に差し掛かった頃、一人の生徒が興味本位で旧校舎の扉を開く。


 旧校舎の扉には施錠がされていないので、簡単に開くことが出来た。

 蝶番が軋んだ音を立てて開き、扉の隙間から埃っぽい臭いが鼻孔をくすぐる。ほんの少しだけ埃も舞っていた。アレルギー体質の人間が旧校舎に入れば、多分その時点で命取りだ。



 ギィィィー……。



 嫌な音が扉から聞こえてくる。


 生徒は扉の隙間に顔を差し込み、旧校舎の内部を見渡した。

 昭和の時代から時が止まったままになっている様子だ。木製の廊下にはところどころ穴が開き、壁に貼り付けられた標語や清掃を促すポスターなどは黄ばんで今にも剥がれ落ちそうだ。



「うう……」



 一人で行きたくはないが、どうしても気になることがあるのだ。



「本当に出るのかよ、ウチの先輩の幽霊が」



 そう、この旧校舎には××高校の先輩の幽霊が出るのだ。

 数十年前に一人で旧校舎に足を踏み入れ、そのまま行方知れずとなった男子生徒。怖い話や幽霊などが好きで、よく立ち入り禁止の場所へ踏み入っては大人に怒られていたと聞く。


 その男子生徒は何を隠そう、今まさに旧校舎へ足を踏み込もうとする生徒が所属する『心霊クラヴ』を立ち上げた創始者なのだ。是非ご挨拶をしたいところである。



「あ、あのー……」



 旧校舎の奥へ呼びかけてみる。



「あのー……すみませーん、入祢いるねせんぱーい……」



 確かそんな呼び方だったような気がする。


 最初は「独特な名前だな」と感じたものだ。

 どう頑張っても当て字か忌み名としか読めないような、普通の生徒にはまずつけないだろう名前だった。昔のキラキラネームかと思えば、ちゃんと読める。


 入祢由縁いるねゆえん――それが先輩の名前だ。



入祢いるね先輩、いるんですか? 本当に旧校舎に食べられちゃったんですか?」



 心霊クラヴでは専ら『創設者の入祢由縁いるねゆえん先輩は、旧校舎に食われて行方知れずとなった』と噂されている。

 もし食われたのだとしたら、魂だけの存在となって幽霊生活を謳歌しているかもしれない。心霊クラヴに所属する身として、ぜひその気持ちを確かめたいところだ。


 目の前に広がる旧校舎の不気味な廊下に何度か「入祢先輩」と呼びかけてから、生徒は生唾を飲み込んだ。



「や、やっぱり奥に行かなきゃいないかな」



 旧校舎には誰も入ろうとしない。

 ××高校で幅を利かせている不良の生徒たちすら、旧校舎に隠れて煙草を吸うような真似はしないのだ。それほどこの旧校舎が色々とまずい噂があると有名なのである。


 工事業者の人間が何人も死んだとか、入祢先輩のこととか、色々と。旧校舎に関わると悪いことしか起きないと言う。



「お、お邪魔しまーす……」



 一応、生徒は断りを入れてから旧校舎に足を踏み込んだ。



 ギィ、ギッ。



 足元の床が軋む。

 いくら旧校舎でも所詮は建物、雨風のせいで床材が腐ることもあるだろう。抜け落ちるのも時間の問題か。


 生徒は慎重に進みながら、スマートフォンを取り出す。電灯のアプリを立ち上げてスイッチを押し、薄暗い廊下を歩く為の明かりとする。


 錆びた水道に剥がれかけた標語にポスター、曇ったガラスが嵌め込まれたその先には綺麗に整頓された机が並ぶ。

 ここはどこかの教室らしい。どんなクラスが使っていたのか不明だが、まるで人がそのまま消えてしまったかのように教室は荒れ果てていない。



「旧校舎ってこんな感じなんだ……」



 果たして、この旧校舎に食われたと噂のある入祢由縁はどう思ったのだろうか。心霊クラヴなどという奇妙な同好会を立ち上げるぐらいだから、きっと楽しんでこの廊下を歩いたことだろう。



 ギィ、ギッ。


 ギィィ、ギィ。



 ――ぎぃッ。



 音が増えた。



「ッ!?」



 生徒は慌てて振り返る。


 背後に伸びる廊下を照らすと、そこには何もいない。誰もいない。

 聞き間違いだろうか、いいや確かに足音が聞こえたはずなのに。



「だ、誰かいるの?」


「誰とは失礼な。オレ以外にいるまいよ」


「うひゃあッ!!」



 生徒はあまりの衝撃的な出来事に、思わずスマートフォンを放り出して尻餅をついてしまった。


 いつのまにか、自分の前に見知らぬ生徒が立っていた。

 古い形式の××高校の男子生徒用の制服を身につけ、肩まで届く黒髪を揺らして首を傾げる。長めの前髪の隙間から覗く黒曜石の双眸は、無様に尻餅をついた生徒を面白そうに眺めていた。



「呼ばれたから来てやったぞ」



 男子生徒は、実に偉そうな口調で胸を張る。



「も、もしかして入祢いるね先輩……?」


「如何にも」



 男子生徒は嬉しそうに「あの、僕!!」と口を開く。


 念願の入祢いるね先輩に会えたのだ、旧校舎を彷徨う気持ちを聞かなければ。

 床に落ちたスマートフォンを拾い上げ、動画アプリを立ち上げようと画面に指先を走らせる。それから、



「ダメだろう、一人でここに来ては」



 スマートフォンが取り上げられる。


 顔を上げた先にいる入祢由縁いるねゆえんは、実に楽しそうに笑っていた。

 歪んだ笑みを見せる旧校舎に食われたと噂の男子生徒は、取り上げたスマートフォンを適当に投げ捨てて生徒に詰め寄る。



「オレに食われに来たのだろう? ちょうど腹が減っていた頃合いだ」


「え」





 ごきんッ、ぐちゃぐちゃ、ぐちゃ。

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