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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第12怪:カシャン、カシャン

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第10話【死に部屋はもうない】

 次の日、鬼灯はいつも通り音弥のお見舞い目的で月無町総合病院を訪れた。


 地下フロアの幽霊たちは、ユーイルが残さず食べてしまった。

 霊安室からメスの落ちる音はもうしないし、霊安室の壁に張り付いた影の存在も見えなくなった。多分、もうこれで地下フロアを見回っても大丈夫なはずだ。


 鬼灯は『お見舞い』と書かれた紙袋を抱え直し、



「今日はオレンジにしたけど、大丈夫かな」


「大丈夫だろう、アイツにアレルギーがあると聞いたことない」



 鬼灯の真横を背泳ぎで泳ぐ銀髪赤眼の男子高校生――ユーイル・エネンは「ふあぁ」と退屈そうに欠伸をする。



「オマエも真面目だな、担任でもないのにせっせと見舞いに通うとはな」


「お世話になっているんだから当然でしょ」


「オレンジ美味そう」


「はいはい、あとで剥いて墓前に供えてあげるわね」


「墓前とか言うな」



 不満げに唇を尖らせるユーイルを無視して、鬼灯は音弥の入院する病室を目指す。


 その途中で、半透明の女性とすれ違った。頭から血を流し、右腕があらぬ方向に折れ曲がった明らかに生きていないと理解できる女性だった。

 虚な目を鬼灯に向けてくる女性を無視して、真横を通り抜ける。ちょうどユーイルが半透明の女性の首根っこを掴んで、おやつ感覚で頭からむしゃむしゃと食らい始めた。ちょっと気持ち悪い。


 すると、どこからか「ねえ」と声をかけられた。幽霊かと思って視線だけをやれば、そこには見覚えのある看護師が手を振っていた。



「あ、昨日の」


「ありがとうね」



 若い看護師は小さく笑いながら、



「あれから地下フロアに行ってみたんだけど、何もなかったの。霊安室からも音は聞こえなくなったし」


「よかったです」



 鬼灯も若い看護師に向けてはにかみ、



「少しでもお役に立てたのであれば嬉しいです」


「貴女は病院の救世主ね。そのまま霊媒師とか言って高いお金でも請求できるんじゃないかしら?」


「あはは、期間はとても短いと思いますよ。いつまでも続けることが出来ないかもしれないので」



 そう、ユーイルと一緒にいる時間はきっと短い。旧校舎に出てくる何かの幽霊を食らうことが出来れば、彼はお役御免となるだろう。

 鬼灯の元から離れて成仏するのも時間の問題だ。――その前に、彼は成仏できるのだろうか?


 若い看護師は「そう……」と少し寂しげに言うと、



「じゃあ、また幽霊の事件が起きたら相談してもいいかしら?」


「病院って幽霊が多いですもんね。他にも問題があれば、出来る限り解決します」


「え」


「え?」



 若い看護師は、まさか病院に大量の幽霊がいるとは思っていなかったらしい。顔を青褪めさせて立ち尽くしている。



「……それ本当?」


「被害はありませんが、まあ」


「…………見えてないからいいけど、見えたらどんな感じなのかしら?」


「見えない方がいいと思うので、聞かない方がいいですよ」



 鬼灯が真剣な表情で言えば、若い看護師は「分かったわ」と青褪めさせた顔色のまま頷いた。

 こんな景色は、特定の人間しか見えない方がいい。ユーイルが常々と「生きている奴は長生きするべきだ」と言っているのと同じだ。見なくていいなら見えない方がいい。


 若い看護師に別れを告げて、鬼灯は音弥の病室へ向かう。



「鬼灯よ」


「何?」


「幽霊は見えない方がよかったか?」



 隣をバタ足で進んでくるユーイルに問われ、鬼灯は「そうね」と頷く。



「でも、私は見えてよかったって思うわよ。他の人は見えなくてよかったなとも」


「何故?」


「楽しいもの」



 鬼灯はこの刺激的な日常が楽しかったのだ。

 幽霊が見えるのは嫌だと思っていたのだが、それでもユーイルや永遠子が見えるので退屈はしない。毎日が幽霊に脅かされているが、それでも後悔したことはない。


 ユーイルは口の端を持ち上げて笑い、



「それでは次のオレの食事は何にしようか?」


「適当に済ませてきて」


「オマエ、オレの扱いが酷くないか?」


「酷くないわ」



 態度の改善を求めるユーイルの訴えを無視して、鬼灯は幽霊と本物の患者が入り乱れる廊下を突き進んでいくのだった。

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