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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第12怪:カシャン、カシャン

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第6話【霊安室の秘密】

「――そんな訳で、深夜の見回りの際に地下フロアの鍵を開けてもらうことになりました」


「どんな訳で?」



 事の次第を入院中の黒海音弥くろうみおとやに報告すると、彼は眉根を寄せて首を傾げていた。


 あれから若い看護師を通じて「深夜の見回りに同行できないか?」ということを交渉したのだが、結論として得た解答は地下フロアを開放するから好きに見てくれとのことだった。

 誰も鬼灯のやることに同行はしたくないのだろう。地下フロアは月無町つきなしちょう総合病院に於ける禁忌だ、不用意に足を踏み込めば病院を辞める原因を作ってしまう。


 鬼灯も看護師たちを退職に追い込むのは避けたかった。看護師たちもこれ以上地下フロアの問題を抱えていたくなかったのだろう、病院側は両手を挙げて鬼灯の除霊を許可してくれた。



「危険すぎるだろ。この病院の地下フロアは桁違いだぞ?」


「平気だ」



 鬼灯の代わりに答えたのは、音弥の頭上を泳いで優雅なシンクロナイズドスイミングを披露していたユーイルである。



「メスを落とした何某の姿は確認できなかったが、地下フロアにいる幽霊どもは大体食ってやった。あとはメインディッシュを残すまでだ」


「お前は、幽ヶ谷(かすがだに)を危険な目に遭わせて何とも思わないのか」



 音弥は銀髪赤眼の男子高校生を睨みつけ、



幽ヶ谷(かすがだに)はまだ高校生だぞ」


「奇遇だな、オレも高校生だ。永遠のな」


「屁理屈を捏ねるな」


「黒海先生」



 鬼灯はユーイルに食ってかかる音弥を制止し、



「私は大丈夫です。身に迫る幽霊は大体ユーイルが食べてくれますし、それで今までも何とかなってますし」


「でも」


「私には親族もいないので、誰も心配する人なんていませんよ」



 そう、鬼灯に家族はいない。

 家族らしい存在と言えば、親友の青柳永遠子あおやぎとわこと鬼灯の幽霊を引き寄せる特異体質を利用するユーイルぐらいのものだろう。鬼灯を心配する生きた人間など、この世にはいないのだ。


 だから、多少の危険なことでもどうにかなってしまう。「ユーイルがいれば問題ないか」と認識してしまうのだ。



「……悪かったな、酷なことを言わせて」



 少し申し訳なさそうな表情で謝ってくる音弥に、鬼灯は首を横に振った。



「平気です。意外と今の人生も楽しいですよ」


「本当か?」


「はい」



 鬼灯は笑顔を作ると、



永遠子とわこと居候がいるので、楽しく過ごせていますよ。二人がいれば大丈夫です」


「おい、居候とはオレのことか? 居候扱いは酷いと思わないか?」


「今日の病院はついて行かなくていい? 一人で解決してくれるかしら」


「冗談だ、オレは居候」



 すぐさま意見を翻したユーイルに、音弥は「楽しそうだな」と苦笑するのだった。



 ☆



 夜の病院は異様な気配に包まれていた。


 昼間に感じた賑やかさは鳴りを潜め、患者のほとんどは自分の病室でゆっくり休んでいることだろう。鬼灯も看護師たちに許可を取って音弥の元で時間を潰させてもらい、夜になってから本番だった。

 地下フロアへの探索である。今度こそ、霊安室に落ちるメスの正体を見るのだ。



「本当に一人で大丈夫……?」


「はい、大丈夫です」



 若い看護師の心配そうな問いかけに対して、鬼灯はしっかりと頷いた。


 病人である音弥を動かす訳にはいかず、必然的に鬼灯が一人で動くことになる。

 まあ正確には一人ではない。霊安室の幽霊を目的とした銀髪赤眼の男子高校生――ユーイル・エネンが鬼灯に取り憑いているので問題ない。彼が大体の幽霊を食べてくれるのだ。


 現に今も、鬼灯の特異体質に群がってきた幽霊を片っ端から食べている始末である。あれほど食べて彼の胃袋に制限はないのだろうか。



「危なかったら無理しないでいいからね?」


「でも、病院側は地下フロアを解決したいんですよね?」


「そうだけど……」



 若い看護師は鬼灯から視線を外すと、



「でも、死んじゃったら元も子もないもの」


「大丈夫ですよ」



 鬼灯は若い看護師に笑いかけると、



「私は死にません。他にも色々と同じような状況に陥ったことありますし、慣れていますから」


「そ、そう? あ、じゃあ看護師長から聞いた話を教えておくね」



 若い看護師は声を潜め、他の患者の存在や看護師の存在がいないか確かめる。誰もいないことを確認でき、看護師長から聞いたという話を語り始めた。



「実はね、地下フロアにも病室があったのよ。昔はね」


「そうなんですか?」


「終末医療って言って、もうどう頑張っても助からない患者さんを移していたんだって。末期癌の患者さんとか、難病の患者さんとか、色々ね」



 若い看護師は顔をしかめ、



「つまり、病院側は患者さんを見捨てていたのよ。地下フロアに患者さんを移動させるってことは、患者さんを殺すのと同義だったの」



 その話は過去のものとはいえ、病院側からすれば黒歴史に過ぎない。

 患者を助ける存在である医者や看護師が、患者を見捨ててもいいものだろうか。いくら今際の際だったとしても、最後の最後まで手を尽くさないのだろうか?


 まあ、病院側の都合もあるだろうし、他にも色々と考えがあるのだろう。考えた結果、患者を地下フロアに移動させることに決めたのだ。苦渋の決断だっただろう。



「ある時、一人の患者さんが自殺したの。地下フロアに移動させられた末期癌患者だったわ」



 話の流れが変わる。


 若い看護師の顔を見上げれば、彼女は青褪めた顔でオチを語るのを躊躇っている様子だった。

 次の話が読めてしまった鬼灯は、彼女自身の口から真実を語られるのを待つ。



「その自殺した患者さんがいた病室が、今の霊安室なのよ」

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