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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第12怪:カシャン、カシャン

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第5話【霊安室のメス】

「今、何か」



 鬼灯は「音がした」と言うより先に、ユーイルが霊安室へ飛び込んでいく。



「ちょ、ユーイル待って!!」


「え、な、何? 待って置いていかないで!!」



 若い看護師を捨て置き、鬼灯はユーイルの背中を追いかける。


 幽霊なのでユーイルは霊安室の扉をすり抜けてしまい、鬼灯も後を追いかけて霊安室の扉を開ける。

 霊安室の内部はやたらジメジメと湿っており、病院で亡くなった患者を乗せる為の台座があるだけだ。今は使われている様子はなく、物寂しげな雰囲気が漂う。


 そのリノリウムの床に、銀色に輝く刃物が落ちていた。



「メス……」



 霊安室にメスが落ちている、と音弥は言っていた。


 鬼灯がメスを拾い上げれば、追いかけてきた若い看護師が「ひッ」と上擦った悲鳴を漏らす。

 彼女の視線は、鬼灯の手に握られたメスに注がれていた。彼女も霊安室にメスが落ちるという噂は知っているらしい。


 鬼灯は真新しいメスを若い看護師に手渡し、



「これ、お返ししますね」


「え、ええ」



 若い看護師は真新しいメスを鬼灯から受け取ると、



「ね、ねえ。ここに何か見える? 私には何も見えないんだけど」


「えーと……」



 鬼灯は周囲を見渡す。


 霊安室で確認できる幽霊は、鬼灯に取り憑いた銀髪赤眼の男子高校生――ユーイル・エネンぐらいだ。彼は霊安室を歩き回り、メスを落とした幽霊を探している様子である。

 台座に腰掛けて「うーむ」と両腕を組むユーイルを見て、鬼灯は彼が何かに気づいたことを悟る。ただこのままユーイルと会話をすれば、若い看護師がさらに怯えることになってしまうので、少し若い看護師には黙っていてもらおう。



「あの」


「な、何?」


「すみませんが、幽霊と話がしたいので耳を塞いでてもらえますか?」


「わ、分かったわ」



 すぐに頷いた若い看護師は、耳を塞いで話を聞かないようにしてくれた。これで安心である。



「ユーイル、何か分かったの?」


「うむ、まあな」



 ユーイルは霊安室の台座に腰掛け、足をブラブラと揺らしながら言う。



「確かにメスが落ちる音の時までは美味そうな匂いがしたのだ。ただ、霊安室にオレが飛び込んだ瞬間にいなくなってしまった」


「逃げたってこと?」


「かもしれんな」



 つまらなさそうに唇を尖らせるユーイルは、



「夜になれば現れるやもしれん。幽霊にとって夜は暴れ回る本番だからな、霊安室の幽霊も本格的に活動することだろう」


「じゃあ、夜まで待ってみる?」


「お?」



 鬼灯の提案に、ユーイルは赤い瞳を瞬かせた。



「珍しいな、鬼灯よ。先程までは警察の世話になりたくないと言っていたのに」


「でも看護師さんが働けなくなるのは可哀想よ。除霊が出来るって言っちゃったし」


「それもあるな」



 ユーイルは心底楽しそうに笑いながら、



「よし鬼灯よ、深夜の見回りにも同行させてもらえないか交渉するのだ」


「…………ダメだった時のことを考えておいてよね」



 鬼灯は軽い調子でそんなことを言うユーイルを睨みつけ、それから耳を塞いで鬼灯の方を見ないでいた若い看護師の肩を叩く。

 あからさまに驚いた表情を見せた若い看護師は「な、何。終わったの?」と聞いてくる。早く霊安室から出たい様子だった。


 これなら上手くいくだろうか、と鬼灯は考える。ただ油断は禁物だ。



「メスを落とした幽霊はいませんでした。おそらく、まだ昼間だから出ないのでしょう」


「え、じゃあどうするの? 祓えないじゃない!?」



 パニックを起こして叫ぶ若い看護師に、鬼灯は「なので」と言葉を続けた。



「夜の見回りに、私も同行してもいいかなぁと」


「え、でもそれだと……」


「見回りに同行できないようでしたら、深夜に地下フロアへの立ち入りを許可してもらえないでしょうか? そうすれば多分、問題は解決できるはずです」



 それでもダメなら、ユーイルだけに霊安室へ突撃してもらうことにしよう。ここから先は鬼灯の力の及ばないところだ。


 若い看護師は少しだけ考えて、やがて「分かったわ」と応じた。

 まさか話がこんなにすんなり通るかと思いきや、



「でも看護師長に相談させてね。――この問題は、私たちも早急に解決してもらいたいのよ。地下フロアを見回った途端に看護師が次々と辞めていくから人手が足りなくて、みんな困っていたから」


「はい、その方向でお願いします」



 やはり上司に話は通さなければならないか。まあ小娘一人で問題が解決することではないが、やはり病院側としては霊安室の問題を早急に片付けたい様子である。

 話が纏まりそうで、ユーイルが鬼灯の後ろで「やっほー、今日は病院で夕飯だ」などと小躍りしていた。まだ話が決まった訳ではないのに、もう決まったも同然とばかりの言いようである。


 若い看護師は「じゃあ戻りましょうか」と声をかけ、鬼灯もそれに応じた。



「……?」



 霊安室の扉を閉ざした瞬間、聞き覚えのある音が再び耳朶に触れる。



 かしゃん、かしゃんッ。



 鬼灯は、もう霊安室の扉を開くことはなかった。ユーイルも気にしている様子だが、夜中のリベンジを果たすことで今回は諦めた模様である。

 足早に霊安室から立ち去っていく若い看護師の背中を追いかける鬼灯は、またあの音を霊安室の扉の向こうから聞いた。


 メスの落ちる音が。



 かしゃん、かしゃんッ。


 かしゃん、かしゃんッ。



 果たして誰が何の為にメスを落とすのか、真相は夜に明かされることだろう。

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