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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第12怪:カシャン、カシャン

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第4話【地下フロア】

「助かったわ。絶対に一人では行きたくない場所だから」


「その気持ちは分かります」



 若い看護師の胸元を確認すると、名札には『鈴木』とあった。物置に片付ける為の検査用の道具を抱える彼女は、地下フロアに進む階段を降り始める。


 鬼灯も彼女の背中を追いかけて、地下フロアを目指した。

 若い看護師は心底憂鬱そうな表情を見せているので、本当に地下フロアへ行くのが嫌なのだろう。それも鬼灯が同行を申し出なければ一人で行く羽目になっていたのだ。


 鬼灯の側を歩くユーイルは、



「ふむふむ、臭うな。この先にいるな」


「…………」



 鬼灯はユーイルの言葉に応じなかった。


 本当なら応じるべきなのだろうが、今は同行者がいる。若い看護師の鈴木にユーイルと話している姿を目撃されて、引かれるのは御免だ。

 まあ幽霊を祓うことが出来ると言って同行を許されたようなものなので、あとはもうユーイルが幽霊を食べることだけを祈るしかない。



「ここが地下よ」



 若い看護師は閉ざされた地下フロアの扉を開く。


 地下フロアの扉の表面には『関係者以外立ち入り禁止』とある。患者など病院を利用した一般人は、地下フロアに入ることが許されていないと見える。

 若い看護師に遅れて、鬼灯も地下フロアに足を踏み入れる。夏場の病院は空調が効いているので過ごしやすいと思うのだが、何故かこの地下フロアは異様に寒く感じた。



「寒……」


「ここって不思議と寒いのよね」


「そうですか」



 鬼灯は、制服の半袖から伸びる自分の腕を擦る。

 まるで冷蔵庫の中にいるようだ。吐いた息が白くなることはないが、それでもそう感じるような寒さなのだ。


 若い看護師も寒さを感じているようだが、彼女自身にはどうやら見えていないらしい。


 ぼんやりと明かりを落とす蛍光灯はチカチカと明滅し、埃を被った天井に黒い人影が張り付いている。蜘蛛のように四肢を動かして天井に張り付くそれは、ギョロギョロと眼球を蠢かせて地下フロアにやってきた鬼灯と看護師を見やる。

 扉のすぐ近くには、髪を垂らした女性が佇んでいた。恨めしげに視線を投げて、痩せ細った腕を鬼灯めがけて手を伸ばす。触られないように何となく回避すれば、ユーイルが銀色のナイフで女の腕を突き刺していた。



 ぐちゃ、ぐちゃ。


 じゅるじゅる、じゅる。



 前菜代わりだとばかりに女の幽霊を食らうユーイルは、女の幽霊を食べながら鬼灯の後ろに続く。食事をしながら歩くのは止めてほしい。


 鬼灯がユーイルをさりげなく睨みつければ、若い看護師が「どうしたの?」と問いかけてくる。

 彼女には、この大量の幽霊の姿が見えないのだ。恨まれているのかと言わんばかりに幽霊が集まっている。かなり恐ろしい状況なのに、何故か若い看護師は鬼灯以上に堂々としていた。見えないとは恐ろしい。


 鬼灯は首を横に振り、



「何でもないです」


「そう……あ、もしかして何かが見えてるとか?」


「…………」


「ちょ、ちょっと、黙らないでよ」



 若い看護師は泣きそうになりながら、



「何がいるの? 何かいるんでしょう? ねえお願い、何か言って!!」


「えーと、まあ……いますね」



 鬼灯はぼんやりとした回答をするしかなかった。


 さすがにこの大量の幽霊がいる光景を見れば、若い看護師は確実に病院を辞めることだろう。それを考えると鬼灯は言いにくかった。

 ただ、彼女の将来を考えれば言ってしまう方がいいだろうか。辞職を促した方が、彼女の為になるだろうか?


 答えを躊躇う鬼灯は、



「だ、大丈夫ですよ。全部追い払いますので」


「本当?」


「本当です、大丈夫です。信じてください」



 鬼灯はユーイルへ視線をやると、銀髪赤眼の男子高校生は夢中で別の幽霊を食らっていた。底なしの胃袋を持つ彼にとっては、この状況を食べ放題の状態だと思っているのだろう。

 彼の目的は、あくまで霊安室だ。メスが落ちる謎を解明して、幽霊を食べるのが目的である。


 鬼灯は「あの」と怯えた様子の若い看護師に問いかけ、



「霊安室ってどこですか?」


「れ、霊安室に行くの? 大丈夫?」


「はい、大丈夫です」



 幽霊が出て来れば即座に解決である。ユーイルも赤い瞳をキラッキラと輝かせて「霊安室、霊安室」と小躍りしている状態だ。

 よほど霊安室に行けるのが嬉しいのだろう。鬼灯は心底嫌なのだが。


 若い看護師は廊下の奥を指で示し、



「そっちの廊下を右に曲がった奥にあるわ」


「ありがとうございます」


「あ、あのね、あの」



 若い看護師は鬼灯の制服の袖を摘むと、



「心配だから一緒に行ってもいい?」


「平気ですか? 今から幽霊の確認をしに行くのですが」


「へ、平気じゃないけど、でも貴女が解決してくれるでしょ? それを信じるわ」


「分かりました」



 若い看護師の申し出を受け入れた鬼灯は、彼女を背後で庇いながら廊下の奥を目指す。

 大量の幽霊を視界の隅に追いやり、右の曲がり角の奥を覗き込む。そこだけは蛍光灯が消えていて、薄暗い廊下がどこまでも伸びていた。


 その奥に、部屋がある。霊安室と部屋の札はあった。



「鬼灯よ」



 一緒に廊下の奥を覗き込むユーイルは、



「何か聞こえないか?」


「?」



 鬼灯は耳を澄ましてみる。


 その音は、確かに霊安室の奥から聞こえてきた。

 何かが落ちるような、細い細い音が。



 ――かしゃん、かしゃん。

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