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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第12怪:カシャン、カシャン

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第3話【霊安室の怪】

「入院している最中に看護師さん同士の話題を聞いたんだけどな」



 桃の詰まった紙袋をベッド脇の棚に置きながら、黒海音弥くろうみおとやは看護師同士の会話を盗み聞きした怪談を鬼灯に語る。



「ここの病院は地下に霊安室があって、見回りの最中にその霊安室から『かしゃん、かしゃん』って何かが落ちる音がするんだと」


「それで調べたらメスが落ちていた、という訳だな」


「お前はどうして空中でバタフライなんてしてるんだ?」


「オレはカナヅチだからな。空中なら溺れずに泳げる」



 身体が透けることに加えて他の患者にも見えていないのをいいことに、病室の上空でバタフライを披露する銀髪赤眼の男子高校生――ユーイルは「それで」と話の続きを促す。



「メスは誰が落としてるのだ?」


「それが分かれば苦労はしない」


「オマエのお綺麗なツラで誑かせばいいだろう」


「お前の目はついに節穴になったのか? こんなもっさり黒髪の四十路男なんてモテる訳ねえだろ」



 音弥はそんなことを言って否定するが、鬼灯はそう思わない。

 何故なら、現に××高校で音弥はかなりの人気を誇る生物教師なのだ。専ら女子生徒から「あのアンニュイな目元がいい」とか「背が高くて意外と鍛えてる」とか称賛されているのだ。


 そんなことは置いといて、だ。



「メスを落として、霊安室の幽霊は何をするんですか?」


「さあな」


「さあって……」


「霊安室を見回りした看護師は、続々と病院を辞めているらしいんだ。だから地下フロアの見回りは看護師たちの禁忌として語られ、立ち入り禁止になっているらしい」



 なるほど、と鬼灯は納得した。


 これでは真相を知ることが出来ない。自分の目で確かめるしか方法はなくなるが、立ち入り禁止にされた地下フロアに無断で侵入すれば警察のお世話になる。

 かと言って、鬼灯に病院側を説得する能力はない。そこまで口が上手い訳でもないし、第一「幽霊が見えるし祓えるので、霊安室を見せてください」と言っても無駄だろう。


 霊安室の幽霊とやらに興味が出てきてしまったユーイルは、赤い瞳をキラッキラと輝かせながら「鬼灯よ!!」と詰め寄る。



「ぜひその霊安室の幽霊を食べ、いや見に行くぞ!!」


「食べに行くぞって言おうとしたでしょ」


「聞き間違いではないか?」



 ユーイルは全力で笑って誤魔化すと、



「それよりも、まずは地下フロアに侵入しなければ」


「行ってらっしゃい」


「何故だ、鬼灯よ。オマエも地下フロアに行かなければ話にならんだろう」


「今回は私が行かなくてもいいんじゃないの? それに、立ち入り禁止のフロアに行って警察のお世話になりたくないわ」



 鬼灯に両親や親戚等はいないので、警察の世話になっても引き取りに来る親類はいない。確実に児童養護施設に行くか、それとも初犯ということで厳重注意になるだろうか。

 とにかく、今回ばかりは同行できない。身体が透けていて、なおかつ誰も気づかない幽霊のユーイルだけで行けばいいのに。


 おそらく、ユーイルが鬼灯の同行を望むのは鬼灯の特異体質を利用したいのだろう。鬼灯は幽霊を引き寄せることが出来る体質の持ち主なので、ユーイルへご飯を提供する為に心霊スポットなどへ積極的に連れて行かれるのだ。



「オマエがいなければ、確実に幽霊が出てこないかもしれないだろう。食べ損になるではないか!!」


「でも無理よ、だって今回は立ち入り禁止の場所よ。病院側から何か言われたら警察のお世話になっちゃうし……」



 すると、病室の外で「ええー!!」という看護師の声が聞こえてきた。


 ユーイルは素早く反応し、クロールで病室を飛び出していく。鬼灯も慌ててユーイルの背中を追いかけて病室を出た。彼が何か危険なことをしないよう見張る為に。

 だが、彼は別に一般人へ悪戯を仕掛けたり迷惑をかけたりしていなかった。ただ何やら揉め合っている看護師同士の会話に、興味深げな様子で耳を傾けていた。



「や、嫌ですよ。何で地下フロアに……」


「今は昼間だから大丈夫よ。ね? これを物置に片付けてくるだけでいいから」


「でも地下フロアって、出るって有名ですよね? 何かあったら嫌なんですけど……」



 どうやら年配の看護師が若い看護師に検査用の道具を片付けてもらおうとしているようで、その片付け先が地下フロアにある倉庫らしい。

 その地下フロアは、問題の幽霊が出る場所だ。幽霊が出るのは霊安室だが、それでも地下フロアになるべく入りたくないのだろう。若い看護師の表情は心底嫌そうだった。


 ユーイルは若い看護師の指差して、



「鬼灯よ、今がその時だ。交渉して地下フロアに行こう」


「…………」



 鬼灯は嫌そうな表情を見せるのだった。


 若い看護師の人に、果たして何と言えばいいのだろうか。「一緒について行きましょうか?」と言えばいいのだろうか?

 それで受け入れてくれればいいが、初対面の人間にそんなことを言われて警戒しない人間はお人好しだと思う。鬼灯は絶対に嫌だ。


 だが、ユーイルが仕切りに「早く、早く」と急かしてくる。深々とため息を吐いた鬼灯は、



「あ、あの」


「はい、何かご用ですか?」



 鬼灯が話しかけると、二人の看護師は途端に笑顔で応じてくれる。彼女たちは営業部にでもいたのだろうか?


 今からこの笑顔を曇らせると考えただけで気が重い。

 期待するような視線を寄越してくるユーイルを無視して、鬼灯は口を開いた。



「あの、私の家は除霊とかを得意とする巫女の家系なんですけど」



 愛想笑いが出来ずに変な感じで微笑む鬼灯は、



「よければ、あの、一緒に地下フロアに行ってもいいですか? それで、除霊を……しようかなと」



 その言葉に対する看護師たちの反応は、



「本当!? 是非お願い!!」


「はえ」



 鬼灯も予想だにしていない回答が飛んできた。

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