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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第11怪:沼屋敷

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第4話【西の森の前にて】

 バイト先の店主から話を聞き、鬼灯は自転車を走らせて西の森へ向かった。


 時刻は三時を過ぎた頃合いだ。

 夕方と呼べる時刻にはまだ早く、西の森にある沼屋敷を見て帰る程度なら問題ないだろう。いざとなればユーイルをその場に置いていけばいい。


 自転車を走らせて間もなく、西の森が見えてきた。鬱蒼とした森である。オシラ様が祀られていた南の森と同じぐらいに暗い雰囲気が漂っている。

 鬼灯以外の人間の姿はないと思いきや、小さな自転車が西の森の前にすでに停められていた。



「……誰かがいるの?」



 見覚えのない自転車である。子供が乗るような自転車だ。

 青い色を基調とした自転車は、小学生男子が好みそうなデザインの自転車である。誰かが西の森に来ているのだろうか。


 鬼灯の乗る自転車の荷台に腰掛けたユーイルは、



「度胸試しか何かではないか? 小学生とはそういう類のものが好きだからなぁ」


「沼屋敷に行ったのかな。危ないと思うけど」


「小学生のクソガキ程度が死んだところで自業自得ではないか」



 意外と厳しい意見を言うユーイルに、鬼灯は「さすがに酷すぎるよ」と苦言を呈する。


 度胸試しに行ったのであれば、沼屋敷は行ってはいけない類の場所だ。この月無町つきなしちょうに古くから店を構える本屋の店主が険しい表情で言うものだから、まず間違いないと見ていいだろう。

 子供が西の森にある沼屋敷に行けば、面白半分で封印を解くはずだ。鬼灯も似たようなことを企んではいるものの、こちらは幽霊を食らうので除霊の意味合いもある。ただの子供に出来ることは何もない。


 とにかく西の森へ入った子供を連れ戻さなければ。



「一人でぶつぶつと話してるけど、何してんのオバサン」


「え?」



 森の奥から顔を出した少年が、怪しげな視線を鬼灯に向けてくる。


 顔のあちこちに絆創膏を貼った、見た目はガキ大将と呼んでも差し支えないものである。その手には『月無町つきなしちょう怪談』の雑誌が握られていて、特集として組まれているのは西の森についてだ。

 彼はこの西の森を調査しに来たのだろうか。この奥にある沼屋敷の噂を確かめる為に。



「貴方、そこにいると危ないよ」


「やけに大きな独り言を呟いてたオバサンに言われたくないんだけど。病院に行ったら?」


「…………」



 意外と口の悪いクソガキである、鬼灯は大いに傷ついた。



「……あのね、言っておくけど」



 鬼灯は笑顔すら浮かべず、無表情のままガキ大将の少年を見据えて脅しかける。



「私には幽霊が見えるの」


「それで?」


「貴方の後ろにいる女の人は誰なの? さっきからこっちをずっと見ているけれど」


「ッッ!!」



 ガキ大将の少年は、弾かれたように背後を振り返った。


 言っておくが、鬼灯は嘘を吐いたのだ。女の人なんて見える訳がない。

 まあこの奥にいる女の人がいれば話は別だが、きっと沼屋敷の外に出てこないはずだ。封印は崩れそうになっていたという話だが、壊されていたら彼も無事では済まないだろう。


 だが、彼の驚きようは異常だった。その女の人とやらを知っているかのように――彼女に見つかったらまずいと言わんばかりの怯えようだった。



「……何か知っているの?」


「知らない」


「そう」



 鬼灯は自転車を停めると、



「じゃあついてこない方がいいわ。この奥って危険みたいだし」


「……ッ!!」



 少年が慌てた様子で鬼灯の手を掴んでくる。鬼灯は特に何も言っていないのに、何故か泣きそうだった。



「この先はダメだって」


「何で?」


「呪われて死ぬって!!」



 少年は雑誌のページを鬼灯に押し付けてきた。


 西の森について書かれた記事だ。

 見出しには『訪れれば死ぬ恐怖の森』とある。この奥にある沼屋敷については見た目だけ書かれているものの、真相は何も触れられていない。話を聞けなかったのか。



「俺、ここに入っちゃって……それで見たんだ、奥にあったボロっちい小屋を。――あ、あれって沼屋敷って言うんだろ?」


「そうね」



 鬼灯は雑誌を閉じて少年に返しながら、



「ねえ」


「な、何だよ」


「何か見たの? 凄く怯えているけれど」



 首を傾げる鬼灯は、



「もしかして、沼屋敷に女の人が出るところを見たの?」


「――――!!」



 少年は慌てたように耳を塞いだ。

 頭を抱えてしゃがみ込む姿は、この先に待ち受ける幽霊の存在を知っているかのようだ。女の人を見た、というのはほぼ間違いない。


 鬼灯が少年の肩を叩けば、彼は可哀想なほど飛び上がった。きっと沼屋敷に出た女の幽霊に酷いトラウマを植え付けられたのだろう。幼い子供に深い傷を負わせるとは、幽霊も可哀想なことをする。



「大丈夫だよ。お姉さんが、沼屋敷の女の人を退治するから」


「で、出来ないよ。無理に決まってる」



 首を横に振る少年は、



「あれはまずいって、何かやばいって。手招きしてきたんだぜ? きっと誰かがあそこに入れば、殺されて……」


「死なないわ」



 鬼灯は少年の弱気な発言を否定して、



「お姉さんのお友達が、幽霊を食べるの。きっと沼屋敷に出る幽霊も食べてくれるわ」


「そ、そんなの……どこにそんな保証があるんだよ。幽霊なんて見えないもんを信じたって」


「貴方は見えないけど、私には見えるもの」



 鬼灯は少年の足元を指で示して、



「さっきは嘘を言ってごめんなさい。でも貴方のすぐ近くに幽霊がいるのは本当よ」


「!?」


「貴方の足元、犬の幽霊がいるわ。芝犬ね、飼っていたの?」



 少年はパチクリと目を瞬かせると、



「きょ、去年死んじゃったんだ。ケンタって言うんだけど」


「そう。貴方の足に擦り付いてるから、きっと仲良しだったのね」



 鬼灯は「その子と仲良くね」と告げ、西の森に足を踏み入れた。


 それまで聞こえていた蝉時雨が、パタリと止む。

 森の空気はひやりとしていて、不気味な気配が肌を撫でる。ユーイルも永遠子も、初めて訪れる西の森に興味津々の様子だった。


 すると、森の入り口で立ち止まる少年が、



「な、なあ!!」



 少年へ振り向けば、彼はこう言った。



「絶対に、絶対に沼屋敷の幽霊に負けんなよ!!」


「任せて」



 鬼灯は子供らしい応援にくすりと笑って、そう返した。

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