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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第11怪:沼屋敷

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第3話【沼屋敷】

 昼食の素麺そうめんを食べ終わってから、鬼灯は永遠子とわことユーイルを連れて家を出た。


 行き先は西の森ではなく、西の森について情報を知っていそうなバイト先の店主へ会いに行く為だ。

 月無町に古くから住み、駅前に本屋を営業するご老人だ。普段はとてもいいお爺ちゃんなのだが、先程の小学生男子が『月無町つきなしちょう怪談』と銘打たれた雑誌を購入した際はしかめっ面を浮かべていたのだ。


 彼は西の森について特集されているのを「趣味が悪い」と言った。西の森について何か知っていることは間違いない。



「おや、幽ヶ谷(かすがだに)さん。もうバイトは上がったはずでは?」


「はい、そうなんですけど」



 バイト先の本屋へ赴き、バックヤードへ行けば店主である老人が新聞を読んでいた。あまり従業員用の控室が冷えるのも嫌なのか、部屋の中の冷房はそこまで低く設定されていない。

 暑い中を移動してきたので、鬼灯の全身には汗が浮かんでいた。額に滲んだ汗もそのままに、彼女は「聞きたいことがあるんですが」と告げる。


 新聞をわざわざ折り畳んで話を聞く体勢となった老人は、



「何かあったのかい?」


「西の森について、何か知っていますか?」


「…………」



 老人の優しげな表情が、途端に曇った。


 鬼灯の背後に控えるユーイルは「やはり何かあるな」と赤い瞳を輝かせる。

 彼にとっては極上の食事が待っているのだ。幽霊を食らう幽霊となった現在、大人たちがこぞって隠そうとした怪異程度など痛くも痒くもないだろう。


 鬼灯から視線を逸らした老人は、



「その話をしてはいけない」


「何故ですか?」


「あの森は危険だ。軽い気持ちで首を突っ込むものではない」


「理解しています」



 鬼灯は老人を真っ直ぐに見据え、



「でも、教えてもらいたいんです。あそこは何故、危険な場所となってしまったのかを」


「……聞いてどうするつもりだい?」


「…………」



 今度は鬼灯が黙る番だった。


 正直に答えるならば『幽霊を食べる幽霊が自分に取り憑いているので、その食事を提供する為』である。馬鹿正直に答えれば、おそらく老人から変な目で見られることは確実だ。

 だが、それ以外の理由なんてない。出来るならば鬼灯だって大人たちが懸命に隠そうとする事実を暴きたくないし、危険な真似に首を突っ込むような真似も避けたい。


 でも、



「私の家系は、除霊が出来るんです」


「除霊?」


「はい。どんな強力な幽霊でも除霊します」



 鬼灯は真剣な表情で真っ赤な嘘を吐いた。背後でユーイルが「ぶははははははは!!」と笑ったので、あとで殴ることを決める。


 これなら老人も納得してくれるはずだ。

 可能なら、西の森にある沼屋敷とやらを片付けたいところだろう。怯えて、恐れているのであれば除霊が出来ると言っておけばいい。実際、やることは間違っていない。


 ところが、老人は首を縦に振らなかった。



「ダメだ」


「何故ですか?」


幽ヶ谷(かすがだに)さん、君の家が除霊できる系列だとしても無理だ。あそこはもう何人も除霊が出来ると息巻いていた連中が匙を投げ、下手をすれば呪い殺された場所だ」



 それほど危険な場所だったのか、と鬼灯は驚いた。

 沼屋敷というぐらいだから、子供の秘密基地程度にはなっているのかと想定していたのだが、オシラ様の倒壊寸前のお社ぐらい危険か。


 老人は肩を竦め、



「若い子の命を、ここで潰すことは出来ん。諦めなさい」


「いいえ」



 鬼灯はしっかりと否定し、



「店長、私は大丈夫です。絶対に、何があっても平気ですから」


「何故そんなに自信がある?」


「今までも同じですから」



 旧校舎で出会った女教師を始め、これまで数々の怪異に巻き込まれてきた鬼灯である。今更呪いだの何だのと言われたところで、もう怖さも麻痺してきているのだ。

 それに、鬼灯にはユーイル・エネンという幽霊がいる。彼が沼屋敷に潜む何かを食えば、沼屋敷はもうただのボロ小屋だ。


 意地でも鬼灯が引かないと悟った老人は、そのまま静かに語り始めた。



「あの家にはな、あるんだよ」


「何がですか?」


「人形が」



 老人はゆっくりと語る。



「あの家に住んでいた娘が持っていた市松人形なんだがな、それごよくないものだった。娘は市松人形を抱きながら病気で死に、両親はあの世でも人形遊びが出来るようにと娘の棺に市松人形を入れて焼いたのさ」



 その時のことを思い出すように、



「だがな、戻ってきた」



 老人の表情が曇る。



「人形が五体満足で家に戻ってきたんだよ。捨てても沈めても帰ってくるし、それどころか人形を捨てようとした方法で大人たちが死んでいく。子供たちが触れたらいけないということで、空き家に人形を移して封印した」



 そこで老人は張り詰めていた息を「はあー」と吐き出し、



「あの家の周りは沼があるんだがな、市松人形が渡ってこないようにという意味合いがある。さすがに人形も汚れることは嫌うと思ってな」


「では、あの家には誰も住んでいないんですか?」


「いいや?」



 老人の否定で、話の内容が怪しくなってきた。



「沼屋敷が出来て数十年となるが、最近になって沼屋敷に人影が確認されるようになった。あれが誰なのか不明だが、よからぬものだとは思う」



 老人は首を横に振って、ため息を吐いた。



「霊媒師だの、神主だの、巫女だのが挑んでも無駄だった。全部呪い殺されてしまった。封印の力が弱まっているから強めてもらおうとしてもダメだった。多分、沼屋敷に住んだ何かが阻害しているんだろうな」

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