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Horror Dinner 〜××高校の放課後怪奇譚〜  作者: 山下愁
第10怪:帰ってきた

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第2話【休日の予定】

幽ヶ谷(かすがだに)



 放課後になり、下校の準備をしている最中だった。


 女子生徒たちが教室の入り口に注目し、何故か黄色い歓声を上げる。

 彼女たちに構うことなく、相手がご指名したのは鬼灯だった。特に意味もなく地味に生きている鬼灯に、果たして誰が何の用事で呼んだのか。


 ふと顔を上げれば、白衣を身につけた黒髪の男性教諭が鬼灯に手招きをしていた。



「あ、黒海先生」


「ちょっと来てくれ」


「?」



 相手は後輩たちの授業で生物を担当している教員、黒海音弥くろうみおとやだった。しかも何故か自分に手招きをしている始末である。


 ユーイル関係で何かあったのだろうか。

 その責任を、鬼灯に取らせるのは間違いだと思う。鬼灯は基本的にあの銀髪赤眼の男子生徒による食事に巻き込まれているだけで、鬼灯自身は何もしていないのだ。


 ひっそりと嫌そうな表情を見せながら、鬼灯は入り口に携帯電話を握りしめながら立つ音弥に近寄る。



「何ですか」


「お前、明日からの三連休に何か予定はあるか?」


「予定ですか?」



 明日から三連休なのだ。

 高校生ならば都会のどこかへ遊びに出かけたりするだろうが、生憎と鬼灯に予定はない。遊ぶような友人もいないのだ、悲しい事実である。


 鬼灯が何も答えないでいると、音弥は「よかった、暇だな」と決めつけてくる。これで予定があったらどうするつもりなのだろう。



「実は、知り合いにリゾートホテルで働いてる奴がいて」


「リゾートホテルですか」


「海沿いに建っていて、海が見えることで有名なホテルなんだがな」



 携帯電話を片手にして困った様子の音弥は、



「そのリゾートホテル、海に面した全部の部屋の窓をベニヤ板で封じているらしい」


「リゾートホテルって眺望が売りですよね? 自分から利益を減らすような真似をしてどうするんですか?」


「ホテルの支配人も参ってるみたいなんだよ」



 そこで、と音弥は鬼灯を指で示し、



「手っ取り早く、入祢いるねの奴にリゾートホテルの幽霊を食ってもらおうと思ってな。幽ヶ谷(かすがだに)も来い、バイト代なら出すって支配人も言ってるしな」


「いいんですか? 私までついて行っちゃって」


「むしろ大歓迎だろ」



 鬼灯は幽霊を引き寄せる不思議な体質で悩み、鬼灯に半ば取り憑いた状態である銀髪赤眼の男子高校生の幽霊――ユーイル・エネンは幽霊を食らうことが出来る。むしろ幽霊を食うことだけを目的としてこの世を彷徨さまよっていると言っていいだろう。

 なるほど、手っ取り早くリゾートホテルの幽霊を鬼灯が引き寄せて、ユーイルが食らえば、ちゃんと経営が出来るという魂胆か。除霊に使われるとは思っていなかった。


 少し考えてから、鬼灯は結論を出す。



「分かりました、ユーイルと永遠子を連れて行きます」


「当日は俺もいるから、車で迎えに行く。宿泊の準備だけしておいてくれ」


「はい。当日はよろしくお願いします」



 そんな感じで結論を出したが、何故か女子生徒たちからの冷ややかな視線に鬼灯は寒気を感じるのだった。



 ☆



「なるほど、次なる食事はリゾートホテルにあると」



 事の顛末を話した鬼灯は、大きめの鞄に数日分の衣類や寝巻きを詰め込んでいく。「他に何か必要なものはあったっけ……」と呟けば、鬼灯の親友である青柳永遠子あおやぎとわこが歯磨きセットを差し出してくる。

 荷造りを手伝ってくれる親友の何と健気なことか。やはり空中でシンクロナイズドスイミングをする銀髪赤眼の男子生徒ことユーイル・エネンより印象はいい。


 ユーイルは空中でシンクロナイズドスイミングを披露しながら、



「なるほど、月無町つきなしちょうから出られるかどうか試すついでだ。いつもの場所とは違うところで食事をするのも乙なものだな」


「連れて行きたくなくなるわ……」


「オマエ、オレを連れていかなければ裸で百鬼夜行を相手にするようなものだぞ」


「例え」



 鬼灯は心底嫌そうな表情で、嫌な例え方をしたユーイルを睨みつける。



「何でそんな嫌な例えしか出来ないのよ」


「む、おかしかったか? 事実だから仕方がなかろう」



 ユーイルはズイと鬼灯に顔を近づけて、



「オマエに幽霊を祓う能力がなければ、必然的にオレへ頼るしかなくなる。取り憑かれて頭をおかしくして終わるぞ、もしくは――」



 赤い瞳を眇めて笑うユーイルは、さらに言葉を続けた。



「今回は海が近いからな。海に引っ張り込まれて命を終えるのではないか?」


「…………」



 実際、鬼灯に幽霊を祓うような能力はない。彼女にあるのは幽霊を引き寄せるぐらいだ。

 幽霊を撃退できる可能性を持っているのは、ここにいる銀髪赤眼の男子生徒ぐらいのものだろう。彼が幽霊を食えば全て解決するし、彼自身も飢えを満たすことが出来るので一石二鳥だ。


 意地悪は言えない、ということである。幽霊を前に、鬼灯は何も出来ない。



「他のお客さんに迷惑をかけちゃダメだから」


「そもそも見えんだろう、オレの存在など。心霊写真なら分からんがな」


「黒海先生に監視を任せようかな」


「アイツだと遠慮なしにぶん殴ってくるではないか!! 鬼灯よ、オマエはついに悪魔へ魂を売り払ったのか!?」


「そこまで言うの?」



 ぎゃーぎゃーとやり取りをしながら荷造りをする鬼灯と、天井付近で地団駄を踏みながら音弥の監視に対して我儘を叫ぶユーイルを見ながら、永遠子は朗らかに微笑みながら呟いた。



「何だかんだ、仲がいいよね」

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