第7話【解体作業】
鬼灯はいつも見ているだけだった。
ごりごり、ごりごり。
ぐちゃ、ごり。
ぼきっ。
ぶちぶち、ぶち。
ジタバタと暴れる警察官モドキを銀色のナイフで解体し、とても美味しそうに食事をするユーイルをただ見ているだけだった。
もう慣れてしまった、彼の食事には。
音こそ汚く聞こえるが、ユーイルの食事風景はいつも綺麗だ。銀色のナイフで幽霊を解体して、骨の一欠片すら残さずに胃の腑へ収める。
「今回はどんな味?」
「洋食だな」
ユーイルは警察官モドキの足を食いながら、
「トマトを使った料理のようだ。オムライス、ナポリタン、ミートソース……どれも美味い」
「そう」
幽霊が鬼灯の食べるものと同じ味がするとは到底考えられないが、まあユーイルにはユーイルの味覚がある。こればかりは適当に相槌を打つ他はない。
ユーイルもまた、鬼灯に幽霊を食うように勧めてこない。
彼女が食べられないと知っているのだ。それに、わざわざ自分が確保した食事を分け与える真似はしない。
「ここも解体されるのね」
鬼灯は朽ちた交番内を見渡して、ポツリと呟く。
「邪魔をする幽霊が消えれば、この建物も厄介払いできるだろうな」
「旧校舎も同じ理由?」
「そうだ」
ユーイルは警察官モドキの首に、銀色のナイフを突き立てる。手慣れた様子で順調に解体をしながら、鬼灯の質問に答えた。
「旧校舎の幽霊はオレではない、オレはあそこに縛られているだけだ」
「今では旧校舎に出ないけれど」
「当然だ。幽霊を食べまくって力をつけ、今やオレは旧校舎の幽霊の――――あー、少し下ぐらいの実力の悪霊だ」
「貴方にしては謙虚ね」
いつもは自分のことを過大評価しがちなユーイルが、旧校舎の幽霊と自分の実力を秤にかけて「自分の方が下だ」と言ったのだ。これは紛れもなく旧校舎の幽霊が強いという証左である。
だが、鬼灯は旧校舎の幽霊を知らなかった。今まではユーイルがその幽霊だと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
ユーイルはもう残り少なくなった警察官モドキを口に運びながら、
「旧校舎の幽霊はオレでも分からん。男でもなく、女でもない。そんな存在だ。ただオレの身体を奪うほどの実力はある」
「身体は無事なの?」
「無事かもしれんが、無事ではないかもしれん」
ひどく曖昧な答えを返すユーイルは、
「旧校舎に関しては知らんことが多い。だが相手が幽霊なら、いつか力をつければ食えるはずだ。邪神さえも食ったオレに食えぬものなどないわ」
「いつもの貴方に戻ったわ」
自信満々な様子のユーイルに、鬼灯はそっとため息を吐くのだった。
それにしても、旧校舎の幽霊とは一体何なのだろう?
それは誰のことを示しているのだろうか?
☆
翌日になったら、交番が工事業者によって解体されていた。
町にとっても、あの交番は邪魔だったようだ。
ならば旧校舎も幽霊を処理すれば、あの交番のように壊されてしまうのだろうか?
「壊せるのかな」
解体されていく交番を黙って見届けながら、鬼灯は小さく呟いた。




